第21話 社内恋愛?
「おはよう、さやか!」
今日も朝から元気に園子が声を掛けてきていたが、必ず園子の方から声が掛かるの偶然なのか? さやかは自分からから声を掛けた記憶がいち度もなかった。
「あ、おはよう。園子。」
さやかは軽く手を上げて、電車が来るのを待っていた。
ここはさやかと園子の家からそう遠くない私鉄の駅で、ふたりが通う学校まではこの路線一本で駅3つといった、通学には比較的便利な環境の地域ににふたりは住んでいたのであった。
ラッシュとは反対方面の電車に乗るため今ふたりがいる駅のホームは比較的すいているというより、ほとんど人はいないといった状態であったが、さやかと園子の乗ろうとしているこの私鉄の沿線には学校がいくつかあり、この時間帯の電車自体は学生中心に乗車率はそれなりに高くなっていたのであった。
電車がホームに着くと数人がさやかと園子のいるホームに降りてきた。ふたりはその人たちの邪魔にならないようにドアの横にそれて待っていた。
「店長? 店長じゃないですか、おはようございます!」
園子の大きな声がホームに響き渡ると、降りてきた乗客のひとりは、園子の大きな声に驚いていたが、すぐにさやかと園子ふたりの顔を見つけていた。
「おはようございます。前田さん、さや・・・、花本さん。」
「えっ、今なんて言いそうになりました?」
園子が鋭い突っ込みを入れていた。
さやかはその園子の突っ込みを聞いて朝から面倒なことになるのは御免と思い、すかさず話題をそらす様に西川に声を掛けた。
「店長、今日は珍しいですね、電車通勤なんですか?」
さやかが言うように西川は普段は車で通勤していたのだが、あずまや武蔵台店はさやかの家からもそう遠くないところに立地していたので、電車を使う場合は当然この駅を利用することになっていた。
「今日は夜に地域の懇親会があるんで、多分その席にはお酒出るだろうから電車で来たんですよ。」
園子から視線をそらしてさやかに向かって答えるが、園子はジッと西川の顔を見ていた。
「これから学校なんだね。いやー、懐かしいなー!」
西川らふたりに目を向けると、制服を着ているせいなのか、なんだかいつもとふたりの容姿が違って見えてしまって、つい必要以上にじろじろと見てしまったようだ。
「店長、じろじろ見すぎですよ。あれー、もしかしてJK好きですか?」
園子はニヤニヤしながら言うと、自分の姿を見せつけるように西川の前でターンして見せた。
「違いますよ。勘弁して下さい。」
まわりの目を気にしながら西川が下を向いてしまうと、再び西川に助け舟を出すようにさやかが言った。
「ちょっと園子、店長困ってるでしょ。朝からからかうのはやめなよ。さあ電車乗るよ。」
「プシュー」
さやかは園子の手を引っ張て電車に乗ろうとすると、音を立て電車のドアは無情にも閉まってしまった。
「もう、園子が変なこと言ってるから。」
さやかが少し頬を膨らまして言うと、何故か西川がふたりに謝っていた。
「ごめんね。私が変な目で見てたからいけないんですね、あぁ、電車行っちゃったね。ごめんなさい。」
(コウちゃんその言葉は絶対まずいって、園子の大好物だよ。すぐ食いついちゃうって・・・。)
「えー、やっぱりわた・・・。」
さやかが思っていたように、案の定園子が西川に向かって何か言葉を発しようとしたが、さやかがその言葉を遮るように声を大きくして言った。
「ちょっとコウ・・・、店長、やっぱりわたし達のことそんな眼で見てたんですか? 信じられない! もう、園子行こう。」
さやかは自ら園子が言いかけたと思われる言葉を口にして、再び園子の手を引いて西川から離れるようにホームの前の方に進んで行っていたが、実際はこれ以上面倒くさいことにならないように園子を西川から遠ざけたかったのだ。
「もうさやかわかったから、手離してよ。」
園子はさやかの手を振りほどこうとしていたが、さやかは離すことなく足を進めて行った。
「店長ー! またバイトでー!」
園子はさやかに引っ張られながらも西川の方を向き、さやかに掴まれてる方の手とは反対の手を大きく振って大きな声で西川に言っていた。
「はい。」
西川は軽く手を上げて答えていたが、ふと園子の奥のさやかの顔が見え、その顔をよく見るとさやかは申し訳なさそうな顔をして手を顔の前に上げていた。
そんなふたりを駅に残したまま、駅を出て西川は仕事場であるあずまやへ向かいながら考えていた。
(びっくりした。さやかちゃん怒っちゃたのかと思った。俺がさやかちゃんって言いかけちゃったの誤魔化してくれたんだ・・・。でも自分もコウちゃんって言いかけてたけどね、まあそれは前田さんには聞こえてなかったみたいだからよったけど・・・。ちょっと待て、これってなんか変じゃないか・・・、なんか社内恋愛を隠してるみたいじゃないか、社内恋愛したことないけど・・・。なんでこうなったかな? でも俺とさやかちゃんじゃ釣り合わないし、歳だっていくつ違うんだ?)
西川は真面目に指で数字を数えていた。
(12、13、14、15! えっ! 15歳も違うんだ・・・。これはもう犯罪だ・・・、って俺は何を考えてるんだ。)
驚いたり、安心したり、指で数を数たり、落ち込んだりしていて、はたから見たら何かひとり芝居の稽古でもしているかのように見えていた。
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