第19話 6月のある金曜日7

 言い訳になるが――初めて話す気がしなかったから。って、そんなことないよ。ないない。やっぱり俺疲れてるんだわ。ってことで、疲れていたから話しかけてしまっていた。としておこう。


「あの――すみません?お隣さん?」

「なっ!?――な、な、何で……しょうか?」


 顔を真っ赤にしつつチラチラこちらを見て。一応返事をくれた小柄な女性。これで反応してくれなかったら気まずかったな。って、俺マジですごい事してる?


「いや、迷惑かもですが。ちょっと俺。ぼーっとしていたみたいで、間違って2つずつ飲み物とドーナツ頼んじゃったんですよ」


 ドーナツは間違ってないがな。こういう時の理由は適当でいいだろ。


「——へっ?」


 すると何をいきなり言い出すんだ?とでも思ったのか。間抜けな感じで俺の方を小柄な女性は見てきた。ちなみに頬はまだ赤い。さすがに顔全体。耳まで赤いと、いうことはなくなっていた。先ほどは隣からでもわかる。耳まで赤かったからな。


「だから、もしよかったら――飲み物とドーナツどうですか?お腹空いてそうですし」


 って、俺とどめを刺したんじゃないか?というのは、小柄な女性に言った後。気が付いたのだった。俺が気が付いた頃には。


「――かあぁぁ」


 小柄な女性の顔がさらに赤くなった。もう真っ赤。茹で上がったらしい。蒸気が見える気もしなくはない。まあお腹が鳴って、隣の人から食べ物が――それは聞かれた。聞こえたということを俺が言ったと同じだろう。だからそんな反応に……なるかな?わからないけど。

 とりあえず、このまま俺が無言になると小柄な女性が噴火する可能性もあったので、俺はさらに話を続けた。


「えっと――ここのドーナツ食べました?」

「————食べて――ないです」


 小さな返事が返ってきた。良かった噴火はまだしていないらしい。俺は俺の方は見ずに話す小柄な女性にさらに話を続ける。


「なら食べた方がいいかと。ここのドーナツマジで美味しいから。特にこのオールドドーナツ。俺今までで一番おいしいと思うから」

「——」


 俺はそう言いながら、紅茶とドーナツ。袋に入った方を小柄な女性の前に移動させた。小柄な女性はまだこちらを見ず。恥ずかしそうに机を見ているだけ。

 って、スマホまだ通知来てますよ?俺がなんか必死に話している間も通知が来て画面が明るくなっていた。が。今は小柄な女性の方に集中した方がいいな。俺——ヤバいことしている気がするし。


「——無理にとは言わないけど。なんか。もしかしたら誰か待ってる?とかだと迷惑かも――ですが。って、いきなりなんだかもだけど。とにかく。ここのドーナツは美味しいから。どうぞ」


 俺はそれだけ言うと。マジで俺。何してるんだろう。不審者か?と再度思いつつ。壁を見ながら自分のドーナツを手に持って食べる――そして口元が緩む。いや、美味いもん。やっぱ最高。俺自分で何してるんだよ。という気持ちより。美味しいが勝ったため。今は幸せである。自分を落ち着かせるためにドーナツ正解だな。ここで紅茶も飲んでさらに落ち着いておこう。


 すると――俺の隣で手が動いていた。幸せに浸っていた俺はそれに気が付かなかったが。すぐに隣は見ることになった。何故なら。


「————あっ。ホントだ。とっても美味しい。えっ。美味しい。すごい。本当にこれ――美味しいドーナツ」


 小柄な女性の驚きの声がすぐに聞こえてきたからだ。

 っか、小柄な女性。マジでお腹空いていたのか。俺が上げたドーナツを早速食べていた。俺がチラッと横目で見た光景は、両手で大切そうにドーナツを持って食べる小柄な女性だった。そして本当に感動したのか、2口目3口目もいった。俺まだ1口食べただけだが――隣でオールドドーナツが小柄な女性のお腹に消えていく。

 ってか、ハムスターがひまわりの種を食べているように見えたのは――気のせいということにしておこうか。いや、かわいい食べ方するなー。だった。

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