第28話 急なお客様

「ママ、ちょっとコンビニ行ってくる。」

 さやかはリビングにいる京子に声を掛けると、心配そうに京子は聞いてきていた。

「大丈夫なの?」

 さやかは昨日の今日と言うこともあって、大事を取って学校を休んでいたのだが、京子もさやかを心配して休暇を取って家にいた。

「全然大丈夫、絶対、学校だって行けたのに! ほら元気でしょ!」

 さやかはべたな表現で力こぶを作るポーズを京子にして見せると、元気な声を出し出掛けて行ってしまった。

「行ってきます。」

「はい、行ってらっしゃい。」

 さやかはあきれた表情を見せながらも静かに見送っていた。

(昨日はビックリしちゃったけど、元気で良かった。そうだ! コウちゃんにももっと言ってあげればよかった・・・。でもなんかコウちゃんには言いにくいのよねえ。)

   ・

   ・

   ・

「申し訳ございません。さやかさんを危険な目に合わせてしまいまして、本当に申し訳ございませんでした。」

 西川は深々と頭を下げて京子に詫びると、京子は黙ったまま何も言わずにさやかに近づき、そっとさやかの肩に手をのせ、さやかに家に入るようにうながしていた。

 さやかは西川の方を振り返り、軽く会釈するとそのまま玄関から家の中に入って行っいった。京子はさやかが家に入ったのを見届けると、数歩西川に近づき短く言葉を掛けた。

「今日はさやかを送っていただいて、ありがとうございました。」

 それだけ言うと京子は西川に背を向け、玄関のドアに向かって進んで行ってしまった。西川は京子の背中に向かって先ほどよりより深く頭を下げた。

「本当に申し訳ございませんでした。」

 しばらくそのままの体制でいたると、京子は西川の方を振り向いていたが、西川は京子の顔をこれ以上見れないと思いそのまま動けないでいた。

   ・

   ・

   ・

「ピンポーン。」

「はーい。はい、はい。」

 京子がリビングのインターフォンもモニターを覗くと、いつもの元気な声で挨拶している園子の顔がモニターいっぱいに映し出されていた。

「こんにちは!」

「ガチャ。」

 京子が玄関のドアを開けると、京子の顔を見てさらに元気な声になって園子は挨拶してきた。

「おばさん、こんにちは!」

「あら久しぶりね、園子ちゃんいらっしゃい。今日はどうしたの?」

 京子は笑顔で聞くと、園子も笑顔で答えた。

「さやかのお見舞いです。」

「そうなの、せっかく来てくれたのに、今さやか出掛けてるのよね。でもコンビニって言ってたからすぐ帰ってくると思うんで、あがって待っててもらえるかな? どうぞ。」

「はい、お邪魔します!」

 園子は元気に返事をすると家の中に入って行った。



 さやかは近所のコンビニで買い物を済ませると、時々ため息をつきながら家に向かって歩いていた。 

「はぁー。」

(あぁ、なんかコウちゃんに悪いことしちゃったなー。私自分のことばかり考えてたもんなー。コウちゃんのことなんて全然考えてなかったなー。あれ? でも私はコウちゃんのことよく知らないな。私が知ってるのはあのアルバムの中のコウちゃんと、夢に出てくるコウちゃん、そして今のコウちゃん。その間にとてつもなく長い空白の時間があるんだよなー・・・。そうだママなら知ってるかも・・・、でもなんか聞きにくいなー。ママは何か勘づいてるみたいだし・・・。)

 さやかは家に帰る途中、そんなことを公園のブランコに腰かけて考えていたが、なかなか結論的な事にはたどり着けず、結局モヤモヤしたままブランコから腰を上げて再び家に向かって歩き出していた。


「ただいま。」

 さやかは玄関に入ると見慣れない靴がそこにあった。

(あれ? 誰か来てるのかな? お客さんかな?)

 そう思いながらリビングに入って行くと、楽しそうに話している京子と園子の姿が目に入ってきた。

「そうなんだ、アルバイト楽しそうね。」

「はい!」

 ふたりの楽しそうな会話が聞こえてきた。

「ただいま。」

 再びさやかは言うと、ふたりは同時にさやかの方に顔を向けた。

「おかえり。」

 声を合わせて言った後、京子がさやかが持っていたコンビニ袋を見ながらが言っていた。

「あら、コンビニにしてはずいぶん遅かったわね。」

「そう? そんなこと無いと思うけど。」

 さやかは適当に返事をしながらも、京子には何もかも見透かされているように感じていたので、大げさに誤魔化すように園子に聞いていた。

「あれー、園子、どうしたの? なんか用なの?」

 園子はそのさやかの不自然な態度を見て、不思議そうな顔をして目をパチパチさせていた。

「どうしたの?」

 

 ふたりはさやかの部屋に移動してきていた。園子はさやかの部屋に来るのは久しぶりだったようで、部屋の中のあちこちを見回していた。

「ちょっと、何見てんのよ。そんなに珍しいものなんて無いよ。」

「あっ、ごめん、ごめん。別にそんなつもりじゃないんだけど、ただずいぶん女の子らしい部屋になったなと思ってさ。」

 園子はまだ部屋を見回しながら言っていた。

「えっ、そうかな。前からこんな感じだよ。普通だと思うけど。」

 さやかは言っていたが、それは嘘であったようで、園子の記憶していたさやかの部屋はどちらかと言うと男の子の部屋と言った感じで、壁や天井にプロ野球選手のポスターが何枚も貼られていて、床にグローブやボールが乱雑に転がっていた部屋であったが、園子はさやかがそう言うのを聞いてそれ以上部屋の話はしないでいた。

「そう、そう、昨日の夜、店長うちに来てさ、パパにこっぴどく怒られちゃってさ、なんかかわいそうになっちゃた。店長が悪いんじゃないのにって言っても、パパ全然聞いてくれなくて。おばさんも怒ってた?」

 園子は話題をを変えて昨晩の話をすると、さやかは昨日西川が来た時のことを思い浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る