テクニカル戦争

第54話 子孫

 僕、マクシミリアン・フォン・B・ローエンシュタインは、ローエンシュタイン家の大父マクシミリアン様の足跡を調べていた。

 ローエンシュタイン家中興の祖として、大父の称号を与えられたマクシミリアン様から数えて八代目となるが、僕は大きな問題に直面していた。


「フィエルテ王国史に載ってない、日記だけの記述も真実なのかな?」


 大父様は帝国との戦争のさい、僅かな伴と帝国に乗り込み、その輸送網を破壊した。

 その結果、帝国は圧倒的に有利な国境の砦への籠城がつかえなくなり、短期決戦の為に野戦を仕掛けてきたのだ。

 ただし、開戦前から輸送部隊を襲っているので、帝国の手前国史に載せるわけにはいかなかったとか。

 公式記録には無いが、終戦後に大父様のアイテムボックスから出てきた帝国兵の死体は1000人を超えていたと、ニクラウスの当時の日記に記してある。

 野戦は一進一退の攻防となったが、三日目の戦いでフィエルテが優勢になり、そのまま帝国が撤退することとなった。

 これにより国境付近はフィエルテの勢力下となる。

 帝国はこれ以上の国内への侵入を嫌い、早期に講和が結ばれることとなった。

 フィエルテの主張を一部認め、カール王子の返還と賠償金に一部領土の割譲となった。

 しかし、カール王子は帰国となるのを知ると自害してしまったため、その亡骸のみが無言の帰国となった。

 なお、アンネリーゼの行方は掴めなかった。

 王子の子を宿しており、フィエルテ王家の血筋を帝国に残すつもりだったのではないかと推測されている。


 大父様は戦争の功績は公にならないが、戦費をドミニク殿下に出した功績から、伯爵位と帝国から割譲された領土の一部を下賜された。

 既に侯爵ではあったが、国から与えられたものではなかったことと、子供に継がせる為の爵位として、ドミニク殿下が気を使ったのだ。

 後に、大父様の次兄は辺境伯の継承権を放棄し、家督を大父様に譲ることとなった。

 功績から考えて、自分よりも大父様が相応しいと判断したのだ。

 これにより、大母ブリュンヒルデ様の子供が辺境伯を継ぎ、大母エリーゼ様の子供が侯爵を、大母マルガレータ様の子供が伯爵を継ぐこととなった。

 皆、名前に大母様の頭文字のB、E、Mを入れて、どこの血筋のローエンシュタインかをわかるようにしてある。

 それが入っていないのは、大父様の子ではないローエンシュタイン家の者となっている。


 戦後、無事に帰還された大父様は、小麦の先物で利益を出した後は、戦勝好景気とその後の不況を見てきたかのように正確に的中させ、不況で立ち行かなくなった貴族の爵位を購入した。

