第47話:殺すべきか殺さざるべきか
昨日の晩は予想以上に盛り上がった。
子爵が俺の食料支援を城内の士気をあげる好機だと思った事情もある。
子爵は城内にある貴重な酒を領民たちにまで配ったのだ。
万が一、王家の軍が攻めて来てはいけないので、泥酔するほどの量ではない。
だがたとえコップ一杯の酒であっても、苦しいと思っていた籠城戦の始めに、心配だった食料を俺に与えられ、領主からは酒が与えられたのだ。
家臣たちはもちろん、領民たちの士気が上がるのも当然だった。
わずかコッピ一杯の酒で、驚くほど陽気になり、歌い踊り出したのだ。
正直俺は唖然として見守る事しかできなかった。
家臣領民と謁見するための大広間には、領主が座る椅子が設けられている。
王の玉座ではないが、家臣領民にとっては同じ物だ。
お俺は領主を差し置いて、その権威ある椅子に無理矢理座らされてしまった。
最初は遠慮したのだが、子爵も夫人も一族たちも一歩も引かない。
だが俺もここで引くわけにはいかないので、断り続けたのだが……
領主とその一族に、家臣領民たちに子爵家の主人が大公家だと印象漬けたいと言われてしまったら、もう断る事はできなかった。
家臣の領内統治の手助けをするのも、大公家の役目だと割り切った。
だが、妙齢の令嬢に世話させるのは止めてくれ、俺はまだ幼いのだ。
「王の軍隊は、援軍が来るまで動かいないつもりのようだな」
「はい、勝ち負けの分からない戦いを始めて、これ以上評判を落としたくないのでしょうし、何より自分が死ぬのが怖いのでしょう」
子爵が汚いものを吐き捨てるようの話す。
よほど指揮官のバカ将軍ベンソンが嫌いなのだろう。
ベンソンが好き勝手していた時に、嫌な目にあったのかもしれないな。
俺もベンソンの事は嫌いだから、同じだな、子爵。
さて、このまま放置して、敵が一緒に襲って来るのを待って脅かすか。
それとも別々のうちに個別で脅して追い払いか、どちらがいいだろう。
「イーライ様、敵が合流する前に追い払ってください。
ファイフ王国軍の指揮官が愚かで好戦的だった時には、負けると分かっていても、将兵を無駄死にさせると分かっていても、突撃してくる可能性があります。
慎重で名声に拘るベンソン将軍が指揮官のうちに、王家の軍勢だけでも追い払って頂ければ、敵味方の死傷者が少なくてすみます」
俺が大公城に送っていた数十の伝令魔術のうちの一つが、セバスチャンの言葉を届けてくれたが、その中には俺を心配する意味が隠されていた。
俺が人間を傷つけられない事をセバスチャンは知ってくれている。
敵味方に死傷者を出さないようにするという言葉に中には、俺に無理をして人間を傷つける必要はないと言ってくれているのだ。
俺はその優しさに甘える事にした。
「子爵、敵味方に分かれているとはいえ、同じ国の民だ。
あの中には王やベンソン将軍に無理矢理戦わされている者もいるだろう。
だから極力を傷つけないようにして追い払おうと思う。
王家の軍が背中を見せて逃げ出しても追い討ちしないでくれ」
「承りました、イーライ大公公子殿下。
殿下のお優しいお心を穢すようなマネはいたしません。
王家の軍勢が無様に逃げ出して、絶好の機会が訪れたとしても、殿下のお顔に泥を塗るような追い打ちはいたしません。
お前たちも配下の者どもにしっかりと言い聞かせておけ」
「「「「「はい」」」」」
子爵がしっかりと確約してくれたが、恩も着せてきやがった。
まあ、最前線に領地を持つ領主なら当然の事だな。
絶好の機会を見逃す代わりに、決して見捨てないでくれという言外のお願いだ。
当然のお願いだから、聞き届けないといけない。
最初から一人の家臣も領民も見捨てる気はないが、確約しないとな。
いや、言葉ではなく実際の行動で示さないといけないな。
「では、我が愛しの従魔たちに働いてもらう事にしようか。
よく見ておいてくれ、子爵。
もしもう一度王家の軍がこの地に攻め込んできたとしても、必ず護って見せる。
私がここに来れなくても、この子たちが駆けつけるから、安心してくれ」
今まで気配を隠していた従魔たちが一斉に自分を誇示した。
ここに来た時にも誇示したのだが、その時には王家の軍は引かなかった。
度胸があるのかと思ったが、違っていた。
王家の軍の質があまりに悪いので、従魔たちの強さも理解できなかったのだ。
だが今回は、獰猛な気配を露にした従魔たちが間近にまで迫ってくるのだ。
恐怖を抑えてこの場に留まれるかな、ベンソン将軍。
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