第60話:明るい家族計画

「セバスチャン、その、私にやっていただきたい事とは何なのだ」


 父上がとても心配そうに聞かれた。

 俺と一緒で、いや、俺以上にセバスチャンを警戒している。

 父上がセバスチャンと過ごした時間は、俺の十倍以上だろう。

 当然、セバスチャンに教えられたことは、俺以上に多いはずだ。

 自分の力不足とセバスチャンの悪辣さを、俺以上に思い知っていると思う。

 決して俺たちに向ける事のない悪辣さだが、怖いとは思ってしまうのだ。


「大したことではございませんので、そのように警戒されないでください。

 イーライ様のお陰で、公爵家の直轄領は、以前の千倍以上になっています。

 大公閣下の子女に分与する領地に困る事がなくなりました。

 むしろこれからは増えた領地を統治する家臣に困る事になります。

 ですので、婚姻政策の為にも、大公閣下と奥方様には、今まで以上にお子を作って頂きたいのです。

 普通の家臣ならば、大公閣下に側室を勧めるところですが、わたくしとしては、そのような事をして、大公一家の仲を悪くする気はありません」


 うわ、セバスチャンがとんでもない事を言いだしたよ。

 父上が顔を赤くしたり青くしたりしている。

 最初母上との間にもっと子供を作れと言われた時には真っ赤になっていたが、側室の話しをされた時には、青くなって母上の方に視線を向けた。

 母上は最初真っ赤になっていたが、側室の話しになったとたん、もの凄く疑わしそうに父上の方に視線を向けられた。


「あああああ、セバスチャン、私は側室を設ける気はまったくない。

 最初にそれをはっきり言っておく、いいな」


「はい、確かに承りました」


「それと、もっと子供を設けろと言う事だが、それはイーライには政略結婚をさせないが、その代わり弟妹たちに政略結婚をさせると言う事か」


「確かに政略の意味が全くないかと言われれば、なくはないです。

 王侯貴族に政略のない結婚を望む事など、ほとんど不可能でございますから。

 ですが妹様方には、以前よりも有利な条件で政略結婚をしていただけます」


 セバスチャンがそう言うと、父上と母上が申し訳なさそうに眼を背けた。

 お二人の結婚の際に、随分とセバスチャンに負担をかけたのだろうな。

 公爵家の嫡男が、政略を無視して好きな女と強硬に結婚したのだからな。

 だがここでその話を蒸し返すセバスチャンは、やっぱり悪辣だな。

 これでは、オードリーとサバンナを政略の駒にするな、と言えなくなる。


「それは、分かっている、分かった、オードリーとサバンナの件はいい。

 今のセバスチャンの話しでは、二人を国外に出さずに国内に止めてくれる気なのだろうから、全て任せる。

 だが新たに子を設ける話は、これまで通りでよいだろう。

 これまでから二年に一人の割合で子供を作っている。

 これ以上になると、毎年子供を作る事になる。

 女性にとって出産は命懸けの事だぞ、毎年子供を作れと言われても無理だ」


 父上は本当に母上の事が大好きなのだな。

 母上の身体の負担を考えてセバスチャンの提案を毅然と断っておられる。

 その姿は、さきほどまでの気弱な父上とは大違いだ。

 以前俺に見せてくれていた強く頼りがいのある姿だ。

 だが、それでも、きっと、セバスチャンが言い負かしてしまうのだろうな。

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