第3話 家族
そこは何もない場所だった。痛覚も、温度も、思考もなくただただ存在していた。
突然光が差し込んだ瞬間、ひどく孤独を感じた。
『ここは、嫌だ』
そう思うと意識が浮上していく
「ユーリ起きたのね!良かった本当に生きててくれてありがとう」
見知らぬ女性に話しかけられてひどく混乱する。青い髪と緑の瞳の女性がいきなり抱きしめてくる。
あまり感じたことのない温度に戸惑う
「え、あの、だれですか?」
それだけは口に出せた。口に出したら思考も戻って来た
ここはどこ?誰この人?川で死んだんじゃないの?
女の人の隣には彼女の肩を抱いた銀色に紫の色彩を纏った男性がいる。そして二人によく似た子供が4人ベッドを囲んでいた。
「ユーリ大丈夫かい?もしかして川に落ちたせいで記憶喪失になってしまったんじゃ?お父さまがわかるかい?」
川に落ちたって僕の死因と同じ、名前も自分と一緒だしどういうこと?
僕の父さんとは全然違うけど。あの人はお腹がタヌキみたいに出てて、髪も目も普通の日本人と同じだし
「あの、ごめんなさい」
「そんな、じゃあ僕たちのことも?」
「ユーリに忘れられてしまうなんて、俺はどうやって生きていけば」
「兄さんしっかりして、これから思い出すかもしれないじゃないか」
「みんな今一番混乱しているのはユーリなのだから、私たちは見守ろう」
「あの、僕は川に落ちて死んたんじゃ」
「死なすわけないじゃないか、息はしていたから全力を尽くして手当てしたんだよ。目が覚めて本当に良かった」
うーん、今の状況を整理すると、この体の持ち主も川に落ちたが、なぜか僕の意識が入ったことになる。夢だったらいいけど、頭がズキズキと痛くて現実を突き付けられる。川に落ちてこの子の魂の代わりに僕が入ったとなると、この人たちを騙すことになるし、本当の子供じゃなくて申し訳ないな
前の魂どこ行ったんだろう
「あの僕川に落ちた記憶しかないんです。だから前の僕とは違うと思うんです。それに皆さんのこともわからなくて、本当にごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。大丈夫、誰もあなたを責めたりしないわ。私はユリア アイスバーニルですわ。心配しなくてもその一人称だって、大変な目にあったのにちゃんと状況を整理しようとする賢いところだって、貴方は全然変わってないわ。それにどんなユーリでも大好きよ。貴方は私の大切な宝物なのです。だからまたお母さまって呼んでほしいの」
賢いってそんな風に褒められたことないから照れる。大好きとか大切な宝物って初めて会った人に言われてるのに、なんでこんなに嬉しいんだろ。ぎゅっとされてるところが温かくて、心がじんわりしてくる。
「うん、おかあさま......」
「僕はジャイル カルド アイスバーニル、君のお父さまだよ。そしてユーリを含めて愛する子が5人いるんだ。ユーリは末っ子で今年10歳になったんだよ。みんなもユーリに自己紹介しなさい」
僕は10歳なんだ。昔に戻れたらいいなとか思ってたけど、戻ったって感じはあんまりしない。手とか足とか身長は違うけど。考え方が同じだからなかなあ
最初に手を握ってきたのは紫の髪に青い目をした垂れ目なお兄さんだ
「私は長男のジェイド ファルコス アイスバーニルだよ。今年で18歳になるんだ。もう凍った川の上で遊ぶなんて危ないことはさせないからね?」
「え、僕そんなことしてたの!?」
氷とか水とか滑るもの全般、怖いんだけど、絶対トラウマなってる
「そうだぞ、家族の目を盗んで街に遊びに行って、探しに行ったら川で溺れてるユーリを見つけてどれだけ肝を冷やしたことか。元気で転婆なのもいいが、こんな思いをするのはもうこりごりだ」
銀髪の赤いつり目でお母さん似のお兄さんが涙目になりながら抱きしめてくる。
さっきも生きていけないとかこの人言ってたし、相当前の僕のこと溺愛してそう。なのに死にそうな場面見せるとか申し訳ないことをしたなあ
「ユーリを助けてくれてありがとうお兄さん。皆んな迷惑かけてごめんなさい」
「ユーリを責めたわけじゃないんだ、それに迷惑だなんて思ってない。心配しただけだ。お兄さんじゃなくてカイル兄さまと、呼んでくれないか?」
「うんカイル兄さま、ジェイド兄さまよろしくね」
家族に様付けはなれないと思ったけど案外スルッと言葉にできたのが不思議な感覚だ
「僕は3男のノイルだよ、カイル兄様は僕たちの中で一番ユーリのこと溺愛してるから、しばらく離れてくれないの覚悟したほうがいいよ。まあ僕もちょくちょく様子見にくるけど」
ノイルは髪が青で瞳が紫で猫目が可愛い
そういえばなんでジェイドにはミドルネームあるのに他の人にはないんだろ
「よろしくノイル兄さま。ねえ、お父さまとジェイド兄さまにはミドルネームがあるけど何か意味あるの?」
「ミドルネームは家を継ぐものに付けられるんだ。また一緒にこういうことも覚えようね」
僕はこの世界のこと何にも知らないんだ。変な子だとか非常識とか思われるのかな
「僕も勉強中だから大丈夫だよー!僕は4男のケイリーって言うんだ。一緒に頑張ろー」
ほわっとした笑顔で言われると本当に大丈夫って思えてくる。
「ありがとう、ケイリー」
ケイリーの天パがとても柔らかそうで、綿菓子のようだと思わず撫でてしまった。
「ユーリが僕の髪好きなの変わってないなあ、撫で方が前と全然変わらないの面白いね」
そうなんだ、なんか無性にポスポスしたり、くるくるしたくなったのって体が覚えてたりするのかなあ
でもなんか自分の行動に違和感とかないからいいのかなあ
・・・・・・ 一部を除いて
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