第13話 生活の創造

 この世界での一般常識を学ぶためにしばらくここに住めばいいという賢者・上条静流からの提案は、彼らにとって願ってもないことだった。

 今四人にとって最も必要なことは、まさにこの世界を知ることだったから。

 彼らは相談もそこそこに、ありがたく上条からの提案に乗ることにした。

 だが、疑問も湧き上がる。


「上条さんはどうして私たちに協力してくれるんですか? 同じ日本人だから?」

「うーん、そうだな、君、ありすちゃんだっけ。ま、いいか、ありすは同じ日本人だからって、外国で初めて会った人と助け合える?」

 逆に質問されて、真剣に考える。

「目の前にいる人が困っていて助けを求めているなら、私にできることはしたいと思います」

「それと同じだよ。君たちはこの世界に来たばっかりで常識も何もない。俺はこの世界をぐるっと一周したからね、君たちにできることは多いはずだ」

 それに、実は暇でね。と本当だか嘘だかわからないことを笑顔で言う。

 それを聞いて四人も遠慮することをやめることにした。


「上条さんさえ良ければ、俺たちに教えてもらいたい。この世界のことを」

「よし、お兄さんに任せなさい」

 とんと薄い胸を叩く仕草には頼もしさのかけらもなかったが、四人はここに厄介になることにした。

 

 会話の後四人はありすの作った小屋を上条の家の隣に置き、寝起きはそちらで食事などは上条家のリビングでというように分けることにした。

 上条が外に出ていたのは家庭菜園の世話のためだったらしく、今はそちらをやりに行っている。

 圭人と夕彦は上条の手伝いに行った。

 

「小屋の中も少し変えてみていいかな」

 ありすと光里はろくな家具もない小屋の中で相談している。 

「いいけど、どう変えるの?」

「それぞれの個室と、水回りをもう少し考えて、台所もちゃんと作りたい」


 材料は周囲の草と木、土。

 創造のスキルを使ってありすの思い通りに小屋を作り替える。

 レベルが上がるごとに作れるものが増えていく不思議な感覚。

 ありすの頭の中に、物が閃いては消えていく。

 そしてそれは思い出そうとすると再び浮かび上がってくる。


「あ、もう作れない」


 頭の中にストッパーがかかる感覚はMP切れだったのかもしれない。

 ある程度まで作ると、急にこれ以上作ったら危険という警告が身体の奥から湧き上がった。

 小屋の外観は中を広げたことによってだいぶ変わっているはずだ。

 作れたものは個室が四つ。

 それぞれ10畳ほどの大きさで、リビングを挟み二つづつ並んでいる。

 リビングの奥に大きめのシンクがついた台所。

 その右にトイレと左にお風呂場がある。

 ただし今はお風呂場といっても湯船もなく水すら出ない。水回りはどのように作ればいいのかわからずに放置中だ。

 台所の蛇口も形だけで、水はまだ出てこない。

 後で上条の家の水回りを見せてもらおうと、ありすと光里は心のメモに記す。


「とりあえず今できるのはここまでかな。これ以上はやめといた方がいいみたいなの」

 ふぅと息をつく。

 いい仕事したと言わんばかりに、かいてもいない汗を拭う真似をする。


「ありすってばすごい! 急ぐことはないから後はゆっくりやろうね。あ、でもお風呂はできたら入りたいかな。浄化があってもお風呂の魅力には勝てないわ」

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