第36話 お願い

(なんで・・・? なんでだ・・・?)

 必死で西川は考えていた。

(あっ! そうか山上さんか、そうだよな、同じ学校だもんな。当たり前か。あれ?でも山上さんは前田さんのこと知らないって言ってたはずだけど・・・。さては何かあったんだなこのふたり・・・。)

 考えてみればその可能性は大いにあったはずで、いたって単純なことであった。そもそも明日香にこの話をしたのは自分自身だったにもかかわらず、西川は驚いて動揺していたようだが、ここは冷静を装い落ち着いた口調で話した。

「山上さんから聞いたんですね。」

「山上さん? それって誰ですか」

 園子は表情を変えないで答えてきた。

(えっ、違うのか? いやでも思い当たるのはそこしかないんだけど・・・。)

「山上さんのこと前田さんは知らないんですか? この前レジに来てた。」

 続けて西川が聞いた。

「あー、あの人が山上さんなんですか? そう言えばうちの学校の制服着てましたね。そのことは覚えています。」

 園子は無表情のまま返してきた。

(これは手ごわい、この話しててもらちがあかないぞ、ここは話題変えよう。)

「そうなんですか。山上さんとは知り合いじゃないんですね。それならそれでいいんですけど。」

 西川の言葉にかぶせるように、園子は表情を変え微笑んで聞いていた。、

「じゃあ誰に聞いたか知りたくないんですか? さやかかもしれないじゃないですか。」

 西川はここでさやかの名前が出てくるとは全く考えていなかったため、完全に不意をつかれた感じになってしまい、動揺の色がもろに顔に出てしまった。

(やばい・・・。)

「さやかから聞いたって思うのが普通なんじゃないですか? それともさやかは絶対にそのことは言わないってことなんでっすか? 私が知りたいのはそのことなんです。」

 園子は少し前のめりになって西川に迫ってきていた。

(どうしよう完全につんでしまった。もう誤魔化せない・・・。)

「嘘ですよ、私は店長のこと好きですから、もういじめるのはやめます。今の店長の顔見てたら私の方が悲しくなっちゃいますから。」

 ようやくいつもの園子の話し方に戻って椅子に深く座り直していた。 

「なんか、ありがとう・・・。」

 西川には力なく言葉を返すしていたが、その後は黙ってうつむいてしまっていた。

「お礼なんかいらないんですけど、ただ私なんだか悔しくて、今日はちょっと店長に意地悪しちゃいました。ごめんなさい。」

 西川は顔を上げると、少し寂しそうに言う園子の顔が見えた。

「前田さんは、いい子なんですね。」

 いきなり西川がそんなことを言ってきたものだから、今度は園子の方がびっくりして顔を赤らめてしまっていた。

「何を急に言うんですか、そんなこと言ったて騙されませんからね。」

 そう言いながらも園子は顔を赤くしたままでいた。

「騙そうなんて思ってませんよ。私の本心です。だって花本さんのこと心配してるから、私にあんなこと言ってきたんですよね。前田さんは本当に優しいですね。そんな友達がいることを花本さんも感謝しなくちゃいけませんね。」

 何かをかみしめるように西川は言葉を発した。

「でも店長ひとつ聞いていいですか?」

 園子は少し言葉に力を込めて聞いてきた。

「何ですか?」

 西川は再び少し怯えた表情で聞き返していた。

「店長とさやかってなんで知り合いなんですか?」

 園子は素直に疑問を口に出してきた。

(なんだ、そこか・・・。)

「それはですね、私が花本さんのお父さんの友人だったからですよ。花本さんがまだ小さい頃家によく遊びに行ったりしてたものですから。多分花本さんはまだ幼稚園か小学校入学したたばかりのころだったと思うんですけど。だから最初ふたりで面接に来た時とか全然気づかなかったんですよ。」

 西川は事実を園子に話していた。

「そうだったんですか? でもそれならふたりとも話してくれてもいいじゃないですか。何で話してくれなかったんですか? それにいつからさやかだってことに気づいたんですか?」

 園子はまた疑問が湧いてきてしまったようで、話がまずい方向に進みそうになってきていたが、何故かそれ以上突っ込んでは聞いてこなかった。

「まあいいか、今日は店長から話聞けたしもういいです。でもこの話、さやかにしてもいいんですか?」

「前田さんが話したければ話してもいいですよ。私にはそれを止める権利はないですから。」

 西川は落ち着いた声で答えた。

「うーん? わからないです。話していいのかどうか、私にはわからないです。だから店長が決めてください。」

 園子は困った顔をして聞くと、西川は園子に顔を近づけていき、耳元でささやいていた。

「じゃあ、内緒にしといてもらえますか。」

「わかりました。そうします。」

 園子は笑顔で答えると、その後何故かモジモジと園子らしくない態度を見せていた。

「それじゃ・・・。」

「どうしたんですか?」

 西川が聞くと、園子は一気に話した。

「そのかわり、私のお願いひとつ聞いてもらってもいいですか。」

 一瞬西川は嫌な予感がしていたが内緒にしてもらうということで無理に笑顔を作っていた。

「わ、私がが聞けるお願いだったらいいですけど。でも時給を上げてくれとかはすぐには無理ですから。」

「違います。そんな事じゃなくて・・・。」

「じゃあ何ですか?」

「私と・・・、私とデートしてもらえませんか?」

 恥ずかしそうにしながら園子は再び一気に言ってきた。

 笑っていた西川の顔が一瞬で硬直していた。

「デート! デートですか? それはどうですかね・・・。」

 西川の表情を見てさやかは言い直した。

「じゃあ友達もつれてきますんで。それでどうですか?」

「友達って花本さんですか?」

 西川は当然さやかのことだと思い聞いていたのだが、園子は首を振った。

「違います。最近仲良くなった子がいるんですよ。もちろんその子もJKですからご安心ください。」

 園子は悪戯っぽい顔をして西川の反応を楽しむように言っていた。

「そうですか・・・。でも・・・。あっ、それに私女子高校生好きじゃありませんから。」

 園子は何か焦っている西川の顔を見て微笑んでいた。

「そうなんですか? まあいです。でもカラオケはOKですよね。」

「まあ、カラオケぐらいなら・・・。」

 西川がボソッとつぶやいてしまうと、園子がすぐに反応した。

「やったー! カラオケ決定。」

 園子は手を突き上げて喜んでいた。


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