第25話 見事命中

 さやかと園子がコンビニの勤務をして1時間が過ぎたころ、園子はレジのカウンター内にいたが、さやかはただふたりしてレジに並んでいても仕方がないと思い、退屈なAマート勤務の時間を少しでも短く感じようにと考え、レジから出て商品の補充と棚に並んでいる商品の整理をしていた。するとその直後大柄で太った男がひとり店内に入って来た。

「いらっしゃいませ。」

 さやかは品出しのためスナック菓子の商品陳列棚前で作業をしていると、その男は、苦しそうに息をしながらさやかの横を通過し店の奥へ進んでいった。

「ハー、ハー、ハー・・・。」

 しばらくさやかは品出し作業を続けていると、園子の大きな悲鳴がレジの方から聞こえてきた。

「キャー!」

 さやかはすぐにレジにいる園子の元へ駆け寄ろうとしたが、レジのカウンターをはさんで園子の目にいる男の手に光るものを確認し、その場にひとまずとどまり状況を確認し静観していた。

(強盗だ。)

 こういった場合、騒いでパニックを起こすことで、より危険な状況になりかねない為、お店のマニュアルにも強盗犯には抵抗してはならないと、教育の時に教わっていたことをさやかは冷静に思い出していたようだ。園子も同じことを考えていたのかその後は騒ぐことなく男の要求通りにレジを開けると、その男はレジ内のお金を夢中でかき集め持ってきたバッグの中に入れてた。その時園子はさやかと目が合った。

 さやかもそれに気付いてゆっくりうなずき、落ち着くように目で合図を送り続けていると、その男はレジからお金を奪い終わり、さやかの横を駆け抜けて店の外へ出て行った。 

「園子、そこのカラーボール取って!」

 さやかは男が店から出て行くのを確認して叫んでいた。カラーボールとは防犯用のカラーボールで、それを犯人にぶつけ塗料を浴びせることによって逃走を困難にするといったものであり、この店にも置かれていたが園子はパニック状態におちいってしまっていたためか、さやかが何を言っているのか理解できずにた。

「えっ?」

「そこのボール! 園子早く!」

 再びのさやかの声でやっと状況を理解し、後ろのカウンターにあるボールを手に取りさやかに向かって下からそーっと投げた。

 さやかは両手でそれをしっかり受け取ると店の外に出て行き左右を見てその男を探すと、大柄で太っているせいなのかまだ店から10メートルくらい離れた場所を男は歩くように走っていた。

(よし、この距離ないける!) 

 さやかは足を高く上げ渾身の力で、そのカラーボールを男めがけて投げ込んだ。

「バンッ!。グシャ。」

 ボールは見事に走っていた男の背中のど真ん中に命中し、中から塗料がふきだし男は背中から足元にかけてオレンジ色に染まっていった。男は動揺して足がもつれてゴロンとその場に転倒した。

「やったー! さやかすごい!」

 園子も店から出てきて、その状況を見て興奮して大きな声を出していると、男は何とか起き上がりもたもたしながらなおも逃走し始めたが、さやかはそれ以上追うことはしなかった、と言うよりさやかはできないでいて、膝をついてひじを抑えて苦悶の表情を浮かべていた。

「さやか大丈夫? 誰かきて! 誰か!」

 園子はさやかに近づいて大声で叫んでいたが、さやかの意識はだんだん遠くなっていった・・・、あの時と同じように・・・、でも今回はあの時とは違った。

「花本さん! 花本さん!」

 聞き覚えのあるやさしい声がどんどん近づいてきていた。

 この騒ぎはすぐにコンビニの店長からあずまやにも伝わり、西川が急いで駆けつけてきたていた。さやかは西川の顔を見て安心したのかそのまま倒れこんでしまい、その拍子にポケットからスマートフォンが飛び出し、そこに入っていたいろいろなものが地面に散乱してしまった。

「大丈夫? さやかちゃん。」

 西川が大きな声をだして駆け寄りさやかを抱き起した。

「大丈夫です。ちょっとひじが・・・」

「ひじ? ほかに痛いところない?」

「大丈夫です。本当に大丈夫です。」

 さやかは苦しそうな表情をして、右ひじをずっと抑えていた。

(どうしてひじ? ひじに何か当たったのかな?)

 西川は不思議に思いながら周りを見回すと、さやかの私物の中に”朝日スポーツ整形外科”という文字が見えた。西川はその文字とさやかのいまの状況を見てある結論を導き出し、そのカードを拾いよく見みると、ここから比較的近い病院と確認できた。

「さやかちゃん、この病院だね。今から行こう。」

(病院に行くとコウちゃんに、私の知られたくないことが知られちゃう。だから絶対にダメ。)

「大丈夫です。本当に大丈夫です。」

 さやかは痛みをこらえて必死に言っていたが、ひじの痛みが激しいのはその表情からもうかがえていた。

「ダメだ! こういう時は大人の言うことを聞きなさい!」

 いつになく強い口調で西川が言ってきたのを聞いて、さやかは観念してうなずいていた。

「立てる?」

 西川が手を差し出すとさやかは再びうなずいてひじを抑えたままひとりで立ち上がった。

「じゃあ今車取ってくるから、ここで待ってて。もし辛かったらどこかに腰かけてて、すぐに戻って来るから。」

 さやかに言った後、西川は現場まで来ていた木村と榊に近づき指示を出し走り去って行ってしまった。

(私のこと知ったらコウちゃんはどう思うんだろう?)

 さやかは心配に思いながらも、言われた通りに西川が戻ってくるのを歩道わきにあったベンチに腰かけて西川を待っていた。

「さやか大丈夫?」

 泣きながら園子が駆け寄ってきて、崩れ落ちながらさやかに抱き着いてきた。園子はさやかに抱き着いたまま、大きい声を出しながら泣き続けていたので、さやかはそっと左手で子供をあやすように優しく頭をなでていた。

「ブーン、キイー!」

 西川の運転する車がふたりの元に到着し、運転席から西川が降りてくると、そのふたりの光景を見て優しい目を向けていたが、すぐに園子は顔を上げ西川に抱き着いてきた。

「前田さんも怖かったね。でも怪我無くて良かった。本当に良かった。」

「店長怖かったです、すごく怖かったです。」

 西川は驚きながらもしっかり園子を受け止め、さっきさやかがしたように園子の頭をなでていた。

「大丈夫だから、もう大丈夫だから。」

 その光景を見てもさやかは不思議と前に抱いたような気持ちにはならずに、ただ西川の優しさだけを感じて笑顔でふたりを見つめていた。

「前田さん、花本さんを病院に連れて行かないといけないんで。」

 西川が言うと園子はすぐに西川から離れた。

「店長! 早くさやかを病院に連れってて下さい!」

「えっ!」

 一瞬西川は声を出してしまったが、すぐにさやかをうながすように声を掛け自らも運転席に乗り込んで行った。

「それじゃ花本さん早く車に乗って。前田さんそれじゃ行ってくるから、前田さんもお店に戻って木村さんのところにへ行ってください。木村さんに色々話してあるから。」

「早く行ってください!」

 園子は一段と大きな声を出していた。

「わかった、わかった。」

 西川は慌てて車を発進させていた。

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