第17話:子魔狼
死屍累々となっている大魔境の大地を踏みしめて前に進む。
少し遠いくらいなら、魔法袋の自動回収機能で死体を集めてくれる。
だが、あまりに遠いと魔力の浪費になるので、自分で近づいた方がいい。
だから俺はセバスチャンを従えながら歩く事になる。
偉そうに従えながらとは言っているが、実際には後ろから監督されている。
いや、セバスチャンが背中を護ってくれていると言った方がいいな。
「イーライ様、ゴブリンとコボルトは肥料に使えますので、大魔境を出たら冒険者ギルドに引き渡しましょう。
ああ、狼や魔狼の餌にする分は残しておいた方がいいですよ」
「セバスチャンはこっちの世界に長いし、色々あったのだろうから、感覚が麻痺していると思うけれど、俺には人型をペットの餌にする気にはならないよ」
「これは申し訳ない事を口にしてしまいました。
さようでございますね、前世の感覚やモラルはとても大切ですね。
イーライ様の魔法袋には、カピバラやヌートリアに匹敵する大きさの魔鼠や魔兎がたくさん蓄えられているのですよね。
この世界では、人間が食べられる魔獣や獣を家畜の餌にする感覚がありません。
普通はゴブリンやコボルト、あるいはオークの肉を与えます。
この世界の人間も、人型魔物を食べないようにするモラルくらいはあるのです。
ですが、飢えに苦しむ貧民の中には、食べる者もいるのです。
奴隷の主人には、奴隷に無理矢理人型を食べさせて、苦しむ奴隷を見て喜ぶ品性下劣な者もいるのです」
「セバスチャンは俺にそんな話をして何が楽しいんだ」
「怒りを感じたイーライ様が、この国の奴隷廃止に向けて戦ってくださることを願っているのでございます」
「今のような酷い話を聞かされなくても、時期が来たら奴隷廃止に動くから。
セバスチャンとの約束を忘れたりはしないよ、それとも今直ぐ動きべきなのか」
「これは申し訳ない事を口にしてしまいました。
わたくしとした事が、少々口が軽くなってしまったようでございます。
まだ幼いイーライ様に今直ぐ動いてもらう気はありませんのです、はい」
よく言ってくれるよ、全部計算に入っているんだろ。
俺がこの世界の幸福に満足して、堕落してしまわないように、定期的に良心を刺激して、奮い立つように仕向けているのだろう。
そうしてくれた方が俺もいいとは思っているから、これ以上は文句を言わない。
セバスチャンがいて、父上と母上がいてくださる。
最初は少し嫉妬したけれど、可愛いオードリーとサバンナと言う妹がいる。
こんな幸せを手放したくなくて、家庭以外の事を切り捨てたくなるかもしれない。
人間が富と権力を得て堕落すというセバスチャンの話しは、本当だと思う。
俺の本当に欲しい物は富でも権力でもなく愛だけれど、それはこの世界の俺が、富も権力も持った公爵家の後継者だからかもしれない。
セバスチャンの指導がなくても、この世界では飛び抜けた魔力があった。
もし俺が貧乏な家に生まれていたら、家族に豊かな生活をさせるために、魔力を悪事に使っていたかもしれない。
そう思うと、セバスチャンのやる事に文句が言えなくなる。
「くぅうううううん、くぅうううううん、くぅうううううん」
などと考えながら歩いていると、不意に足元に子魔狼がすり寄ってきた。
毛並みが銀色に光り輝くとても美しい子魔狼だったが、おかし過ぎるぞ。
灰色狼や赤色狼は俺の魅了魔術を受けてその場で尻尾を振っている。
普通種の魔狼だけでなく、火狼や角狼の大人も子供もその場で尻尾を振っている。
何でこの子狼だけ自由に動けるんだ。
そもそも俺の探知魔術に引っかからなかったのは何故だ。
「くぅうううううん、くぅうううううん、くぅうううううん」
いくら媚を売って来ても、俺は騙されないからな。
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