第二章/接触 [遭遇]第1話‐3

 けたたましくなる警報。突然鳴り出したそれにマコトは驚きで飛び上がり、何事かとキョロキョロと周りを見渡す。緊急事態なのは確かだが、英語だから何を言っているのか詳しくは分からない。状況の不明慮さに、マコトは不安を覚える。何が起きているのか。外を確認しようとマコトはベッドから立ち上がろうとした時、不意に部屋のドアが開いた。再び飛び上がる様に驚くマコト。部屋の前に居たのはアキレア。その後ろにはアレックスとミハイルが立っている。アキレアの表情は口角が上がっていて、どこか楽しそうだ。

「ハァイ、マコト。多分、何が起きているか分からないだろうから来てあげたわ。」

得意げにニヤリと笑みを浮かべた後、アキレアは続ける。

「取り敢えず、身体をどこかに固定できるようにして。確かクローゼットに安全帯が入っていたはずよ。その次は・・・ミハイル、お願い。」

ミハイルは頷くと、ボード型の端末を操作する。すると、さっきまで土星を映していた壁面の映像がとあるものを映し出す。マコトはクローゼットに言われた通りに向かいながらも、その映像を見た。金色の巨躯。尾ひれ、胸びれ、特徴的な大きな口。マコトは大きく目を見開いた。思考が纏まらない、現実かどうかも判断がつかない。思い、焦がれていた〝くじら〟。それが今、目の前の映像に映し出されている。もう何を言えばいいのだろう。喜んでいるのは確かなのだが、どう表現すればいいのか分からない。混乱している中、マコトは何とか声を絞り出した。

「〝くじら〟は本当に居たんだ。」

それを言葉にした瞬間、一気にこれが現実だという実感が襲い掛かってきた。そうだ、〝くじら〟は居たんだ。マコトは呆けた表情から笑みを浮かべ、笑い、そして叫びたくなってきた。

‐ホントに〝くじら〟は居たんだ! ホントだ!間違いではなかった! そら見ろ!ホントに居たんだ‐

歓喜から今にも走り出しそうな思いだ。

「喜ぶのはいいけれど、まず安全帯をね。体を固定したらゆっくり見ていいから。」

苦笑いを浮かべながら発されたアキレアの言葉で、マコトはふと我に返った。

「そうだ。まず身体を固定しないと・・・」

マコトは、少し恥ずかしそうに縮こまりながらもクローゼットに向かい、安全帯を取り出した。

「うんうん。じゃ、私は艦橋に行くから。後はごゆっくり楽しんでね。」

マコトが自分の言うことを聞き始めたことを確認すると、アキレアはウィンクし、手を振りながらその場を後にした。部屋の扉が閉まる。マコトはそんなことを気にする素振りも見せず、机とベッドの間の壁に設置されている手すりに安全帯をつけようとする。が、手が震えてなかなか手すりに付けられない。呼吸が荒い。興奮気味だ。一度深呼吸をし、何とか手すりに安全帯のフックを掛けることが出来た。崩れる様にベッドに座り込む。身体の感覚がおかしく、宙に浮いた様にふわふわしている。お酒を飲んで酔った状態ってこんな感じなのかと、マコトが小さく笑う。〝夢〟を目の前にして落ち着いていられるわけがない。マコトは視線を壁面の映像に移す。宇宙を優雅に泳ぐ〝くじら〟。マコトは、目を輝かせながら、それを食い入るように見つめた

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