第12話 この気持ちって・・・
「お待たせしました、合計5点で2,590円です。お客様ポイントカードはお持ちでしょうか?」
さやかは休憩後のレジ打ちを園子と隣り合わせでしていた。ここ数日で仕事にも慣れてきていたようて、自分でも自信を持って出来ることも少しずつ増えていたようで、そんなに乗り気でなかったアルバイトの仕事に対しても前向きに取り組めるようになってきていたようだ。
「ありがとうございました。またお越しください。」
さやかはレジからお客を慣れた感じで送り出し、振り返るとさやかのレジへのお客がとぎれて誰も並んでいないことを確認して、大きく一息ついていた。
「ふー。」
このことからもわかるように少しは慣れてきたとはいえ、さやかは緊張しながらレジ打ちをしていたようだった。
「いらっしゃいませ!」
少し気を抜いていたさやかの後ろのレジで園子が、今日も元気いっぱいに大きな声を出していた。
(びっくりした。それにしても声大きいな・・・。いくら何でも声大きすぎないか?)
さやかは園子の大きな声に驚きながらレジ打ちしている姿を見ていた。
(園子はいつも元気でいいなぁ。でもあの大きな声は私には絶対出せない。まあ、あそこまで声大きくしなくてもいいか。)
そんなこと思いながらも、さやかは何故か急に園子に対抗心を燃やしはじめて、レジに次のお客が向かてくると、少しフライング気味に大きな声を出していた。
「いらっしゃいませ!」
そしてお客の持ってきた買い物かごに手を伸ばして、ぎこちない笑顔をみせ客をレジに招き入れていた。
その後も特に何のトラブル等もなく、数十人のお客に対してレジ打ちを順調にこなしていき、さやかの勤務も終わりの時間が近づいていた。
ちょうどレジのお客が途切れた時、後ろから声を掛けられた。
「どうですか? もうレジ打ちは慣れましたか?」
気を抜いていたさやかは驚いてしまい、少し裏返ったような声で小さめの返事をしてしまっていた。
「はい。」
恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこには笑顔の西川が事務所から出てきて立っていた。
「花本さん、凄いじゃないですか。さっき見てたけど大きな声出てましたね。すごく良かったですよ。成長感じますねえ。」
西川は笑顔でさやかに向かって話しかけていたのだが、さやかは驚いたままで声を出すことができずに、無言でただうなずいて西川のことを見ていた。
(コウちゃん、私です。さやかです。わからないの? 本当にわからないの?)
さやかは心の中で叫んでいたのだが、そんなさやかの心の中の声が、西川に届くはずも無く、西川はさやかの前でただニコニコして笑顔を見せていると、後ろから園子のいつも以上に元気な大きな声が聞こえてきた。
「はい! 慣れました!」
その大きな声に引き寄せられる様に西川は、さやかのそばを離れて園子の方へ歩み寄って行った。さらに一言二言会話をすると、やがてふたりは笑顔で楽しそうに話しているように、園子の方を振り返っていたさやかには見えていたようだ。さやかは複雑な気持ちでその光景を見ていた。
「あのふたりって仲いいよね。」
さやかのそばで同じくふたりの楽しそうな姿を見ていた木村がさやかに話しかけてきた。
(あれ? なんなんだこの気持ちは? 何なんだ?)
「さやか。」
「・・・。」
「ねえ! さやか!」
園子はさやかが返事をしないので、何度も何度も呼びかけていた。
今ふたりはアルバイトが終わり帰路の途中にいた。
「えっ! 何!?」
さやかは急に園子の方を見て何故か怒ったような反応をしてきたので、園子は驚いた表情をして聞いた。
「えっ、何って・・・。さっきから何もしゃべらないじゃん。どうしたの?」
「別に何でもないけど。特に話すことないから。」
さやかはぶっきらぼうに答えていた。
「話すことないって。何? どういうこと!」
今度は園子が少し強い口調になっていると、それに気づいて普段の口調に戻りさやかは謝った。
「ごめん。言葉間違えた。本当に何でもないから。」
「それならいいですけど。」
園子は違和感は覚えてはいたが、半分呆れた感じで少しとげのあるように言った後続けた。
「ねえ、さやか。もしかして、また何か悩んでるの? 私の勘違いだったらごめんだけど。いつも心ここにあらずって感じだけど、今日のはまた何か違う感じだけど。それとも何か怒ってる? 」
少し探りを入れる様な感じで園子は聞いていた。
「そんなことないよ。怒ってるわけないでしょ。なんで私が園子に怒ってるの。園子に怒るなんて・・・。」
さやかがそうが言ったものだから、園子は勢いよく食い気味に聞いていた。
「さやか、もしかして私に怒ってるの? そうなんでしょ? 私何かした?」
そんな園子を見て、さやかは慌てて自分の顔の前で大げさに手を振りながら答えた。
「ない、ない。そんなわけないでしょ。なんで私が園子に怒ってるの。そんなこと絶対ないよ。」
確かに今のさやかの気持ちは、今までのものとは何か違っていたようだ。今まではあの部活の件で、無気力な感じにまわりからは見えていたようだが、今回は自分でも少し違うと思っていた。何か心の中に引っかかるものが別にあるとさやかは感じていた。そうさっき見たあの場面からずっと・・・。
「それならいいけど、でももっと元気にしててよ。私心配しちゃうから。もともとさやかは無口でよくわからないんだから。」
「うん。」
「じゃあ、また明日バイトで!」
園子は手を振りながら自分の家の方向へ走って行くと、さやかも園子の姿を見ながら小さく手を振り続けていた。
(なんで思い出してくれないの。私にも、もっと話しかけてよ、そうすれば思い出してもらえるから。なんで園子にだけ・・・、私のこと本当に覚えてないの・・・。)
そんな感情を抱きながらアルバイトからの帰り道を家に向かってさやかは歩いていた。
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