第4話 温かい
「......あの、鏡ってありますか?僕自分の姿を見てみたいんです」
違和感を確かめるために鏡を持ってきてもらう。この場で直接確かめるわけにもいかないし、自分がどんな感じなのか気になった。
「まああ、そうよねえ自分の姿は気になるわよね。安心してユーリはとっても可愛いくてかっこいいんだから」
そう言ってお母さんは使用人に頼まず自分で鏡を取りに行った
「僕のこと教えてください」
少しでも自分について知りたかった。どんな性格でどんなものが好きでどんなものが嫌いでどんな考え方だったのか。少しでも早くこの人たちの家族にならないと、
「教えてもいいけど、前のユーリも今のユーリもユーリだから無理に合わせなくていいんだよ」
この人たちは僕の欲しい言葉をくれる。まるで僕の心を読んでるように、それがなんだか怖い
「なんでって顔してるね、私はユーリのお父さまだからユーリの気持ちはわかるよ、だから無理しないで欲しいんだ」
そんなの優しすぎる、みんな嫌じゃないのかな偽物かもしれない僕なんて。僕にとって嬉しい言葉ばかりだけどなんだか納得できない。こんな僕じゃ家族になんてなれない、だってこんないい人にはなれないから
「ユーリは優しいから僕たちの思いを汲み取って僕たちの望むユーリになろうとするんだ」
あ、もしかして前のユーリもそうだったのかな。周りが望む自分と今の自分が違って苦しんでたのかな。
「でもそんなのユーリじゃないだろ?ユーリがやりたいこと、着たい服、ユーリの考えがあるからユーリなんだ」
「ユーリはなんでも我慢しすぎなの!もっと甘えていいし、言いたいこと言ってっていいんだから」
僕は家族にそんなこと思ったこともなくて、そんなこと言われたこともないから彼等が眩しくて、ほんのちょっと苦い気持ちになる。
「鏡持ってきたわよー。さあどうぞユーリ」
いよいよ覚悟を決めて鏡を覗いた
「あれ、女の子じゃ、ない?」
黒髪に紫と緑のオッドアイで黒猫のような美少年がいた。そう美少年である。僕はてっきり美少女だと思っていたのに。だってあるはずのものがないし
「ユーリは女の子になりたいのかい?」
どういうことだろう、この世界での僕の性別は女の子のはず
「あの、僕はなぜ男の子の格好を?性別は女の子ですよね?」
「そうだね、性別はそうかもしれない。でも前のユーリは自分は男の子だと、女の子の格好や振る舞いに違和感を感じてたんだ。でもそれを隠そうとして女の子らしくなろうとするはとてもユーリが辛そうだった。男の子の振る舞いをしたってそれがユーリの個性なんだと思ったから好きな格好をさせたんだよ」
どうしてそんなにすんなり納得できるの?気持ち悪いとかありえないってならないわけ?
「なんで簡単に受け入れられるんですか!?僕だったらおかしいって、直さなきゃって思っちゃうのに」
心の中にしまっておけばいいことを聞いてしまっていた
「それはこの世界のあり方が、多様性を認めているからなのよ。私達は家族の中でこんなにたくさん色彩を持っているでしょう?それはね、魔力の属性によって色が変わるの。魔力がない人のように遺伝によって色が受け継がれるってことはないのよ。だからどんな属性でも魔力量でも我が子だと感じるの。私達が家族だと思えば家族なのよ。ここの使用人含めてね?だからユーリが私達を受け入れてくれるまで、あなたがあなたを受け入れることができるまでゆっくり待とうと思ったの。」
世界がそうあるから?それともこの人達が特殊なのかな。それでも僕を責める人はいない、比べる人も傷つける人も、貶す人もいない。
なら自分を責めなくていいのかな。無駄に虚勢をはったり、自分を守るために誰かを傷つけたり、他人と比べて劣等感抱いたり、もうそんなことしなくて良くなるのかな。
なんで神様はいい人でもない、いいこともしてない、僕の願いを叶えてくれたんだろう。それともこれが罰なのかな?だって僕が傷つけた人にはもう二度と謝れない。僕が向き合えなかった人とも会えない。それを噛み締めて幸せな世界で一生悔やみながら生きて行けってことなのかな。
わかんない、僕はこれからどうすればいいの?
「ユーリはもっともっと色んなことを知っていけばいいとおもうよ。ユーリはまだ見てる世界が狭いからどんな選択があるのかもまだわかっていないんだと思う。だからまずはお勉強だね。いっぱい遊んで、いっぱい触れて、いっぱいお話ししようか」
あれ、僕口に出してたっけ?
「ユーリはわかりやすいからな。不安で迷子の顔してる。ユーリが迷った時は手を繋ぐし、怪我した時は手当てするし、寂しい時は一緒にいてやるから、生きたいように生きればいい。」
お父さんとカイン兄さんの言葉にみんな頷く
「......ありがとう」
恨みつらみばかり吐いてた僕の口から、久しぶりに心からの感謝の言葉が出た
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