第55話 10月21日 金曜日6

 友達になりたい?米野さんに言われた言葉がゆっくりと頭の中を回る。


「——え?」


 急に言われたので反応が出来なかった。何だって?友達……あー、確かに今までは――友達?とは言えないような関係か。


「お友達ですよ。今までは――名前を知らない知り合いでしたから。今は名前を知りましたから改めて」

「確かに」

「——ダメですか?」


 ちょっと不安そうに米野さんが聞いてくる。ちなみに先に言っておくが、友達なんていらん。という返事を俺がするわけはない。


「いや、問題ないってか。それも今更というか。よろしく。米野さん」

「はい。ってことで先輩。隠していたことを全部話しましょう!」


 俺が返事をすると、急に米野さんのテンションが上がった。もしかして――米野さん。猫被っていたというか。大人しくここでは見せていたり……する?別にいいのだが。もしかして――俺が先輩にあたるから一応控えめ。抑えていた?または普通にいつも緊張していた?あまり緊張していたようには見えないが――でも、雰囲気は悪くないので俺は特に気にしないことにした。


「隠していたこととは?」

「そりゃ私たち自分の事はほとんど話さずに――だったですから」

「まあそうだな」


 ホント名前すらというか。その他もほとんど話してなかったからな。知らないことしかない。大学生ということを除くと――何知っている?だからな。かなりの回数会って話しているのに。


「名前を知れましたし。次は――何聞くべきですかね?」


 楽しそうに話しだす米野さん。正しく言うと――ちょっといきなりの事で、俺は戸惑いがあったが――いや、この流れは予想してなかったからな。もしかしたらこのまま毎週会うだけで、特に深く関わることもなく。名も知らずそのうち会わなくなるかと思っていたが――どうやら関わる方に舵を米野さん側からきって来たらしい。

 するとすっかり自分たちの居る場所を忘れていた俺と米野さん。後ろから近づいてくる足音には全く気が付いていなかった。 


 

「楽しそうなことになってる?なってるよね?絶対面白い雰囲気になっている気が2人の背中見るだけでわかるんだけど!」

「なっ!?」

「——っ!?びっくりした……」


 誰が来たかって?

 もちろん来る人と言えば限られている。話していた俺達の間に割るように入って来たのは、お姉様である。


 多分俺達の話を聞いていたな。ってか、ドーナツ屋で話しているということを少し忘れかけていた俺だった。

 もしかしたら――米野さんも忘れていたかもしれない。

 いや、いろいろ頭の整理――というか。米野さんにいじられかけた――あれはいじられていた?まあいいや。とりあえずいろいろあって――そして自己紹介やらの流れになり。予想外の事ばかりだからな。ちょっと居場所を忘れていたということだ。

 居場所を忘れていたという事は、話しが聞こえているなんて考えてもなかった。

 そりゃ、俺達がこんな話をしていたら。あのお姉様なら。自分が暇になったら近寄って来るわな。来ない方がおかしい。

 

 ちらっと声の主を見ると――。


「ニヤニヤ」


 ほら。楽しそうな表情してる。って、声に出てる。マジで、何か面白そうなことをしていると言わんばかりのニヤニヤ顔でお姉様が隣に居た。

 ちなみに俺の横に居る米野さんは驚いた!びっくりした!という表情で固まっている。


 それからはお姉様乱入により今日のところは、名前を言い合ったところで、お開きの時間となったのだった。

 いや、お姉様がホントグイグイと近寄って。あーでもない。こーでもないと勝手に妄想を話しましてね。俺と米野さんの自己紹介はその後進まずで、お姉様の暴走を止めるということに時間が費やされたのだった。

 こういう時に限って。もう誰もお店に来ないんだよな……大変だったよ。

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