第二章/接触 [交流]第4話‐4

「うっわぁー!すごい!」

[ストレリチア]第一層にある、スタッフのリラクゼーション用の庭園。再度のアキレアの提案でマコトたちはそこに立っていた。ユウヤ、アレックス、アーシムの三人以外はショッピングモールで買ったクレープを片手に持っている。庭園は野球場位の広さのドームになっており、中央には灰色の幹が特徴的な一本の木が生えている。そこまで草生い茂る小高い丘になっていて、その周辺の外縁にはアーチで作られた通路。通路周辺とアーチには様々な花で彩られている。スズネは目を輝かせながら感激の声を上げた。マコトは周囲を見渡す。自分たち以外に利用者は居ない様だ。

「どう?すごいでしょ?」

アキレアは自慢げに笑みを浮かべた。

「本当なら少し拡張して、食物プラントも併設しようと思ったのだけれども、ローズに反対されちゃってね。今思えば憩いの場所の近くに仕事場を作るなんて、ナンセンスだったわ。」

アキレアはそう話しながら一行を引き攣れて丘を登り、中央の木を目指し始めた。

「中央のあの木はソメイヨシノ記念公園から拝借して植樹したの。晩年、祖父が好きだった花よ。記念公園から拝借して植樹したの。季節が季節だから花は散って葉桜になっているけど。」

‐もうそれは拝借ではないのでは?‐マコトはアキレアの言葉に苦笑いを浮かべ、ふと歩きながら天井を仰いでみる。天井はスクリーンになっており、地球の青空が映し出されていて、どこか感じた事のある眩しい光を放っている。

「照明は太陽光と同じ照度にしてあるの。時間に合わせて照度も変化するように設定してあるわ。兵舎等の自動照明も同じに設定されているのだけれど、気づいたかしら?」

アキレアがそう話している間に一行はソメイヨシノの木の下へ到着した。

「さて、ここからは休憩がてら自由行動と言うことで。のんびりするのも良し、庭園内を歩き回っても良いわ。」

「そうか、俺は昼寝でもしてるよ。少し色々あって・・・疲れた。」

ユウヤは言葉早にそう言うと、その場に座り込んでそのまま横になった。

「確かに自由行動とは言ったけれども、少しは庭園を楽しもうという気はない訳?寝るぐらい自室でも出来るでしょうに。」

アキレアは呆れた様に肩を竦めると、スズネを見る。スズネは苦笑いを浮かべて首を振った。

「すみません、アキレア様。折角の庭園を楽しみたいのですが、私も買った本を少しでも頭に入れておきたいので、ここで読ませてもらっても宜しいでしょうか?それともう一つ、高校の教科書とか持参していませんか?やっぱり本屋では娯楽目的の本しか置いてなくて・・・」

ノブヒトが恐る恐る小さく手を挙げる。

「貴方も・・・まぁ、仕方ないか。彼らの勉強の為ですものね。教科書ならハイスクールから直行だったから、幾分か持ってきているわね。少しでも役に立てばいいのだけれども。後でスタッフに持って生かせるわ。」

アキレアはノブヒトの言葉に最初は少し溜め息交じりで返事をしたが、事情を察し快く承諾した。

「で、私はクレープを食べながら外縁部の花を見に行こうと思うのだけれど、付き合う人は居る?」

「じゃぁ、私もアキレアさ・・・じゃなくてアキレアについてく!」

口元にクリームが付いているスズネは勢いよく手を挙げた。もう片方の手にあるクレープは既に一口齧られた跡がある。ハルカも「では、私もご一緒しようかしら?」笑顔で小さく手を挙げた。

「では、アキレア様。付き添いは私の方にお任せください。」

アーシムが一歩前に出て、アキレアに向かって丁寧に頭を下げた。

「別に庭園内だったら付き添いは必要ないのだけれど・・・」

頭を下げたアーシムを見て困ったように笑みを浮かべ、アキレアは肩を竦める。

「些細なことでも、御身に何かありましたら大変です。この先の計画にも支障がでるやもしれません。私かアレックスさんのどちらかが付き添うべきだと思います。」

「そこまで心配してくれるのは嬉しいけど・・・」

アキレアは腕を組んで悩む中、「あのぉ・・・」と、か細い声が彼女の思考を遮った。

「ごめんなさい、お姉さま。少し体調が優れないので、この木の下で少し休んでいます。ご一緒出来ず、申し訳ございません。」

リリィは少し萎れた感じでアキレアに対し謝罪をした。アキレアは組んでいた手を解き、眉を八の字にし、心配そうな表情で優しくリリィの細い方に手を乗せた。

「大丈夫?なんだったら、アレックスかアーシムにドクターの所まで連れて行ってもらうけど。」

「そこまでしなくても大丈夫です。少し疲れただけですから。」

心配するアキレアに儚い笑顔で返すリリィ。顔色も少し青く、本当に体調が悪そうだ。

「リリィ様がこちらに残るのであれば、私もご一緒します。」

アレックスがリリィの傍らに立ち、アキレアを見る。

「リリィ様に何かありましたら、私がドクターの所まで付き添った方が早くて安全でしょう。」

「そうね・・・」と、アキレアはリリィの肩から手を退けた。

「ではリリィをお願いね、アレックス。アーシムも、私たちに付き添って構わないわ。で、残る一人のマコト。あなたはどうする?」

アキレアはマコトに向き直る。アキレアの問いに「あー・・・」と頭を掻きながらアキレアとユウヤを交互に見た。

「僕は此処でクレープを食べてから少しここら辺を見て回ります。」

「分かったわ。」と、アキレアは短く答えた。

「では、私たちは行くわね。そうね・・・だいたい30分位で戻ってくるわ。では、行きましょう。

アキレアはそう言うと、スズネ、ハルカ、アーシムを引き攣れて外縁の通路に向かって行った。4人の背中が小さくなっていくのを見ながらマコトは寝ているユウヤの横に座り、クレープの包み紙を開け始める。ユウヤは静かに寝息を立てている。ノブヒトは木に背中を預けながら、本を読み始めていた。アレックスに支えられながら、ノブヒトと同じく木に背中を預ける形で座るリリィ。ふと、マコトは庭園の入口の扉を見る。庭園への扉の前には「流石に庭園までは連れていけない」とアキレアがNo.1に命令し、待機させている。一体で庭園への扉を守るような形で待機させられている状況。ショッピングモールでもあった状況ではあるが、マコトはそれを〝寂しそうだな〟と思いつつ、クレープに口をつけた。生イチゴとイチゴソースのクレープ。生クリームとの相性も良く甘く美味しかったが、何処となく少し酸っぱい様に感じた。

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