 なので、大父様の子供は皆爵位を持つ事となった。


 「相場は狂乱せり」と大父様はある日の日記に残していた。

 その日を境に買いを手仕舞いして、少しずつ売りを積んでいったとある。

 そして二週間後、相場は天井をうった。

 そこから一ヶ月間の下落が続き、株も商品も皆暴落した。

 悲劇の火曜日と言われる暴落で底を打つのだが、悲劇の火曜日に大底で投げた投資家が沢山いたらしい。

 大父様は当時の金融大臣から、売りの手仕舞いを打診されて、悲劇の火曜日に買い戻しを入れた。

 そして、一気にドテンしたのである。

 大父様のドテンが伝わると、相場は一気に反転した。

 後世の歴史家はあの時の更に売っていたら、フィエルテの市場は崩壊していたと書いているが、大父様はそれ以上は下がらないとわかっていたのではないだろうか。

 なにせ、大父様の日記にもここらで大底かなと書いてあるのだから。


 その後も度々ヨーナス、ハーバーと組んで、様々な相場に手を出しては資産を増やしていった。

 株では買い占めをしたが、商品の買い占めを行うことは無く、相場が終わると物価が下がったので、庶民には大父様の人気は高かった。

 徹底して買い占めはしないという信念を貫いたのだ。


 そんな大父様も大母マルガレータ様が78歳で亡くなると、それを機に家督を子供たちに譲って引退された。

 当時の記録ではショックのあまり人目を憚らずに泣き続け、一ヶ月ほど食事もろくにとれなかったとある。

 大母ブリュンヒルデ様とエリーゼ様がずっと付き添い、落ち込む大父様を慰めていたそうだ。

 一ヶ月後に家督を譲り、持っていた資産は男女の区別なく全ての子供に平等に配分した。

 領地は分けられなかったが、動産については平等に分配したので、直系の子供は男爵ですら数千億マルクを得た。

 女子は金の力を使って、嫁ぎ先で完全に実権を握ることになったとある。

 大父様は聖下としての収入もあったので、生活には困らなかった。

 そして、3冊の相場の極意を記した書を書き上げる。

 これを辺境伯、侯爵、伯爵の三人の息子にそれぞれ託した。

 内容はそれぞれ別らしいが、当主のみに閲覧が許されているため、真相は定かではない。

 その後の大父様は聖下としての収入を種銭に、細々と相場を張るのみだったという。

 だが、情熱を失ったわけではなく、最後の言葉は


「今日の小麦の価格は?」


 だったと記録に残っている。

 最後まで相場を気にしていたわけだ。

 そして、68歳でこの世を去った。

 今では三人の大母様と一緒に、王都の教会の墓地に三人で眠っている。

 その墓前には、三人と結婚することになった塩が毎日供えられていた。


 僕がどうして大父様の足跡を調べていたのかというと、マルガレータ・ローエンシュタイン家による小麦の買い占めで、うちが苦境に立たされているからだ。

 今年は何十年に一度の不作で、元々小麦は値上がりしていた。

 そこに目をつけたマルガレータ・ローエンシュタイン家が小麦の買い占めを行ったのである。

 王都ですら小麦の入手が困難であり、辺境の我が領地まで小麦がまわってこない。

 隣のシェーレンベルク家も同様に困っている。

 なお、シェーレンベルク家には大叔母様のブリュンヒルデ様が嫁いでいる。

 大母様と同じ名前だがその気性が荒く、魔法学園時代には気に入らない貴族令嬢をビンタした武勇伝が残っている。

 大叔母様にはマルガレータ・ローエンシュタイン家を売りで倒せと矢のような催促が来ている。

 父が急逝して家督を継ぐことになった僕には荷が重いが、大父様以来の味属性を持った僕は、一族で大父様の生まれ変わりと言われている。

 残っている肖像画もよく似ていると言われるが、同じ年代の肖像画は殆ど女装したものなので、本当に似ているかは疑問だ。

 これは、大母様たちが女装以外の肖像画を描かせなかったからだという。

 ヴァルハラ教も僕を聖下の生まれ変わりとして、崇拝対象にしたいらしいのだけど、何故女装を強要してくるのか意味不明だ。

 教会の伝統だというが、そんな伝統は廃れてほしい。


「はぁ…………」


 僕は大きなため息をついた。

 結局、女装をしている。

 大父様の生まれ変わりを演じ、小麦の買い占めを売りで潰すためだ。

 既に、海外に大船団を送り込んだ。

 豊作の国から小麦を買い付けて、領地の民に小麦を配給するためだ。

 本当はこれを使って小麦相場を売り崩したい。

 しかし、マルガレータ・ローエンシュタイン家の資金は莫大だ。

 色んなものに投資をして、領地以外の金融収入がある。

 その資金源を断って、小麦の買い占めから撤退させる必要がある。

 今すぐには無理だがいつか来るその日のためには、女装して教会のおもちゃにされるのも我慢だ。

 戦えるだけの資金を作って、売り崩すための現物を用意してやる。


 そう決意した僕は教皇を待たせてある部屋に入る。


「お待ちしておりました。正しく聖下の生まれ変わり。肖像画と寸分違いませんな」


「生まれ変わりだからね。今記憶を取り戻したところだよ」


 そう演じると教皇は目を丸くした。

 冗談でも言わないと今すぐ泣き出してしまいそうだったので、正気を保つためにそう言ってみただけだ。

 しかし、それを聞いた教皇はうっとりとした目でこちらを見てくる。


 さあ、反撃の狼煙をあげよう。

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