第56話 10月28日 金曜日

「こんばんは」

「うん?おっ、米野さんか。お疲れ」


 10月ももうすぐ終わる。この時期になると、大学が終わるとすでにあたりが暗くなり。最近ではひんやり感も強くなってきたが。俺はいつも通り金曜日の夜なので、ドーナツ屋に向かっていた。

 すると今日は桑名駅を出て少ししたところで、後ろから声をかけられたのだった相手はもちろん米野さんである。それ以外に俺に声をかけてくる奴は――いるかもしれないが。ここはちょっと大学から離れているし。そうはいないだろうな。

 そんなことを思いつつ俺は声をかけてきた米野さんを見ると――米野さんは何故か不思議な顔をしていた。あれ?声をかけてきたのそちらですよ?俺はそれに返事をしただけなのだが……うん?


「……」

「えっと……?どうした?米野さん?」


 米野さんの表情からわかることは、不機嫌――ではないが。何とも言えない表情をしている米野さん。俺――何か気に障るようなことを言っただろうか?記憶にあるのは――挨拶したくらいなんだ……挨拶で気を悪くした?って、だから話しかけてきたのは米野さんで、俺は返事をしただけだ。そしてその時変なことを言った覚えはない。。


「いえ、なんか……」

「なんか……?」


 何かを考えつつ俺を見てくる米野さん。何か――嫌な汗が流れますね。こんなところで揉め事?下手すると、誰かに通報される?ってことはないと思うが。俺が女性を困らせているとか見られると――だな。そんなことを俺が思いつつ米野さんの反応を待っていると。


「——前の呼び方の方が親しみがあったなぁー。と、ふと思いまして」

「……はい?」


 もしかしてだが、先週自己紹介を改めてしたことにより。米野さんの呼び方がからへと変わった。って、それで不思議な顔をしているのか?いやいや、マジで?と、一瞬過った変な考えはどこかへと消えて、俺はそんなことか。などと思っていると。


「ココの方が暖かかった気がします」

「えっ?暖かかった?」


 まさにだったらしい。いきなり何を言われるのか?俺はいきなり何かしたのだろうか?と思ったが――マジで、米野さんの変な表情。不思議な表情の理由は呼び方についてだった。これって――大切なことなのだろうか?俺的には、そんなに変わった感じは――いや、確かに改めて考えてみると。硬くなったような気もしなくはないが――でも、そこまで気にすることだろうか?みんなどうですか?


「先輩」

「うん?」

で行きましょう」

「……へっ?」


 1歩こちらに踏み込む。近寄る形を取りつつ米野さんが『思いついた!』ではないかもしれないが。そんな表情をして提案をしてきた。


「胡乃葉で」


 俺が反応に困っているともう1歩。あれ?米野さんってこんなにグイグイ来るんだっけ?もしかして先週の自己紹介で――何か俺のレベルが上がったではないが。気楽に話せる人。とか言うのになったのだろうか?または――先週も少し思ったが。こっちが素の米野さん?ってか、とにかく、今の現状は、突然グイグイ来る後輩に駅を出たところで捕まったのだった。

 改めて思うが――呼び方なんてなんでもよくないだろうか?ダメなのかな?今の雰囲気的に――ダメらしい。


「——と、とりあえず、歩きながら話すか?」

「あっ、そうやって先輩は話を変えようとしてますね?呼び方くらいパパっと決めましょうよー」

「話を変えようとはしていないんだが……」


 ――実は、ちょっとだけ思ったがね。


「ダメですか?」

「——いや、うん。わかった。コノハ――ね」


 あれ?なるべく普通にと思ったのだが――胡乃葉といったつもりなのに何かカチカチした感じになったことに俺は気が付いた。

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