第9話 10月21日 金曜日

 金曜日。やっと1週間が終わる。結局今週も何回か旺駆里おぐりに捕まったが間もなく今週も終わる。


 ――18時講義終了だ。


 講義が終わると俺は片付けをして、いつもと同じようにJRの駅へと向かう。そして電車に乗り揺られつつこの日は朝日駅を――通過する。

 通過するのだ。金曜日。この日だけ、俺は行くところがある。朝日駅では降りずそのまま5分ほど乗車。次の桑名くわな駅まで電車に揺られる。

 

 桑名駅で降りるとざわざわした感じの中を抜け、改札を出る。そして駅から東へと少し進んで行き、通りからちょっと離れた小さなお店へと俺は向かう。ここに来るのは1週間ぶりである。1週間頑張った自分へのご褒美というものでいいか。今の俺は毎週金曜日の夕食はここと決めている。


 ガチャ。


 お店のドアを開けた瞬間。俺は久瑠斗からとなる。

 店内はいつも通りの甘い香りが心を癒してくれる。そして落ち着いた音楽が流れている。そしてだ、ショーケースにはいろいろな種類のドーナツが少しずつ並んでる。


「あっ、いらっしゃい。君」


 お店へと入ると、いつものが微笑みながら手を振ってくれる。そうそう先に言っておこう。今俺の目の前にいる女性。ふわっとした甘栗色の髪を揺らしている女性。多分俺のより年上のお姉様。初めて見た人のほとんどの人が綺麗。可愛い。首長っ!スタイル良い!巨乳!などといろいろ言うと思うが。ここでは下手なことを言わずにというように。これ大切。

 下手な事言ったら首絞められるからな。マジで。特に今最後に言った言葉。巨乳。は死を呼ぶ可能性が非常に高い。一度だけ俺はその光景を見たことあるからな。チャラチャラした感じの男性2人がお姉様に絡んで――締め上げられていた。

 そうそう旺駆里はこのお姉様とは接点がないから――だが。あいつは間違いなく数分もたないな。と俺は勝手に思っている。そもそもここに旺駆里を連れてくるとかそんな可能性は0なので、そのようなことは起こらないと思うが。

 

 簡単に言えば、ここでは褒めようとかしない方がいいってことだ。

 俺は普通にお店のお姉様と話す。そのスタイルがこのお店では安全である。ほとんどの人は特に気にせずで大丈夫と思うのだが。稀にお姉様目当てでやって来る人が居ると――なのでね。とりあえず今、俺に聞いた人は良かったな。それだけ言っておく。

 ——えっ?何故俺がそんなことを知っているのかって?まあ常連だからということにしておいてくれ。

 

 いろいろ何か脳内で言ったかもしれないが。それは置いておいて、俺がお店のドアを開け中に入ると。年齢不詳のお姉様が今日も笑顔で俺を迎えてくれた。

 そうそう常連とどこか脳内で俺が言ったかと思うが。このお店に来るようになって――どうだろうか?数か月ほど過ぎただろうか?夏休み期間中は2週間ほど来なかったが。それ以外はほとんど毎週金曜日の夜。俺はこのお店に夜来ている。


 初めに、夕食を、と俺は言ったはずなので、変なお店と思っている人はいないと思うが。ここは小さな飲食店だ。いい香りが今日もしている落ち着く場所だ。先客は――今日は2人だな。席で話している女性がいるだけだ。俺の指定席は今日も大丈夫。空いている。あの席は目の前が壁だからな。普通なら通りの方を見せる席がみんな良いんだろうな。

