第二章/接触 [交流]第4話‐1

 ショッピングモールは食堂と同じく[ストレリチア]の第2層にあり、食堂からそれほど距離が離れておらず、2、300m程歩いたら到着した。ショッピングモールは、広い通路からなっており道の両脇に店が並んでいる。ショッピングモールというよりはショッピングストリート、日本では商店街の様な雰囲気があり、行き止まりはホールとなっていて、通路中央にはベンチや植木、街灯の様な照明が設置されている。人は疎らだが閑散としておらず、それなりに賑わっていた。

「じゃぁ、まずは一通り見て回りましょう。」

アキレアは先頭に立ち歩き始めたが、ふと何かに気づいて振り返る。目線の先は鋼鉄の騎士[No.1]が佇んでいた。アキレアは困った表情をし、考え込む様にこめかみを叩いた後、大きく溜め息を吐く。

「流石に[No.1]が居ると怖がられるわよね・・・。仕方ないからモールの入口に待機して頂戴。」

[No.1]はアキレアが言ったことを理解したのか、踵を返しショッピングモールの入口へと向かった。マコトは自分たちの元から去っていくどことなく少し寂しそうな[No.1]の後ろ姿を眺める。

「「No.1」はおじい様の自信作よ。他の[パペット]はアレの劣化コピーでしかないわ。堅牢な装甲や付け替え可能な豊富な武装こそ一緒だけれど、AIの質が段違いね。」

自慢げに鼻を鳴らしながら、アキレアは腕を腰に当てながら胸を張る。

「物事を判断し、優先順位を組み立て、行動に移す。これも他の[パペット]と変わりがない様に思えるけど[No.1]だけは、まるで〝自意識〟があるかの如く行動に起こせるわ。まるで人が中に入っているかの様。基本的には従順だけれど、より良い結果に結びつくのであれば、それを無視する事もあるのよ。」

不安げにスズネがアキレアを見る。

「けど、過去一度も暴走したことはないわ。逆に、人を意識して立ち回っている。人命優先ってやつ?指示を無視する時も、端末にテキストで理由を送ってきて許可を得る様にしているし。」

アキレアは不安げなスズネに安心するよう笑いかけると、再び[No.1]を見る。その眼差しは誇りに満ち溢れていたが、少し悲しそうだった。モールの入口に到着し、守るように立つ[No.1]は、通行人に怖がられていたり、驚かれたりしていた。

「では、改めて・・・どんなものがあるのか見て見ましょう。」

アキレアを先頭に、一行はショッピングモールを進み始めた。ショッピングモール内にある店は、アキレアが言っていたアパレル・アクセサリーショップ、本屋、雑貨屋の他に、日用品、スポーツ用品、電化製品、そして何故かおもちゃ屋まであった。アパレルショップはレディース、メンズと分かれている。品揃えは艦内の店とは思えない程充実しており、専門店には及ばないが、スーパーやショッピングモールに併設されている衣料品売り場位はある。軽食もクレープ屋以外にジュースバー、ファストフード店、スイーツショップが軒を連ねていたが、食堂があるからか他の店とは逆に商品の種類はそこまで多くなく、あくまでちょっとした趣向品程度の品揃えだった。

「各店の管轄は給養部長のローズが担当しているわ。」

歩きながらアキレアは説明する。ローズの名前が出てきて、マコト、ユウヤ、スズネは顔を見合わせる。

「流石に品揃えとかは、各品種に詳しい人物に任せているけど、大体が彼女の了承を得て店に並んでいるの。けど彼女、食品類にリソースをあまり割けられなかったと後悔していたわね。」

「流石に、艦内で店を開くには結構制限があるからね。」とアキレアは苦笑する。

「ローズさんとは私たち食堂で会いました。」

手を挙げてぴょんぴょん跳ねながらスズネはアピールする。スズネの言葉にアキレアは少し驚いた表情で振り返ってスズネを見た。

「あら、そうだったの?いい人だったでしょ。」

食堂の事を思いだし、「そうですね。」手を下げつつ苦笑いを浮かべるスズネ。

「当たり前だけど、要職は人格、能力面で信頼に足る人物にしか任せていないの。ローズはその最たる人物ね。同じくらい評価しているのは同じ管理職の保安部長、ラファエル艦長と、リリィのドクター、SPの二人くらいかしら。」

歩きながら胸を張り、アキレアは誇らしげに語る。スズネには少し苦い思い出を残してしまったが、確かに彼女の言う通り確かに気の良い人人物ではあった。モールの行き止まりに着くと、先頭を歩いていたアキレアは一同に向かって振り返る。

「で、軽く歩いてみたけれど、どう?」

「確かに・・・すごいですね。小規模とは言え、本当にショッピングモールがあるなんて。」

ハルカはショッピングモール内を見渡し、感嘆の言葉を口にする。ハルカの言葉を聞いてよしよしとアキレアは笑顔で頷いた。

「通貨はドルなのだけど、 ATMで円をドルに変換出来るから安心してね。」 

ハルカに向かってウィンクする。

「それで、これからなんだけど・・・」と

アキレアは、一瞬スズネに視線を移す。アキレアからの視線に気づき、スズネは不思議そうな顔をした。

「それぞれ見たいものがあるとは思う。現に私は服が見たいし。けど、バラバラに行動するのは不安が残るわね。それで一つ提案があるの。」

アキレアは人差し指を真っすぐ上に伸ばす。

「技州国の人間を含めた2つのグループに分けて行動して、2時間後にこのホールで落ち合うのはどうかしら?そうね・・・ざっくりと男女別で行きましょう。」

アキレアは提案を聞いて、ユウヤは軽く手を挙げる。

「質問。なんで男女別?」

「あら?女性の買い物に付き合える殊勝な男性なのかしら?普段だったら歓迎するけど、今回は乙女だけの会話を楽しみたいから遠慮するわ。」

「違っ・・・」とユウヤは反論しかけたが、このお嬢様には言っても無駄だろうと悟り、溜め息を吐きながら首を横に振った。

「けど、いくら艦内が安全だろうとやっぱり乙女たちだけだと不安が残るから、ボディガードは必要ね。そうね・・・アレックスは女性側に、アーシムは技州国代表と護衛として男性陣と一緒に行動して頂戴。」

アレックスは「かしこまりました。」とアキレアに向かって丁寧にお辞儀をする。アーシムは笑顔だった表情を曇らせ、身を乗り出して何か言おうとしたが、アキレアとリリィの顔を見て、直ぐに体を引っ込めた。

「これで組分けは一応完了ね。何か異論があるのであれば聞くけど?」

「大丈夫です。」とノブヒトは微笑みながら答える。マコトもそれと同時に頷く。ユウヤは先程のやり取りで呆れた様な表情をしつつも「俺も構わない。」と答えた。スズネとハルカも何もないと答えるが、技州国のファーストレディと一緒に買い物をする事に少し緊張した様子だった。

「では、決まったのであれば早速出発しましょう。善は急げってね。」

区切りをつけるかの様に、アキレアは両手を合わせ一同に向かってウィンクした。

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