第34話:井戸掘り

「セバスチャン、本当に俺が魔力で掘らなくていいのか。

 このような道具を使わなくても、俺が魔力を使えば簡単に井戸を掘れるぞ」


「イーライ様、今回は修学旅行でここに来ているのでございます。

 この世界では、全ての民に魔力があるわけではありません。

 とても少ない魔力の者を合わせても、十人に一人くらいです。

 属性や適正もありますから、一人で深い井戸を掘れるほどの魔力持ちは、千人に一人ほどでしょう。

 そんな魔力持ちには、軍事はもちろん、農地を富ませる役目もあるのです。

 魔力のない者でもできる井戸掘りを、魔力持ちにやらせる余裕などありません。

 それにそんな事をすれば、井戸掘り職人の仕事を奪う事になります。

 孤児たちの中からは、領主に成れる者や、村長を任せる者も出てきます。

 井戸掘りの技術を覚えておくことは、必要な事なのでございます」


 考えなしな事を口にして、セバスチャンの怒られてしまった。

 直接叱責の言葉を口にされたわけではないが、長々と説明してくれる言葉の中に、孤児たちの前ではよく考えて口にしてください、という気持ちが込められていた。

 俺が孤児たちとの生活を楽しめるように、遠足や修学旅行をやってくれてる。

 そんな優しい心があるセバスチャンだが、同時に厳しい教師でもある。

 孤児たちの忠誠心を失うような言動をするとやんわりと怒るのだ。


「そうなのだな、それは知らなかった、よく知らせてくれた、ありがとう。

 セバスチャンの忠誠心と知識のお陰で、俺はよき領主となれるだろう。

 これからも俺を支えてくれよ、セバスチャン」


「有り難きお言葉、恐悦至極でございます。

 これくらいの事、長年に渡るご恩に比べれば大したことではございません。

 これからも命ある限り、イーライ様は勿論、大公殿下にも微力ながら働かせていただきますので、お見捨てなきようにお願い申し上げます」


 どうやらセバスチャンの望む言葉が言えたようだ。

 孤児たちの忠誠心を得る言葉を口にできたから、合格だと言う気持ちを込めて、終生の忠誠と奉公を誓ってくれた。

 そんな俺とセバスチャンの姿を見せる事で、孤児たちに正しい君臣の姿を伝えようとしているのが分かる。


「イーライ様、私もイーライ様と大公家に終生の忠誠を誓わせていただきます」

「私も、私のイーライ様と大公家に終生の忠誠を誓います」

「僕もです、僕もイーライ様と大公家にに終生の忠誠を誓います」

「俺もイーライ様と大公家に忠誠を誓い」

「「「「「俺も忠誠を誓う」」」」」

「「「「「私も忠誠を誓います」」」」」


 最初にベラが俺の瞳を見つめながら終生の忠誠を誓ってくれた。

 その瞳の中に、幼いながらも愛情が感じられて、とまどってしまう。

 そんなベラに触発されたのか、孤児たちが一斉に終生の忠誠を誓ってくれた。

 あまりの事に固まってしまいそうになるが、セバスチャンの厳しい視線を背中に感じて、急いでどんな返事をすべきか考えた。


「みんなの忠誠の誓い、受けさせてもらう。

 私もこの場で皆に誓おう、みなの忠誠に恥じない、よき領主となってみせる。

 領地を富ませて、領民を飢えさせることのないようにする。

 もし攻め込んで来る敵がいるのなら、必ず打ち払って領地の平和を守る。

 だからみんなにも協力してもらう、いいな」


「「「「「はい」」」」」


 感動の出来事の後だが、ちゃんと井戸掘りはしなければいけない。

 セバスチャンが教えてくれた井戸掘りの道具は、上総掘りと言うらしい。

 竹や材木を使って、竹ヒゴとヒゴグルマ、ハネギや弁を利用するらしい。

 王家や他領に利用されないように、製作図はないという。

 公爵家に誰にも教えないと魔術誓約した者だけが教えられるという秘道具だった。

 セバスチャンは最初から孤児たちに誓約させる心算だったのだ。

 油断も隙もない怖い男だな。

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