第31話 前田さん?
「そうだったんですか。」
西川が笑顔になってうなずいていると、明日香に聞かれた。
「でも店長さん、”さやかちゃん” ってずいぶん親し気な呼び方ですね。」
(もう、さやかちゃんが店の外ではさやかちゃんて言えっていうから、どっちで呼んでいいかわからなくなっちゃたよ・・・。でも普通に考えたらおかしいから、ここは何て答えたらいいんだ・・・。)
「いやー、それは・・・、あのう・・・。」
返答に困ってしまっていると、その様子を見て明日香は悪戯っぽく言って笑っていた。
「それってセクハラですよ。」
「違いますよ! 違います!」
西川は大きなリアクション付きで慌てて否定すると、ますます明日香は笑っていたが、西川は真面目に事実を話すことにした。とはいっても話せる範囲内でのことのみであるが。
「実は、さやかさんのお父さんと私は友人で、さやかさんが小さい頃からの知り合いなんですよ。たまたま今は同じ職場で働いていて。本当はダメなんですけどたまに出ちゃうんですよ、”さやかちゃん”て。」
西川は当たり障りない事実を言うと、明日香はまだ少し疑いの目をしていたが何となく納得して、西川のその言葉を信じてくれたようだった。
「へえ。そうだったんですね。」
「はい。えーと山上さんでしたよね、少し花本さんのこと、お話聞かせてもらえませんか?」
今度はさらに真面目さを増したような顔をして言っていたのだが、明日香は西川の顔とは正反対にのような悪戯っぽい顔をして、西川の顔を覗き込んできた。
「えー、これってナンパですか?」
「な、な、何を言ってるんですか。違いますよ。大人をからかわないでください。」
西川は顔を真っ赤にして必死に否定していると、明日香はその西川の慌てぶりを見て笑っていた。
「冗談ですよ、冗談。あーおかしい。店長さん真面目な方なんですね。店長さんなら信用できそうなんで、いいですよ。」
急に素直になり答えると、真顔に戻って明日香は西川に一歩近づいて続けた。
「私もさやかの最近のこと知りたいんですよ。教えてもらえますか?」
西川はその距離に顔を赤らめると明日香から少し距離をとっていた。
「ではここで立ち話もなんですから、よろしければうちのお店の応接室でお話ししましょう。」
西川の誘い?にまたまた明日香は悪戯っぽい顔をして見せた。
「えっ、ふたりっきりで密室の応接室ですか? 身の危険を感じるんですけど。」
「もう勘弁してくださいよ。さっき信用できるって言ってくれたじゃないですか。それに、うちの応接室なんて事務所のすぐ横で、がやがやした場所にあるんで、絶対に何もないですけど、もし何かあってもすぐに人が来ますから。」
西川はうんざりした顔をしながらも、明日香に向かって必死に説明すると、これには明日香も申し訳なく思ったのか、すぐに謝っていた。
「ごめんなさい。」
「本当にそういうのやめてくださいね。でもどうしてそんなこと言うかなー?」
首をかしげて言うと、明日香が笑いながら言ってきた。
「だって店長さんJK好きそうに見えたから。」
(俺ってそんなに女子高校生好きに見えるのかなー?)
西川は首をかしげながら、明日香をうながしていた。
「とりあえず、行きましょうか。」
ふたりはあずまやに戻ると、さやかに気付かれないよう気をつけながら応接室へと入っていった。
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「そんなことがあったんですか。」
西川は明日香の話をひと通り聞いて、大きくうなずいていた。
「それで最近のさやかはどうなんですか?」
今度は明日香が西川に聞いてきたので、西川は自分の知っている最近のさやかのことを、アルバイトの話、先日の事件の話等を話していたが、あの事だけは言っていなかった。いやいえるはずがなかった。
(「私はコウちゃんのことずっと好きだったの」)・・・
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「そんな感じなんですね、最近のさやかは・・・。」
明日香は西川の話を聞いた後顔に手をやって考え込んでしまっていた。
「今は部活にも全然近づこうとしないし、私達ともほとんど口をきかないし・・・、よくわからないんですよね・・・。」
そう言いまた考え込んでしまうと、西川も明日香と同じ様なポーズをとって考えて込んでしまっていた。
「そうなんですか。」
しばらくふたりの間に沈黙が続いたのだが、急に明日香が何かを思い出したように声を出した。
「そうだ、もっとさやかのこと知ってる人がいます。」
「えっ、誰ですか?」
何かを期待して前のめりになって西川が尋ねた。
「前田さんです。前田さんは、さやかとよくいっしょにいて話しているみたいだから。」
「前田さん?」
西川には何か聞き覚えのある名前だったようだ。
「前田園子さんです。確かさやかとは幼馴染だったと思うんですよ。私は話したこと無くて、あまりよくは知らない子なんですけど・・・。」
「あぁ、前田さんですね。うちのお店で、花本さんといっしょにアルバイトしている前田園子さんですよね。確か面接のときに、ふたりは幼馴染だとか言ってたような。」
当然園子のことは知っている西川は記憶たどり寄せて言っていた。
「えっ、そうなんですか? じゃあ前田さんにも聞いてみるといいんじゃないですか。彼女なら色々知ってるかもしれませんよ。」
明日香も何かを期待するような言い方をして西川に言っていた。
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