第24話 コンビニ勤務

「おはようございます。」

 今日もさやかと園子はいっしょにあずまやに出勤すると、事務所にいた西川に揃って挨拶をしていた。その後ふたりは順番に壁に貼ってあった今日の勤務スケジュールを確認していた。

「えー! まじか! 今日、私A マートだ。」

 園子があからさまに嫌がっているような声を出して肩を落としていると、さやかは園子の肩に後ろから両手を置きあわれむように声を掛けた。

「はい、ご愁傷さまです。頑張ってね!」

 そして自分の勤務表を確認するために園子を横にずらしてホワイトボードの自分の欄に目をやってみると、

(花本さやか 14時~16時 Aマート)

 の文字が目に入ってきて、さやかは一瞬固まってしまった。

(嫌だなー!)

 言葉にこそ出していなかったがその表情には、拒絶感がにじみ出てしまっていたようで、そのさやかの表情を見て園子はすぐにピンときたようだ。

「はい、ご愁傷さまです。頑張ってね!」

 ほんの少し前に、さやかが園子に言ったそのままの言葉を返してきて、さやかの顔を見てニヤっと笑っていた。

 その様子を奥の自分の席で仕事をしながら見ていた西川がふたりに声を掛けた。

「ちょっとそこのおふたり、そんなにAマート勤務が嫌なんですか?」

 さやかと園子ふたりに聞いてくると、園子はストレートに答えた。

「だってAマートには、西川店長いないじゃないですか。それにAマートの店長うるさいんですもん。なんか暗いし。」

 園子は思っていたことをそのまま口に出していたが 実は最初の部分は別として(本当はさやかもそう思っていたかもしれないが)、同じように感じていたのは事実であった。

「ちょっと前田さん、最初の私のことどうこうは置いといて、Aマートの店長さんってそんな悪い人じゃないと思うんですけどねー。もっと前向きにお願いしますね。」

 「はーい、わかりました。じゃあ行ってきます。」

 園子は西川に向かって手を振りながら事務所から出て行くのかと思いきや再び西川の方を振り返った。

「でも店長、たまにはAマートのほうにも顔出してくださいね。」

 ウインクして言うと今度こそ園子は事務所から出ていったか。さやかも西川に軽く会釈すると、園子に続いて事務所を後にしていた。

 ふたりが事務所から出て行ったのを見送って西川は疲れた表情を浮かべていた。

「前田さんはユニークというかなんというか、ねえどう思います榊さん。」

 事務所にいた榊に聞くと、パソコンの画面を見ながら榊は答えた。

「まー、今どきのJKって感じじゃないですか。」

「そうですね、いまどきの女子高校生ね。私には今どきの女子高校生はわかりませんね。」

 西川は小さい声で言っていた。

(女子高校生ってさやかちゃんもそうだけど、あのふたり全然違うよな。どっちが今どきの女子高校生なんだ・・・? まあ、そんなこと考えてもしょうがないか。)

 西川はすぐに自分のパソコンの画面に向かっていた。


「なんか緊張しちゃった、この前、さやかとあんなこと話したから。」

「えっ?」

 園子は言ってきていたが、どこが緊張していたのだろうか? さやかにはいつもの園子と同じ様にしか見えていなかったようで、少し驚いたような表情を浮かべていた。

「意識すると、ああなっちゃうよね。ねえさやか、そうだよね?」

 続けて園子は聞いてきたが、さやかには園子の気持ちと行動のギャップが理解できずにいたので、とりあえず相づちを打つように答えていた。

「そうだね。」

 


「おはようございます。今日はこちらでの勤務になりました。よろしくお願いします。」

 ふたりはAマートの店長に挨拶してコンビニお勤務につこうとしていた。

「おはよう。」

 先程ふたりが言っていたような感じで、Aマートの店長は目の前のパソコンから視線をはずすことなく、当然ふたりを見ることも無く小さい声でボソボソ言っていた。

 ふたりはわかってはいたこととはいえ、その態度があまりにも感じ悪かった為、何故だかその場にとどまって睨み付けるような目で見てしまっていると、パソコンの画面を見たままふたりに向かって言ってきた。

「いつまでそこにいるの? 早く店に出て!」

「はい。」

 ふたりは何か諦めた感じで返事をして、店長の元から逃げるようにお店に向かって足を進めて行った。


 Aマートはあずまやが経営するコンビニエンスストアで、ローテーションであずまやから応援といった形で勤務することがあり、今日さやかと園子は2時間ほどのAマートでの勤務の予定であった。

 品揃えも大手コンビニエンスストアと比較するとかなり少なく、品揃えに関してはまだ試行錯誤している段階のようた、どちらかと言うと店の雰囲気は小さなあずまやといった感じで、店舗の場所も道路を挟んであずまやの向かいにあり、あずまやの従業員の間では、なぜこの店舗があるのかよくはわからないといった感じであった。それでも最近園子が聞いた話では親会社が、今後コンビニエンスストア業に力を入れて出店を考えているらしく、先程の店長も本社から選ばれて着任していることからもわかるように、まずはこの店鋪で今後の礎になるための様々な取り組みを考えていて、一般的にいう実験店舗ということのようだった。


 お昼のピークも過ぎてふたりの勤務しているこの時間帯は、店の中に客の姿はほとんど無く(だから応援の人員ででいいのだろうが)、お店としては暇な時間となっていた。

「なんか暇だね。あずまやのレジの方が時間が潰せていいのに、それに話きいてくれる西川店長もいないし、あぁ、西川店長遊びに来てくれないかなー! それにしても本当に暇だねえー!」

 園子は少し?不満そうにブツブツ言っていた。

「ちょっとよしなよ。聞こえるよ。」

 さやかはレジ近くの防犯カメラに目をやって小声で言うと、園子は防犯カメラを指差して言っていた。

「大丈夫だよ、カメラじゃ、声まではひろえないから。大丈夫!」

 園子はそう言っていたが、さやかはバックヤードにいるコンビニエンスストアの店長に直接聞こえるんじゃないかとひやひやしていたのであった。

 それは、バックヤードと言ってもカウンターの後ろ壁1枚で仕切られた場所に、商品ストック場と小さな事務所のようなスペースがあり、その事務所に店長がふたりが挨拶してからいち度も売り場に出てくることがなかったので、多分ずっとパソコンを見ながら座っていると思っていたからであった。

「まったく・・・。」


 


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