第三十三章 雷神 ~中編~
保護したベガの元メンバーを引き渡して、騎士団本部の騎士長室にお邪魔する。何度目か数えられないほどの訪問によって目に馴染んだこの部屋だが、それでもやはり初めての事も多数ある。壁を見ると、記憶に新しい長剣がかけられている。目が滲むような感覚を覚えながら、ふっと視線をずらす。俺の隣には、リアがいる。この子と共にこの部屋に入るというのも初めての経験だ。リアも珍しそうに辺りを見回していたが、重厚なノックと共に背筋を伸ばす。彼女にしては緊張しているらしい。まぁ、政府直属とは言っても個人活動からすれば騎士団の団長なんて雲の上の様に感じるはずだ。昔の知人だとしても。
「やぁ、お待たせ」
そう言いながら入室して来たライトは俺とリアを見る。リアはずっと立ちっぱなしだ。俺は普通に座っているし、座るように促したが断られてしまった。長所でも短所でもある。
「楽にしていいよ。座ってて」
「は、はい! 失礼します!」
ハキハキした声で返事したリアはゆっくりとソファに腰を落とした。が、座っていながらもまだ背筋は伸ばしたままだ。それを見て少し溜息をつく俺と苦笑を溢すライト。彼は、手に持っていた書類の束をデスクに置いてから戻ってきて向かいのソファへと座る。
「さて、そんな緊張しなくていいよ。リアちゃん。俺達の仲なんだし」
「あ、で、でも……」
まだ気にする様子のリアに、俺からも声をかける。
「ほら、隣にこんな横柄な奴いるのに何も言わないんだぜ? 緊張は解いて身体を休めろ」
「隊長だから許されている様な気もしますが…」
「ライトと俺達との仲だぜ? 氷河もレナも緊張しながらここに来ることなんてないよ」
そう言うと、リアがここにきて初めて姿勢を崩す。とはいっても、その姿勢は世間一般的にいうと”頭を抱える”という姿勢に他ならない。
「あの、登場人物が全員生きる偉人なんですが……?」
そう言ってるところに、ライトが「よし」と言いながら注目を集める。ここから真剣な話の開始だ。
「今日はありがとう。今回の一斉保護のおかげでベガの大まかな概要を知ることが出来た。情報共有するよ」
そう言いながら、ライトは俺とリアの前に報告書の束を置き、それから説明を始めた。
「今回捕縛したのは5人。いずれも戦闘を主体にする役職ではなくて、内部の起立違反者を取り締まる役職。」
「だから褒章を用意するつもりなんだが、リアさんは何が欲しい?」
そう言うと、リアは何を選ぶか真面目な顔で思案し始めた。褒章として何かをもらうときには遠慮せずに受け取れ、と昔の俺が口酸っぱく言い伝えた。
「今のところ、何が欲しいかという具体的な要望はありません。少しお時間いただけませんか?」
「いいよ。思いつかなかったらお金を直接渡すことにするね」
「お気遣いありがとうございます」
少し頷いたライトは、次に俺の方を向く。
「……じゃあ、騎士団が所持してるエクトプラズム結晶体を譲ってくれ」
「俺たちが所持しているのはそんなに高純度なものじゃない。それでいいのか?」
「あの結晶はまだ何も解明されていない謎の物体だ。高純度のものを政府やそのお抱えの研究所が持っていたとして、個人所有を認められることはあり得ない。たとえ、俺であっても」
「へー、お前でもか……」
そう。俺は国王にタメ口で話しかけても近衛兵に襲われるようなことがないぐらいには、高い立場にいる。だが、そんな俺でも、国王直々に個人所有を禁止されている。それがエクトプラズム結晶体。
元はエクトプラズム溶液という液体だった。それが別の世界で発見され、持ち帰られたのがすべての始まり。その液体を完全に再現することはできたものの、結晶化する条件は未だ不明。もちろん結晶を直接作ろうとしても無駄だった。純度の個体差はとても激しく、度々結晶化はするものの、それはいずれも低純度。
この世界に個人所有されている高純度のエクトプラズム結晶体など存在しない。
ただ一つを除いて。
「解明してみせるよ。」
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俺の家、武器庫部屋。自宅奥にある施錠されたドアを開錠していると、なぜかついてきたリアとレナが後ろでこの光景を見ている。
「その結晶どうするの?」
「解析する。主にこれの結晶状態に現れる異常性に対しての純度による違いについて」
そんな俺の言葉に対して、レナが咄嗟に反応する。
「なにその科学者みたいなタイトル」
しかし、俺の過去の一部を知っているリアが一言。
「いえ、むしろ隊長は生粋の科学者ですよ?」
「はぇ?」
「隊長は、部隊内での武器や機器に対してメンテしてましたし、たまには改良していましたよ」
「まじか」
「まぁ、そもそも水蒸気爆発だって科学的な原理から組み立てているわけだし」
「まじかよ……。お前頭ええんか……」
「そうですよね、意外ですよね?」
「おい、失礼だぞ。部下2人」
「誰が部下やねん。ころすぞ」
「しつれーしましたー」
「キレそう……!」
その極めて失礼な発言に対して、苦言を呈しても無駄なのは知っているため、適当に受け流す。
まぁ、生真面目な性格のリアがおふざけに参加できていることは俺としてもうれしいし。
「ともかく、しばらく使ってなかったけど、この部屋の作業台に用事が出来たんだよ」
俺の指した先には粉砕機といくつかの測定器。この中純度のエクトプラズム結晶体の一部を粉砕し、測定をする。もし、これでも異常性の理由が見つからなかった場合、一定以上の体積が必要になるか、非科学的な力が作用しているかの二択になる。
俺は右手で左腰の剣を抜いて金属製の作業台へと向かう。隣に来たレナが空間収納から結晶を取り出す。それを鉄板の上に載せて剣先で端を叩く。欠片が落ちてそれを拾うと、無造作に粉砕機の中へと放り込む。一応入れる前に確認はしたが埃などは特に見当たらなった。一安心しながらボタンを押すが、メニューランプがつかない。あぁ、これ電源刺さってないやつだと思い、機械を引っ張ってずらす。
「……何してんの?」
「いや、電源刺さってなさそう」
「自分で出さないんですか?」
レナに対しての返答に被せるように提案してきたリアに大きくため息をつきながら答える。
「君たち、俺の扱いひどくなってきてない?」
「そんなことないよ。電気ネズミぐらいには思ってるよ」
「まて。消されるから。権利的に消されるから」
「でも、隊長は大戦時代に敵兵から黒ぴk」
「やめろぉ!! 消されるぅ!!」
誰か、胃薬をください。
ソードオブファンタジア 佐野悟 @sanosatoru011
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