第二章/接触 [遭遇]第1話‐4
「各砲門、開いて目標に向けろ!攻撃の指示は俺が行う。」
画面に映っている悠々と泳ぐ鯨を睨みつけつつ、ラファエルは指示を出す。「了解!」と、砲手は指示通りに砲門の解放操作を行う。
「総舵!攻撃が始まったら最大船速で目標に接近。アンカーの射程に何としても入れろ!」
続いて総舵手に指示を出すラファエル。総舵手が返事をしたタイミングで艦橋の扉が開き、アキレアたちが入ってきた。
「艦長、どう?対象は?」
アキレアは艦長席に近づき、椅子の背もたれに手を置いてラファエルに問う。アキレアの言葉にラファエルは肩を竦めた。
「御覧の通り、悠々自適に泳いでいますよ。しっかし、あれ程までの巨体とは・・・終わった後上手く運べるかどうか不安ですね。」
「確かに自由に泳いでるわね。まぁ、運搬の方は大丈夫なんじゃないの。」
そう言った後、アキレアたちは扉近くの壁にあるゲスト用の椅子に座り、脇の姿勢固定用ベルトを引っ張ってバックルに嵌めた。
「ん?そういえば、アキレア様。リリィ様は?」
何か足りないと違和感を覚え、それがリリィの存在だと気づいたラファエルはアキレアたちに振り返った。
「リリィは体調が優れないから部屋に居るわ。折角の世紀の瞬間なのに、残念で仕方ないわ。」
「艦長、ホーミングレーザーのロックが行えません。如何いたしましょう?」
会話を遮る砲手の問い。砲手はハッと気づいて「申し訳ありません。」と二人に謝った。「大丈夫よ。」とアキレアは、安心させる様に笑顔を見せる。ラファエルは顎鬚を撫でながら少し考えた後、砲手の問いに答えた。
「対象のエネルギー波形を登録。それを頼りにロックオンできるか試してみろ。オペレーター、砲手に情報を。」
「ハイ!」とオペレーターは朗らかに答えた後、鯨の情報を砲手に送信した。砲手はそれを確認し、オペレーターに礼を言った後、レーザーのロックオン情報を書き換えた。
「各砲門、発射準備完了です!」
砲手の報告にラファエルは頷くと、椅子から立ち上がる。
「皆、よくぞここまでついてきてくれた。紆余曲折あったが、何とかここまでやってこられたのは、艦橋の、そして艦全体のスタッフの協力があったからに他ならず、私からは感謝の念しかない。しかし、本番はここからだ。技州国を救う作戦、成功の有無は私たちに掛かっている。それまでの間、皆の力を借りたい。」
ラファエルは大きく息を吸った後、アキレアの方を見る。アキレアは「全部言ってくれたわ」と、口だけ動かして微笑んだ。
ラファエルは頷いた後、艦橋全体を見渡し、再び口を開く。
「では、全ては技州国救済の為に!作戦開始!」
ラファエルは、座りながら砲手に対して「砲手、攻撃開始!」と指示を出した。「サー、イエスサー!」と、砲手は指示通りに主砲のスイッチを押す。[ストレリチア]の背部に設置されている二門の主砲がせり上がり、そこから強烈な青い閃光が鯨目掛けて放たれた。閃光は鯨を貫通したが、効いていない様子で何事も無かったかの様に泳いでいる。「やはりな。」と、ラファエルは呟く。
「続いて副砲、ホーミングレーザー発射!総舵手、何をやっている!攻撃と同時に対象に向かって最大船速で前進!」
「効かないとは聞いていたが、まさか全くだなんて・・・」と目の前の光景が信じられず、呆けていた総舵手にラファエルは喝を入れる。総舵手は慌ててコンソールのレバーを上げ、[ストレリチア]を加速させた。副砲とホーミングレ―ザーは鯨に命中したものも、全く効果を示さない。それでも[ストレリチア]の攻撃は続いた。
「撃て!撃ち続けろ!少しでも長く、この場所にとどまらせるんだ!」
[ストレリチア]は攻撃を続けながらどんどん鯨に近づいていく。
「もう少しだ!もう少しでアンカーの射程に入る!後数十㎞・・・」
「艦長!対象からエネルギーを感知!」
突然入ったオペレーターの報告に「何!」とラファエルは驚愕の表情を浮かべ、モニターの鯨を注視する。鯨は[ストレリチア]の攻撃を受けながらも、その身体の周囲に光の粒子が急速に集まっている。眩いばかりの光。それは鯨自身よりも輝いて見える。そして、鯨は胸ビレを大きく扇ぐようにはためかせた。それと同時に光が城壁の様な巨大な〈波〉を形成し、[ストレリチア]に凄まじいスピードで迫ってきた。
「!回避、急げ!」
ラファエルは回避の指示を出すものも、到底間に合わない。予想だにしない事態に艦橋は恐怖に包まれ、あちこちでスタッフの悲鳴が上がる。[ストレリチア]は、そのまま鯨が発した眩い光の〈波〉に飲み込まれた。
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