第15話 売り本尊、マクシミリアン誕生

 さて、仕手戦を仕掛けるにしても、何事も準備からだな。

 今ここで勝負を仕掛けても、本尊を損させることは出来ない。

 まともにぶつかったら資金力で負けるので、策をこうじることにした。


 いつものようにヨーナスの事務所に行き、彼を見つけると


「ヨーナス、お願いがあるんだけど、荷馬車を3台とその荷台にいっぱいの塩を入れる瓶を用意してほしいんだ」


 そうお願いした。


「何をするんですか?」


「買い本尊がわかったんだ。だから、勝負するに決まっているじゃない」


「シェーレンベルク公爵ですね」


 意外なことに彼は既に本尊を知っていた。

 昨日の今日でよくわかったな。


「商人は情報が命ですからね」


 という事は辺境伯家か公爵家に情報を流している奴がいるんだろうな。

 それを責めるつもりもないけどね。

 しかし、そうなると事は慎重に進めないと情報が筒抜けになってしまうな。


「その早耳には感心するよ」


 尚、昭和の時代はインサイダー情報も早耳情報と呼ばれ、それを取ってくるのが優秀とされていた。

 証券業界が蛇蝎のように嫌われているのもよくわかる話ですね。

 素人は情報を持った玄人に食い物にされていたわけですから。


「お褒めにあずかり光栄です」


 ヨーナスは悪びれた様子もない。

 当然だと言わんばかりの態度だ。


「それで、このままだと戦争になっちゃうからそれを止める。シェーレンベルク公爵と真っ向勝負だよ」


「マクシミリアン様は上得意ですから諫言いたしますが、シェーレンベルク公爵家の資産は天井知らずと言われております。その公爵が買い占めをしているのですから、売りでは勝てないですよ」


「まあ普通に考えたらそうだよねえ」


「ええ」


 ヨーナスは僕が考えを改めると思ったらしい。


 が、


「いや、明日の引け直前にドテン売りをするよ。5000枚売って欲しいんだ。ヨーナスも買い玉があるなら手仕舞いしたほうがいい」


 僕は忠告を聞かない。


「荷馬車と関係があるんですね」


「そうだよ。毎日ヨーナスの商会に塩を運んでくるつもりだ。ローエンシュタイン家が管理する土地で塩を産出する場所が見つかったと言ってね」


 そこまで種明かしをすると、ヨーナスも納得した。


「それなら暴落しますね」


「でしょ」


 そこでヨーナスの表情が一瞬で険しくなった。


「でも、マクシミリアン様の手持ちの塩は20トンしかないですよね」


「そこはヨーナスが心配することは無いよ。毎日持ってくる瓶を受け入れてくれたらそれでいい」


「わかりました、請けましょう」


 こうしてヨーナスはその日のうちに荷馬車を用意してくれ、ローエンシュタイン家が管理する土地まで来てもらった。

 ここで一度御者には徒歩で帰ってもらい、明日またここに来るようにお願いした。

 距離はそんなに遠くは無いので、徒歩でもなんとかなる距離だ。


 その後屋敷に帰ると雰囲気は最悪だった。

 アルノルトが調度品に八つ当たりをして壊していた。

 安くはないのになあと、遠目で見ながら近寄らずに自分の部屋を目指す。


 父の執務室の前を通った時には、寄り子の貴族に声をかけて戦争の準備をするようにと怒鳴っている声が聞こえてきた。

 やはり期近の清算日までに決着をつけないとまずいことになりそうだなと改めて思う。


 夜になると晩御飯をマルガレータが運んできたが、どうもその表情は暗かった。

 それが気になったので聞いてみた。


「マルガレータ、どうしたの?心配事でもあるの?」


「はい。マクシミリアン様はご存知でしょうか、近々ルードルフ様が隣の領地に戦争を仕掛けるという噂を」


「まあ、屋敷の中にいれば嫌でも聞こえてくるよねえ」


「はい。それで実家と嫁ぎ先の事が心配になりまして」


 彼女も貴族の出身なので、戦争ともなれば家族は駆り出される。

 場合に寄ったら彼女自身もだな。

 それが心配なのだろう。


「僕がなんとかするよ」


 そう言うと、彼女は微笑んだ。


「マクシミリアン様はお優しいのですね。それが本当ならこの身を捧げてもよろしいのですが。ただ、マクシミリアン様にもどうにも出来ないのもわかっております」


「うーん、本気なんだけどねえ」


 会話はそこまでとなり、僕は食事をとって明日に備えて早めに寝た。

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