第29話 励ましてあげよう
「今日はさやかを送っていただいて、ありがとうございました。」
その京子の声をさやかは玄関のなかで聞き耳を立てて聞いていた。西川が京子に怒られるんじゃないかと心配してそこにとどまっていた。
「本当に申し訳ございませんでした。」
「コツ、コツ、コツ。」
京子が戻ってきているのをさやかは感じ、慌てて家に上がって自分の部屋に飛び込んでいった。
(あれ?)
・
・
・
(ママは別にそんなに怒ってなかったような? あまりコウちゃんと会話してなかったみたいだからよくわからないなー・・・? いやきっとそうだ、ママはコウちゃんのことを色々知ってるから怒らなかった、いや怒れなかったんだ。)
「そ、そうね、ママも普通には怒ってたかな? 多分・・・。」
「多分ってどういうこと?」
園子が突っ込んできたが、さやかは少し声を大きくして誤魔化すように言っていた。
「多分は、多分だよ!」
「そうか、やっぱ怒られちゃったんだ。店長かわいそう。」
園子は何故か腕を組んで憐れんだ表情を浮かべているのをさやかは見ていた。
(なんでそうなるかな、多分って言ったのに・・・。)
「ねえ、さやか、私達で店長を励ましてあげようよ! あんなに怒られて、ぜったい落ち込んでるよ! 店長かわいそうだよ! ねえ、そう思わない?」
急に園子はまっすぐな目をして聞いてきていたのだが、さやかは園子の言ってきていたことには大枠賛成であったが、でも励ますと言ってもどうすればいいのかはわからないでいた。
「店長ってJK好きだよね。」
いきなり園子は変なことを言ってきた。
「えっ、何それ?」
「だってこの前も駅で私たちの制服姿見て喜んでたじゃん。だからクラスの子たち連れてお店に行って、パーティーとかしちゃう! どうかな?」
さやかは女子高校生に囲まれて鼻の下を伸ばしている西川を想像してしまい、語気を強めていた。
「ダメ! 却下! 絶対にダメ!」
「えー、いい案だと思たのになー。絶対店長わたし達JKに囲まれたら、元気出ると思うのになー。」
すごく残念がっている様子の園子を見てさやかは少し疑問が湧いてきていた。
「ねえ園子はいいの? 店長が女子高校生に囲まれて、にやけた顔してるの見てもなんとも思わないの? 店長のこと気になるって言ってたじゃん。」
さやかは聞くと、逆に不思議そうな顔をして園子は答えた。
「うん、全然平気、だってそれで店長が元気になってくれれば、私のそんなことなんてどうでもいいじゃん。さやかだってそう思うでしょ?」
「えっ、私は・・・。」
さやかは言葉に詰まってしまった。
(園子は・・・、園子は本当にコウちゃんのことを本当に心配して、励ましてあげようと思ってるんだ。自分の気持ちを押し殺してまでも、それなのに私は・・・、私は自分のことばかり考えて、まわりにの人のことなんかちっとも考えててなかった。情けない。)
「そうだね、園子は優しいね。私も店長が元気になってくれれば、それでだけでいいよ。」
さやかは静かに答えた。
「じゃあ決まりね。よしクラスのみんなに声かけてみんなで押し掛けちゃおう。」
園子は張り切って大きな声を出して立ち上がってていた。
(でもなー・・・、囲まれるてのはなー・・・。)
さやかはまだ振り切れてない気持ちがどこかに残ってしまっていたようだ。
「でも園子、そんなにお店に押し掛けたら逆に迷惑かけちゃうから、ねえ。」
やんわり言うと、園子は床に座り込んで再び腕を組んで考えていた。
「じゃあ仕方ない、ふたりで行っちゃう制服着て。」
ベッドに腰かけていたさやかを下からのぞき込むようにして言うと、さやかは曖昧に返事をしていた。
「それは・・・。」
「いた。いた。さやかいくよ。」
ふたりは売り場にいた西川を見つけると早足で西川に向かって進んで行った。
「店長、おはようございます。」
元気よく園子が声を掛けた。
「あっ、おはようございます。今日は学校帰りかな?」
西川はふたりに向かって答えると、園子はくるっとターンして見せた。
「そうです。学校帰りのJKです。どうですか?」
西川はそう言われたのだが意味がよくわからなかったようで聞き返していた。
「”どうですかって?” なんですか?」
「だから、どうですか?」
園子はあらためて声を大きくしていたが、西川が無反応なのを見て慌ててさやかに救いを求めるように言った。
「ちょっと、さやかも!」
そしてさやかの手を引き自分の横に並ばせると、合わせるようにポーズをとった。
「せーの! 店長、いかがですか?」
再び園子は聞いてきたが、横にいたさやかは苦笑いをしながら軽くポーズをとっていた。
西川はそのふたりをポカンと口を開けたまま見ていた。
「おはようございます。」
さやかはひとりで事務所に入ると、西川が机でパソコンの画面に向かって仕事をしていた。
「花本さん、おはようございます。あれ、前田さんは?」
「前田さんは今日はバイト入ってません。」
「そうなんだ、さっきいたから。てっきり今日出勤かと思った。」
西川は出勤票を確認していた。
「前田さんは、少しでも早く店長を励ましたくって、そのためだけに休みなのにお店に来たんですよ。」
さやかが言うと、西川は少し困ったように言っていた。
「そうだったんだですか、でも驚きましたよ。はじめ何やってるのかわからなくって、私ってそんなに女子高校生好きに見えるますかねー。」
口ではそう言っていたが西川の顔は少し緩んでいるようにさやかには見えていた。
「この前制服の私たちをジロジロ見るから誤解されたんじゃないですか、でも一応私も女子高校生なんですけどね。」
さやかはすねた感じで答えていた。
「でも、前田さんは優しいですね。バイト入って無いのにわざわざ来てまでして、私のことを元気にしてあげようなんて思ってくれるんですから。そう思うとなんか元気が出てきましたよ。」
西川は誤魔化すように言うと勢いよく椅子から立ち上がっていた。その西川の姿を見てさやかも自然と笑顔になった後、真剣な表情になって考えていた。
(そうなんだ、園子もコウちゃんもママもみんな人に対して優しいんだ。でも私は・・・。)
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