第二章/接触 [交流]第4話‐2

 アパレルショップに向かった女性陣は、アレックスを入口に待たせ店へと入って行った。店内はシンプルな内装で、服が綺麗に飾ってある。

「ふーん。なかなか良いレイアウトね。」

アキレアが腰に手を当てながら店内を見渡し、感想を呟く。

「で、スズネ・・・で良いわよね?ちょっと聞きたい事があるのだけれど・・・」

同じく店内を見渡していたスズネは突然呼ばれたことに驚き「はぃ!?」と素っ頓狂な返事を返す。

「あなた、あの一ノ瀬ユウヤって男の事を好きなのよね?」

突然アキレアから放たれた一言。一瞬、空気が固まる。スズネは何を言われたのか直ぐには理解できず、呆けた表情をしたが、理解出来たのかギクリとした眼差しでアキレアを見た。

「えぇ・・・わ、私が、あんないつも気だるそうにしていて、不愛想で、目つきの悪い奴、好きになるわけないじゃないですかぁ・・・」

スズネは口ではそう言いつつも、アキレアから視線を逸らし、動揺からか目は左右に泳いでいた。

「よく見ているのね。」

アキレアは困ったように眉を八の字にしながらも、笑みを浮かべる。その言葉を聞いたスズネは「ぐっ・・・」と、言葉を詰まらせた。

「・・・ア、アキレア様は何でそう思ったんですが?」

「女の勘、と言えればカッコいいんだけれど、やっぱり貴方があの男を見る視線ね。」

鼻を鳴らしながらアキレアはそういうと、腕を組みニヤリと口角を上げる。「へーそうなんだ!」と笑顔でスズネの顔を覗き込むハルカ。リリィはいきなり恋愛話に発展したからか、少し気まずそうにモジモジしている。ハルカとアキレア、二人の好奇な視線を浴びて観念したスズネは「は・・・はぃ・・・」と、少しどもりながら力なくユウヤに好意を抱いている事を認めた。

「あの男の何処がいいのか分からないけれども、まぁ人それぞれよね。会ったばかりの私よりも付き合いは長いのだし。」

アキレアそう言いつつ、スズネの肩に手を置いてつま先から頭頂部までじっくりと観察する。スズネの服装は出発時と同じく、白いシャツと動きやすそうな蒼いハーフパンツを着ている。

「好きな人に対して積極的にアピールしなきゃ。女はいつでも魅力的じゃないと。だから女性だけでアパレルショップに誘ったのよ。」

アキレアはウィンクしてスズネの肩をポンポンと叩く。その後クルリと振り返り、後ろの棚に陳列されている服を手に取り始めた。

「え?あ・・・私の為に・・・?」

慌ててスズネは自分の為に服を選んでいるアキレアに駆け寄った。

「アキレア様!私は大丈夫ですから!本当に!」

スズネは止めようと声を掛けるが、アキレアは無視して手に取った服をスズネに合わせる。

「うーん、ちょっと派手過ぎるかしら?」

アキレアは唸りながら、店の奥にある試着室を見た。

「やっぱり、着てみない事には分からないわね。」

そう言いながらスズネの腕を掴む。「え・・・?あ・・・?」と、戸惑うスズネに構わず。アキレアは途中で目に留まった服を取りながらスズネの腕を引いて試着室へ向かった。試着室へ着くと、「じゃぁ、着てみてね。」と取った服全てをスズネに渡し、そのまま奥へと押し込んで、カーテンを閉じる。試着室に閉じ込められたスズネは、その理不尽さに怒るよりも困惑した。取り敢えず、渡された服は着てみないと事態が収拾しなさそうなので、スズネは黙って着ていた服を脱ぎ、代わりに渡された服から適当に選んで着替え始める。

「そろそろいいかしら?」

アキレアが試着室に声を掛けたタイミングと同時にスズネは着替え終えて、試着室のカーテンを開けた。白いブラウスにカーキ色のジャケット、ブラウンのスカートという出で立ちだ。

