第30話 チームメイト
さやかと園子は今日は久しぶりにふたり揃ってアルバイトに入っていた。
強盗事件から数日がたち、ふたりともそのことは少しづつ記憶のなかから薄れてきていて、レジでの通常業務をこなしていると、さやかのレジに1人の制服を着た少女が来た。
「これ下さい。」
少し緊張した声で言うと、商品を1つ力強くレジの台の上に置いた。
「はい。いらっしゃい・・・」
さやかはその少女の顔を見て驚き、言葉を止めてしまった。
「さやか、どういうつもり、いったいいつまで部活休んでるの。」
その少女はさやかに近づき小声でささやくように言っていたが、さやかは無表情でその問いかけには答えず、品物を手にとると商品についているバーコードをスキャンした。
「158円です。お客様ポイントカードはお持ちですか?」
さやかは事務的に言葉を発していた。
「さやか。ちゃんと答えてよ。」
その少女が少し声を荒げて言うが、さやかは同じ台詞を繰り返し言っていた。
「158円です。お客さまポイントカードはお持ちですか?」
「あんたねー。みんな心配してるんだよ。どういうつもり?」
その少女の口調はさらに強まっていた。
(みんな心配している? 何を? 誰を?)
さやかの固く閉じていた心は園子や京子、そして西川のおかげで少しづつその重い扉を開き、光が差しこもうとしていたのだが、人は他人から自分が嫌だと思っている事を言われると拒絶してしまい、意固地になってしまうもので、さやかの心もせっかく開きかかった扉をまた閉じようとして、差してきていた光を今まさに遮断し始めてしまっていた。
「うるさいんだよ。」
さやかは下を向き小さい声でつぶやいた。
「ねえ、さやか聞いてる!」
少女の声はさらにエスカレートして大きくなると、その直後限界に来ていたさやかは、思わず店内に聞こえるほど大声で怒鳴ってしまっていた。
「うるさいんだよ! ほっといてよ! あなたたちには関係ないでしょ!」
さやかは一瞬”しまった。”という顔をしたのだが、時すでに遅くその声を聞いた周りの客がざわつき始めてしまっていた。当然その声とざわつきは店内にいた西川にも聞こえていて、すぐに西川はさやかとその客のいるレジに駆けつけていた。
「お客様何かございましたか?」
お客の方を見てみると、さやかと同じぐらいの年齢に見えた。そして背負っているバッグには、
”明央女子 BASEBALL CLUB”と書かれているのが目に入ってきた。
(野球部? さやかちゃんと同じ学校?。)
しかしその少女は西川の問いかけには反応しないでいた為、西川が再度尋ねた。
「お客様何かございましたか?」
「何でもありません。」
その少女はそれだけ言って、駆け出して行ってしまった。
「お客様!」
西川は離れていくその少女をの後ろ姿を目で追いながら、一瞬さやかの方を見たが、すぐにその少女を追いかけ走り出していた。
店内はざわついていたが、さやかはレジの中に立ったまま無言でうつむいていた。
(私の気持ちなんてどうせ誰もわからないんだよ。)
再びさやかの心の扉は固く完全に閉ざされてしまった。
「さやか、どうしたの?」
となりのレジにいた園子が声を掛けてきていたが、その声はさやかには届くことなく、さやかは無言のままバックヤードへ向かって走って行ってしまった。
「さやか・・・。」
園子は心配そうにつぶやいていたが、追いかけることはできないでいると、木村が遅れて異変に気付き売り場に飛び出してきたが、事態を把握できないでいた為、そこにいた園子に聞いていた。
「どうしたの?何があったの?」
「わかりません。」
園子はひと言だけ言うと自分の担当するレジに戻って行った。
「えっ!」
木村はおろおろしながらもまわりを見て、状況は理解できてはいなかったが、とりあえずざわついていた客に向かって頭を下げていた。
「お客様ご迷惑をおかけしました。何でもありませんのでご安心ください。」
「お客様!」
店から飛び出した西川は、店を出て少しのところでその少女を見つけ 必死で追いかけていた。
「お客様。お客様お待ちください! お話をお聞かせてください!」
だがその少女はいっこうに止まってはくれなかった。それでもあきらめずに追いかけると、その少女は大きなバッグを担いでいて、走りにくそうにしていた為、ふたりの距離はみるみる縮まっていき、西川は少女のすぐ後ろまで追いついた。
「お客様止まってください。”さやかちゃん”と何があったんですか?」
(”さやかちゃん”?)
その言葉に反応し、少女は足を止めた。
「はあ、はあ、足速いですね。さすが野球部、鍛えられてますね。」
息を切らして膝に手をつきながら西川が言うと、対照的に息を切らすことなく驚いた顔をして少女は立っていた。
「えっ!なんで?」
「はあ、はあ、失礼でしたが、バッグにそう書かれていたものですから。」
西川はまだ息を切らしながら言うと、少女は持っていた自分のバッグを見て笑顔を見せていた。
「あー、そうですよね。ははは。」
「申し遅れましたが、わたくしスーパーあずまやの店長西川浩二と申します。この度は当店の従業員が、ご迷惑をおかけしたようで申し訳ございませんでした。」
ようやく息が整った西川は深々と頭を下げていた。
「やめてください。頭を上げて下さい。ご迷惑なんて・・・。別に・・・。」
少女は恐縮してしまい口ごもってしまっていたが、すぐに背筋を伸ばして西川に向かって自己紹介をしていた。
「あっ、私はさやかの友人で
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