第52話 鉄のパンツ
魔法学園も二年生になった。
帝国の仕掛けてきた両替を使った金の流出に対して、根本的な対策は取ることができていない。
銀貨の増産をして両替商に銀貨での両替を依頼したり、こちらからの輸出を増やそうとしているくらいだ。
輸出品の支払いにフィエルテ金貨を要求すれば、帝国に流出した金貨が少しは帰ってくるからだ。
ただ、相手も当然帝国金貨で支払いをしようとする。
フィエルテ金貨のみの支払いしか認めないが、それでも欲しいと思わせる商品の開発が急がれた。
僕もこの世界では製造が困難なうま味調味料や料理酒を作り、帝国に輸出をすることになった。
ヨーナス商会を通じての貿易となる。
このうま味調味料や料理酒が評判となり、ヨーナス商会は帝国への足がかりを築いた。
僕は毎日魔法学園が終わると、ヨーナス商会で各種調味料を作って、魔力が切れたら屋敷に帰る生活となっていた。
エルマーの店にはヨーナス商会から配達してもらっている。
勿論、全てを輸出にまわすわけではなく、国内でも売っている。
今や調味料といえばヨーナス商会だ。
それに、僕が居なくても調味料を作ることができるように、調味料の研究開発もしているようだ。
さらに、国外からの輸入にも力を入れている。
フィエルテ王国ではヨーナス商会に置いてない調味料は無いとされているのだ。
なお、調味料は専門の店舗で販売している。
なにせ、種類が多すぎて通常店舗では置ききれないのだ。
そんな生活をしていたある日、王宮に呼び出しを食らう。
呼び出したのはドミニク殿下だということだが、別に何の心当たりもない。
これはいよいよ貞操の危機かもしれないな。
ブリュンヒルデは鉄のパンツを作るとか言っているが、当然間に合うわけもない。
「マクシミリアンのお尻は私達のものですわ」
「僕のものです!」
などというやり取りのあと、王宮から来た迎えの馬車に乗って向かう。
事前のやり取りのせいで、体を求められたらどうしようなどと余計なことを考えてしまう。
なにせ、魔法学園では言えないような内容なのだろうから。
でなければ呼び出しなどするはずがない。
王宮に到着し、案内されたのは殿下の部屋だった。
部屋の中には殿下だけ。
その瞳には憂いを帯びていた。
「実はお願いがある」
真っ直ぐにこちらを見られると、ついドキッとしてしまう。
つばをゴクリと飲み込んで身構えた。
「金を貸してほしい」
「はい?」
思っていたのとは違ったお願いが出てきて、思わず間抜けな声を出してしまった。
殿下もしまったという顔をする。
「まずは説明しないとだな。兄上が駆け落ちした事はしっているよな」
「はい」
「そして、帝国はフィエルテ王家の血筋を手に入れたことで、我が国への野心を隠さなくなった。金の流出はその一環だ。このまま行けば金を失う我が国と帝国との国力の差は広がるばかりとなる。そこで、国力の差が広がる前に、帝国との戦争をして、相手の野心を挫くこととなったのだ」
「あの、話が飛躍しすぎていて、思考が追いつかないのですが」
なんでいきなり戦争する決断になったのか、その背景が全く見えない。
殿下の話にポカンとするしかなかった。
そんな僕を見て、殿下は説明を続ける。
「帝国の仕掛けてきた金の流出を防ぐ策を考えているときに、兄上を奪還すれば帝国の野望も一度は逸らすことができるのではないかという意見が出た。主に兄上を推していた貴族たちからだがな。戦争で手柄を立てれば今の非主流派に置かれた状況を打開できると考えたのか、もう一度兄上を担ぎ出すつもりなのかはわからないがな。そして、俺に王位を継ぐなら功績を積むべしと迫ってきたのだ」
「しかし、それは所詮は非主流派の意見でしょう。別に言うことを聞かなくてもよいのでは?」
「俺を推していた貴族も、さらなる利権や地位のために戦争をしたいと考えていたのだよ。既に開戦やむなしの雰囲気になっている。王家の力が弱いというのも困りものだな。国王陛下も貴族たちを止めることが出来ない。そして、ここに来て戦費は国が持てというわけだ。みな、私を値踏みしているわけだ。次期国王としての手腕を見極めたいのだろうな」
利権のために戦争とは愚かしいが、どこの世界でも戦争なんてそんなもんだ。
それにしても国力で劣るフィエルテが、帝国に戦争を挑んで勝てるものなのだろうか?
拉致された王子を取り返すという大義名分は得られても、国力の差は如何ともし難いのではないだろうか。
「そもそもですが、戦争を仕掛けたとして勝てるのですか?」
「帝国はその拡大政策のせいで四方に敵を作っている。全ての軍をこちらに向けるわけにはいかないというわけだ。それでも、確実に勝てるという保証はないがな」
「それを金を貸してくれと頼んでいる僕の前で言っていいんですか?」
「マクシミリアンの事は学友だと思っているからな。まあ、その学友に金の無心をしている情けない立場なわけだが」
そう言うと、殿下は影のある笑みを浮かべた。
自嘲だな。
若いのに苦労が絶えなそうだ。
その半分は僕に原因があるのだろうけど。
さて、その半分の責任を取るべきか。
「殿下、如何程の資金が必要なのですか?」
「どれくらい長引くかにもよるが、少なくとも5000億マルクは欲しい。欲を言えば1兆マルクだな。生憎と担保に差し出すものがない。そうだ、俺の体を好きに使ってくれてもいいぞ」
殿下の提案は冗談なのか本気なのかわからない。
が、登城する前に心配していたのとは逆の事が起きたのだ。
ただし、僕にはお金を払って男を抱く趣味は無い。
クラスの女子の脳内では何度となく殿下の体を味わっているのだろうが、現実にはそんなことは無いのだ。
僕が黙っていると、殿下は心配になったようだ。
「足りないよな」
と言ってきた。
「足りないというか、殿下の体をどうこうするつもりはありません。1兆マルクは債券を発行してください。償還は10年先で年利5%でお貸しいたします。帝国から賠償金が取れたなら、問題の無い金額でしょう。ただし、すぐに用意はできないので、一週間ほど時間を下さい」
僕が条件を出すと、殿下は驚いて固まった。
「いいのか?」
「私もこの国の貴族ですからね。少しはお力になりますよ。それに、償還されたら私は損しませんからね」
「恩に着る」
殿下は深々と頭を下げた。
そして、顔をあげると妙に熱を帯びた感じがする。
おや?
「マクシミリアン、いつでも好きなときに俺を抱いてくれ。お前になら抱かれても構わない。いや、むしろ抱かれたい。入学式の時から今までずっとそう思っていた」
殿下が僕の手を強く握ってくる。
顔が目の前に迫ってきて、吐息が顔にかかる。
今そんな告白をされても困る。
いや、今じゃなくても困る。
なんとか殿下をふりきって、馬車に乗るとぐったりとした。
妻たちに殿下の告白を伝えると、僕専用の鉄のパンツが発注される事となった。
殿下以外に教皇にも狙われる可能性があるから、すぐにでもということだ。
その日の夜は殿下の告白を忘れるため、一晩中マルガレータに甘えて過ごした。
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