第34話 店長は誰のもの?
山上明日香は教室の入り口から顔を突っ込みキョロキョロと何度も何度も何かを確認していた。
しばらくして、そこにさやかがいないことを確認したようだ。
「よしっ。」
そして気合を入れるかのように言って教室内に入ると、一番奥で談笑しているグループのひとりをめがけて進んで行き、恐る恐ると言った感じで声を掛けた。
「前田園子さんだよね。」
声を掛けられた園子は、なんで名前を呼ばれたのかわからずポカンとしていたが、とりあえず答えた。
「はい。そうですけど。あなたは?」
明日香はさやかとよく一緒にいる園子のことを学校内で何回も見ていたので、園子の顔はわかっていたのだが、園子は明日香と全く面識はなく、さやかが野球部の練習に参加していた頃何度か見学しに行っていたこともあったのだが、部員たちは全員練習中帽子をかぶっていたので顔を確認できるレべルでは無く、園子は明日香のことを認識していなかったようだ。
「私はC組の山上明日香です。えーと、さやかとは・・・。」
明日香が言いかけたとき、園子は何かを思い出したようだ。
「あっ! あなた、この前レジでさやかとトラブってた人ね。あなたが逃げるときうちの学校の制服が見えたから、ここの学校の生徒だとは思ってたけど、あなただったのね。」
園子は明日香を指差しながら言った。
「そんな決して逃げたわけじゃなくて、あの時はちょっと・・・。」
明日香はばつの悪い感じになって口ごもってしまっていたが、それでも何とか立て直して聞いていた。
「前田さん、少し話してもいいかな?」
「どうしようかなー?」
園子は少し考えるようにすると何かを察したようで、少しじらすようにしていた。
「そんなに時間は取らせないから、ダメかな?」
明日香は顔の前に手を合わせて何故か、かわいらしい顔になってお願いしていた。
「何そんな可愛い顔してお願いしてるの?」
園子は不機嫌そうに言っていたが、すくっとに立ち上がると、指を1本だして上を指した。
「じゃあ屋上で。」
園子はひとこと言ってさっさと教室を出て行ってしまったので、明日香は慌ててその後を追いかけていった。
「話って何?」
屋上に着くといきなり園子は振り返って聞いてきたが、明日香が自分に聞きたいことは大体想像できていた。
「どうせ、さやかのことでしょ? あなたがほとんど面識の無い私に用なんて、さやかのことしかないもんね。」
(まー、そうなるよなー。誰が見ても不自然な組み合わせだもんな私達。)
苦笑いを浮かべながら明日香は聞いた。
「そうなんだけど・・・。この前、最近のさやかのこと、バイト先の店長さんから聞いたんだけどよくわからなくて、あなたなら何か知ってるかなと思って。」
「そうなんだ。でも私も特別何か知ってるわけでもないんだけど。それより店長からって、店長って西川店長のこと?」
園子は変なところに食いついていていた。
「そう。あの後お店に戻って色々と話したんだけど、店長さんもなんだかすごくさやかの事心配してくれてたんだ。すごく親身になって考えてくれてるみたいで、あの店長さんていい人だねー。なんか優しそうでいい感じの人だったけど。」
「そうでしょ。そうでしょ。店長って本当にいい人なんだよ。話してるとなんか心が暖かくなってくるんだよねー。本当にいい人なんだよ。」
大袈裟に身振り手振りをつけて明日香は空を見上げていると、明日香も何故か園子と同じ様なことを西川から感じていたようで少し顔を赤らめていた。
「あぁ、それ私もわかるような気がする。確かに話しててそんな感じがした。じゃあみんなに好かれてるんだ、あの店長さんは・・・。」
「ちょっと、私の店長取らないでよね。」
そんな明日香のことを見て園子が声を大きくしてきた。
「そんなこと言ってないじゃん。でもあの店長さんてあなたのものなの?」
明日香は素朴な疑問を言い返した。
「まだそんな感じじゃないけど・・・。でもなんかあなたとは気が合いそうね。私のことは園子って呼んで。」
園子は何故かいきなり明日香に対して仲間意識が芽生えたようだ。
「じゃあ、私のことは明日香って呼んで、私もなんか園子とは気が合いそうな気がしてきた。」
「でも明日香いいなー。」
突然園子が大分言葉を省略して言ってきたので。明日香は何のことを言われたのかわからず首をかしげていた。
「なんで?」
「だって、店長とふたりでじっくり話したんでしょ。私なんて挨拶して、たまに売り場でちょこっと立ち話するぐらいなのに、ずるいよー! でも、ねえ、ねえ、ふたりでどうしてたの? どんな話したの?」
明日香は続け様に質問されて困惑していた
表情を浮かべていた。
(私が聞きたいことあるって呼び出したのに・・・。それに店長さんの事じゃなくてさやかの事を聞きたいんだけど・・・、でもここは話し合わせて。)
「色々話したよ、応接室でふたりっきりで・・・。」
明日香は園子をあおるように言うと、その言葉にのせられて園子は大げさに怒っていた。
「何、何、何、応接室でふたりっきり! それは許せない。」
明日香は続けた。
「それから・・・・・。」
わざとためにためてさらに園子をあおるだけあおってから真顔になって答えていた。
「当たり前だけど特に何もなくて、たださやかの話してただけだよ。」
それを聞いて園子は何故かがっかりしたようにして、口をとがらせていた。
「なーんだ、つまんない。」
「園子、何を期待してたの? ってか、何かあったらそっちで怒るのが普通じゃないのかな? 園子おかしいよ! ははは!」
明日香は笑っていると、何故か園子も笑いだして、しばらくふたりとも笑っていたが、やがてふたりは屋上に座り込んでいた。すると明日香が何かを思い出したようだ。
「あっ、そう言えば、さやかと店長さんってさやかがが小さい頃からの知り合いなんだってね。」
「えっ、そうなの。」
園子は予想もしなかった事を聞かされたものだから、驚いて動揺が表情に出ていた。
「さやかそんなこと何も言ってなかったけど・・・」
「そうなの? なんでだろう?」
ふたりはそれぞれ頭の中に大きな”?”が浮かんでいたようだ。
「それとわたし店長さんに、園子ならさやかのこと、色々知ってるんじゃないかって言っちゃった。迷惑だったかな? 迷惑だよね?」
園子は少し考えてから答えた。
「全然いいけど。ふーん。多分さやか何か隠してるな。そして店長も。よし、今度私が店長に色々聞いてみるよ。何かわかったら明日香にも教えてあげる。」
園子は何か企んでるような目になって、明日香に背を向けて何かぶつぶつ言っていた。
「ありがとう、私もわかったことあったら園子に教えるよ。じゃあ連絡先交換しない?」
明日香は園子の返事を待たずにスマホを取り出すと、園子も振り返り何のためらいも無くスマホを差し出した。
「いいよ。」
すると明日香が園子のそばに近づいて行き、顔をのぞき込んで笑顔で聞いていた。
「ねえ園子、今度いっしょにカラオケ行かない?」
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