第35話:従魔と人と絆

「なあ、セバスチャン、幾ら何でも一カ月も城を留守にするのは問題があるんじゃないのか、まだ王国とは正式な領地交渉をしていないのだろう」


「大丈夫でございますよ、イーライ様。

 イーライ様の魔術が、この三カ月で格段に上達されたではありません。

 伝書魔術が、わずかな魔力で一日何百回も即座に往復できるのです。

 何かあれば直ぐに大公城から連絡がございます。

 城に残した従魔たちからも、気配を感じる事ができるではありませんか。

 城に異変を感じられたら、転移魔術で一緒に戻ればいい事でございます。

 それに、時々城に戻っておられるのですよね、分かっておりますよ」


「セバスチャンには敵わないな。

 だが仕方がないではないか、一カ月も父上や母上とお会いできないのは寂しい。

 妹たちにも会いたいし、城に残した従魔たちも寂しがってしまう。

 万が一にも、寂しさや魔力欲しさで人間を襲ってはいけないからな」


「一日に何度城に戻ってくださっても構いませんが、孤児たちとの触れ合い時間は確保してください、お願いいたします」


「いや、俺だって孤児たちとの触れ合いは楽しいし、大切だと思っているから、別にセバスチャンに言われなくても減らしたりはしないよ。

 行軍の合間に戻ったり、就寝時間中に戻るようにしているよ」


「はい、それは分かっておりますが、イーライ様が心配されるので言っただけです。

 改めて王国との事を説明させていただきますと、大公国側の圧勝でございます。

 イーライ様が毎日増員してくださる従魔たちを恐れて、王国軍は大公家についた貴族士族に攻撃する事ができなくなっております。

 最前線あたる貴族家と士族家は勿論、後方支援を行う拠点となる貴族士族家にも、従魔士部隊が常駐しておりますから」


「確かに、あれだけの従魔がいれば、手出しするのは勇気がいるよな。

 だが従魔の食事は大丈夫なのか、あいつらは単に食糧だけでなく魔力も欲しがる。

 それに、預けた従魔の数が、従魔士一人が扱うには多過ぎると思うのだが」


「その点は駐屯する貴族家や士族家を厳選しておりますので、大丈夫でございます。

 今回の長期修学旅行と同じように、狩りのできる魔境や森を中継して行軍するようにしておりますので、食料にも魔力にも不足する事はありません。

 大公国の従魔士たちから食料を与えられる事で、魅了魔術で築かれたイーライ様との絆が、徐々に従魔士たちに移っているのではありませんか」


「ああ、正直に言えば、寂しく感じてしまうくらい順調に絆を築いているよ。

 本当は魅了した全ての従魔を手放したくないと思っているからな」


「イーライ様の魔力量なら、数万頭でも数十万頭でも絆を結び続けられるでしょう。

 ですがそれでは、イーライ様のおられる所でしか従魔を戦わせられません。

 従魔たちを大切に思われるイーライ様のお気持ちを踏みにじってしまいますが、大公国や大公国を慕う貴族士族をも守るためには、我慢していただきます」


「分かっているよ、俺だって大公家の跡継ぎなのだから、政治的な事で我慢しなければいけない事があるのは理解している。

 そのうえで、セバスチャンが俺に息抜きさせてくれているのも分かっている。

 だから文句はない、いや、心から感謝しているよ。

 普通の貴族家公子だと絶対に味わえない、子供同士の触れ合いの場を作ってくれている、セバスチャンの優しさを分かっているからな」


「分かっておられるのなら、心配されずに命一杯愉しんでください。

 今はまだ大丈夫でございますが、隣国が敵に回ったら、こう言う楽しみは中止しなければいけなくなりますから」


「隣国が攻め込んで来る兆候でもあるのか」


「今のところはございませんが、何時何があるか分からないのが人生でございます。

 イーライ様も私も、この世界に転生するなんて考えもしていませんでした。

 同じような、私たちには非常識に思われることが起こるかもしれません。

 万全の用意を整えておいて、後は命一杯愉しむ事でございますよ」


「そうか、そうだな、本来なら終わっていた人生だもんな、楽しまなきゃ損だな」


「はい、その通りでございますよ」


「ベラ、もう一度狩りに行かないか」


「行きます、行かせていただきます、イーライ様」

「僕も、僕も一緒に狩りに行かせてください」

「私も、私も一緒に狩りに行かせてください」

「「「「「俺も一緒に行きたいです」」」」」

「「「「「私も」」」」」


「全員で狩りに行くぞ」


「「「「「はい」」」」」

「「「「「ウォン」」」」」

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