粛清する転生者

第32話 粛清する転生者01

「おはようございます、シン様」

「おはよう、シオン」

 執務室に入ると、商会長が頭を下げて挨拶をしてくる。

「クレアもおはよう。…あぁ、ありがとう」

「いえ。ご足労いただきありがとうございます」

 俺の言葉に副商会長のクレアが頭を下げる。

「調査を進めておりました件ですが、調査が完了しました。現在、作戦の実行計画の立案と資材の準備を進めております」

「詳細は、こちらの資料をご覧ください」

 受け取った資料に目を通しつつ、二人に説明を求める。

「性格はクズの一言に尽きるね。だが、それなりに実力があり功績も立てているため多少のおいたは見逃されていたと」

 調べていたのは異世界から召喚されたという勇者についてだ。

 報告を見る限り、能力はあるのだが飲む、打つ、買うと三拍子揃ったクズだった。

 ただ、能力はあるらしく、ちゃんとやることはやっていたので苦言は呈してもやりすぎない限りは放置されていた。

 あるいは、大丈夫な範囲を本人が見極めていた可能性もある。

 どちらにせよ、たちが悪いことには違いないんだけども。

「ですが今回の件は見逃せないようですね」

「よりによって公爵家の令嬢に、それも神託をうけるような人に手を出そうとしてるわけですからね」

「流石に王族に連なる家の令嬢にはおいそれと手は出せないでしょ。公爵たちが黙ってるわけもなし」

 この勇者は公爵家の令嬢を気に入り手を出そうとしていた。

 性格が最悪な勇者を公爵は嫌悪しており、理由をつけて娘に近づけさせなかった。

 このため、まだ大事にはなっていない。

 ただ、この状況を公爵が放置するわけがなく、勇者の排斥に動き出した。

 勇者の存在は確かに国にとって良い恩恵がある。

 しかし、絶対にいなくてはならないというものでもない。

 今代の勇者は武勇に優れるが、別に勇者でなくても強いものは他にもいる。

 また、個人の強さでは劣るが、騎士団などのように軍を動かせば勇者の代わりは可能だ。

 勇者でなければどうしようもないという存在がいない今、勇者という存在は微妙に扱いに困る存在なのだ。

 性格がまともであれば使いようもあるが、今代の勇者の性格は最悪であり、国王たちにとっても頭が痛い存在であった。

 以前から勇者に対する不満が燻っており、現在国の上層部はその扱いをめぐって議論が紛糾している。

「これまでは中立派だった公爵が排斥派にまわったため、排斥派が勢いづいてきてますね」

「かといって、下手に戦力を動かすと国力に影響する程度には力を持ってるんですよね、勇者って」

「まぁ腐っても勇者だからね。それに、逃げられでもしたら面倒臭いことになるし慎重にやりたいんでしょ」

 戦力を動かして勇者を倒せたのであればいいが、仕留め損ねたらどんな行動を取るかわからない。

「で、国王から直々の依頼が来ていると?」

「はい、に伝言があったそうです」

 女神の雫とはうちの商会が経営している酒場の一つだ。

 表向きは輸入したお酒や食品の宣伝や商談をするための酒場なのだが、実はなんでも屋の窓口になっている。

 もともとは、商会に所属する傭兵や冒険者の小遣い稼ぎのために開いた窓口だったが、それを隠れ蓑に使わせてもらっている。

 紹介状を持ってくると、裏の窓口に案内されるという寸法だ。

「近々、大規模な魔物討伐を勇者に依頼するため、そのタイミングで処分できないかという依頼でした」

「国王は排除を決断したか」

「このまま放置すると、外交に影響しかねないと判断したようです」

「あぁ、去年留学生に手を出そうとして揉めたやつね」

「あの時もかなり揉めていましたが、反省するならばと見逃して様子を見ていたところに今回の件ですからね」

「ことが起こってからでは遅い、か」

「あと、この作戦にあたり報酬に貴族の令嬢を所望したとか」

「・・・例の公爵令嬢?」

「公爵様が怒りのあまり倒れられたとか。国力が下がろうとも勇者を排除するしかないと判断されたようです」

「ここで決断できなかったら国が割れるだろうからなぁ」

「ついでに、国内の掃除もしたいようです」

「トカゲの尻尾切りにしかならないと思うけど・・・」

 勘のいい連中は戦力を出さないだろうし、出しても逆に暗殺の邪魔をされそうだから配置に困るでしょうに。

「もしかして、そっちの方も依頼受けてる?」

「そちらは姫殿下から情報があれば欲しいと依頼が来ております。勇者の遠征にあわせて、動きたいそうです。親衛隊を訓練名目で動かす予定のようです」

「相変わらず勇ましい人だ。流せる情報は ?」

「大物が一件ありますね。ですが、踏み込むには色々と障害がありますし、戦力的に厳しいかと」

「それならサービスしてこちらからも戦力を出そうか。動かせる戦力は?」

「今ならメンバーの全員動かせます。姫殿下の方は三人もいれば対応できると思います」

「勇者を確実に屠っておきたいから俺はそっちに回るよ。クレアは姫殿下のほうのを頼む。シオンはバックアップメンバーの指揮をお願いするよ」

「承知しました」

「シオン、大変だと思うけどよろしくね」

「おまかせください」

「じゃ、裏の話はこれくらいにして、本業の話に入ろう」

「シン様にとってはこちらが副業では?」

「殺伐した方が本業とかやだなぁ」

 顔を合わせて笑うと、僕は書類に手を伸ばした。

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