 客席の方をちらりと見て空き状況を確認してから俺はお姉様の方へと歩いて行く。


「こんばんは」


 お姉様の前まで来ると俺はいつも通り挨拶をする。


「クク君が来るってことはもう金曜日だね。1週間早いー。年取っちゃうー」


 キャーキャーお姉様が言っているがこれはいつもの事。下手に触れるなである。


「はははっ、1週間あっという間ですね。えっと、今日もオールドドーナツと、そうだな……コーヒーをください」


 いつも通りの会話をしつつ。俺はメニューを見つつ注文する。


「はーい。店長ー。コーヒー入ったよー。あっ、クク君新商品どう?私的に激推し。クリームのバランス最高だよ?」


 そう言いながらお姉様が新商品と書かれているドーナツを指差しつつ進めてくる。だが俺はいつも通り返事をする。


「俺はオールドドーナツが一番好きなので。金曜日にはこれ食べないとですから。オールドで」


 俺が返事をするとお姉様はいつものように微笑む。俺の答えは予想済みという感じだな。でも一応1%くらいの確率でも賭けていたのかもしれない。


「クク君はホント一途。何をすすめてもブレないね。ホント君それしか食べてないよね?他に浮気しないの?たまには浮気しようよ。美味しいよ?」


 そう言いながら再度新商品を進めてくるお姉様。


「このオールドが一番おいしいので。週終わりにはこれなんです。毎週金曜日の夕食は」

「クク君。ドーナツを夕食――ってのは、もう何回か言った気がするから言わないけど。そんなこと言うとまた厨房で号泣して仕事サボっちゃう困った人が居るから私が困っちゃうんだよ?」


 呆れた表情で、でも面白そうにチラッと裏の方を見るお姉様。すると――。


「な、泣いてないぞー!オールド1個サービスしとけよー。うぅぅぅぅ……」


 それと同時に裏から泣いている声が聞こえたのは――気のせいだろう。そういうことにしておこう。元気な声が聞こえてきたということに俺の脳内では変換された。

 ちなみに今後ろから聞こえてきた声は、このお店の店長さんだ。絶対に厨房から出てこないので、顔は見たことないが声は何度か聞いたことがある


 って、ドーナツが1個増えた。ラッキーである。ちなみにここのドーナツ。一番シンプルなドーナツはマジで美味しい。見た目はよくあるドーナツ。表面のサクッとからの中のやわらかさ。あと、シンプルな味。チョコが付いていたり。クリームがあったりとかいうのがないシンプルなこのドーナツが俺は良い。ちょうどいい甘さがいいんだよ。


 ……俺——説明下手だな。多分自分が語りたいことの5%も語れてないわ。まあ、いい、美味いんだよ。めっちゃ美味い。以上。気になるなら食べに行け!だな。まあ見つかるかな?っていう余計な話は置いておいて。

 注文を終えた俺は、お姉様とちょっと話しつつも、代金を支払い。オールドドーナツ2個を持って先に店内の壁際にあるカウンター席へと向かう。

 このお店はテーブル席が3つそれぞれ2人用と、それとは別に2席だけお店の隅っこ。ホント目の前の壁を見るだけの形の席があるのだが。俺はそこが落ち着くからいつもそこに座る。テーブル席だと外からも見えるし。向き的に先ほどの俺と同じように入ってすぐ。視線に入るからな。気にしない人はいいだろうけど。俺はこの後しばらくこの場所で、のんびりする予定なので、目立たない席をいつも選んでいる。

 ちなみに、以前店長に聞いた話。少しでも小さいお店で席数を増やすために無理矢理壁向きのカウンター席を作ったと言っていた。でも他のお客さんはみんな外などを見たいのか。テーブル席の方が人気があるらしく。基本カウンター席は、ほぼほぼ空いている。俺の記憶があっていれば、金曜日の夜の時間帯だけだが。カウンター席を利用していたお客さんは、俺を除いて1しか知らない。


 一応もう分かっている事とは思うが。このお店の席数は8席だ。だからわいわい賑わうことはない静かのお店。隠れ家的なドーナツ屋だ。そうそうお姉様曰く基本テイクアウトの人が多いみたいだ。って、俺は夜の時間帯しか来ないからそのほかの時間帯のお店の様子はほとんど知らないんだがな。


 カウンター席へと向かった俺はいつものように座る。そして少しオールドドーナツを見つつ。今日もいい形してるな。美味そうだな。などと思いつつ待っているとお姉様が飲み物を持って来てくれた。そしたら、いただきます――ではない。時間的に多分いつも通りなら、もうすぐ――友人が来るので待つ。それに今日はおまけのドーナツももらっているので、少しだけ待っていよう。

 実は来るかは不明で、多分なのだが――今日は絶対来ると思うからな。先週言っていたカラオケの愚痴が来ると俺は思っているのだが。さて、俺の予想は……。


 ガチャ。


 するとお店のドアが開く音が聞こえてきた。

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