アキレアは再び唸りながら首を傾げ、自分の後ろに立っていたハルカを見る。

「レディ・ハルカ?この中でも人生経験豊富な年長者として、貴方の意見を聞きたいのだけれども。」

突然質問され、ハルカは困ったように笑みを浮かべた。

「うーん、どうでしょう。私、恋愛経験がないので男性を振り向かせる様なコーディネートは分からないんですよね。」

ハルカの答えに唖然とするスズネ。アキレアも少し意外そうな表情をする。

「え、ハルカさん。恋愛したことないんですか?」

「あら・・・ハルカみたいな女性でも、恋愛をしたことがないなんてね。私から見ても魅力的なのに。」

二人の反応に、ハルカは少し気まずそうに苦笑いをする。

「そうだよね。二十台半ばになっても恋愛した事ないって、ちょっとおかしいよね。」

自分たちがひどく失礼な事を言っているのに気づき、二人はハルカに対して慌てて謝った。

「ごめんなさい。ただ本当に意外だなと思っただけで・・・」

「そうね。けど、貴方を傷つけてしまったのであれば、何か謝礼をさせて頂戴。」

頭を下げるスズネとアキレア。少ししおらしくなった雰囲気。

「大丈夫ですよ、気にしていません。私自身恋愛と無関係ではあると感じていますから。」

ハルカは尽かさず笑顔でフォローを入れる。そして切り替える為に両手を叩いた。

「それよりも、スズネちゃんのお洋服を選らばなきゃ。私の意見はあまり参考にはならないと思いますが、トレンドは追っているので幾分かお手伝いできるかと。」

「そうね。」とアキレアは微笑みながら返事をした後、スズネに回れ右をさせて試着に戻させた。その後、スズネは幾つかの服を試着したが、なかなかしっくりくるものが無く‐そもそもユウヤの好みが分からないのもあるが‐結局、満場一致で似合うと判断されたのが無地の白いワンピースだった。「結局シンプルなのが一番なのね」と、残念そうにするアキレア。それでも、普段動きやすくスポーティーな服を普段着ているスズネにしては、十二分に女性らしい服装だった。

「まぁ、選んだ服全部買ってあげてもいいのだけれど、そんな多くあっても荷物になるだけよね。じゃ、お会計に行きましょう。」

「え、ちょっ、ちょっと待っていただけませんか?」

言葉の一部分が引っ掛かりスズネは会計へと向かうアキレアを呼び止める。アキレアは不思議そうな表情をし、スズネの方に振り向いた。

「いま買ってあげるって・・・。もしかしてアキレア様が支払うのですか?」

「ええ、そうよ。それの何が問題?」

アキレアの答えにスズネは大きく首を振った。

「駄目です!ここは私が支払います。ファーストレディに自分の服を支払わせるなんて、そんな恐れ多い事できません!」

必死で止めてくるスズネに対し、アキレアは溜め息を吐いた後、両手を腰に当てた真っすぐ彼女を見据えた。

「提案して無理やり付き合わせたのは私。それに、貴方たちは私たちにとって客人なの。巻き込んでしまった礼として、これくらいのもてなしはさせて頂戴。」

「でも・・・」と反論するスズネの口を、アキレアは人差し指で押さえる。

「何かもう少し理由が欲しいのね。そうね・・・じゃ、これは私から新しい友人へのプレゼントとして受け取って。」

アキレアはウィンクした後、ゆっくりとスズネの唇から人差し指を離した。

「・・・分かりました。本当、今回の事についてなんとお礼を申し上げたらいいのか・・・。このワンピース、一生大切にします!」

お礼を言ったスズネに対し、アキレアは呆れて溜め息を吐いた。

「後、敬語もなし!敬称も禁止!もう、同い年なんだから・・・。私たちの事はアキレア、そしてリリィと呼ぶ様に。いいわね?」

アキレアは安心させる様に明るい笑顔をスズネに向ける。スズネは「分かり・・・分かった。」と、少しぎこちなく答えた。

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