第14話 旅ゆけば

 ありすと光里が上条の家に戻ると、三人は既に家庭菜園の手入れを終えて、お茶を飲んでいるところだった。


 水回りの疑問は魔法で簡単に解決した。

 魔物から取り出した魔石に、夕彦が水の魔法を付与することで、魔力を流すと水が出る石に変化したのだ。

 それを蛇口に取り付けるといつでも水を出すことができる。

 火と水の魔法を合わせることでお湯が出る魔石もできたので夕彦に頼み、それもいくつか作ってもらう。


「一度使用したお湯も浄化をかければいつでも綺麗なままなんだけど、やっぱり入れ替えたくなるよね」

「それは、わかります。カルキが入ってるわけじゃないけど、やっぱり気になりますよね」


 上条の言葉にしみじみと頷くありすと光里。

 しばらく休憩したことで体のだるさが抜け、ステータスを見るとMPが回復していた。


「うん、もういけるかな。私バスタブ作ってきます!」

「おい、無茶するなよ」

「大丈夫よ、お風呂入れるなら頑張れるわ!」


 圭人の言葉に笑顔で返すが、なんの根拠もない頑張りに仲間たちは頭を抱えた。


「彼女、いつもあんな感じかな?」

「騒がしくてすみません、大体いつも同じです」

「明るくていい子だね」

「ええ、僕たちのムードメーカーですから」

「ありすの明るさで救われてるんです、私たち」


 家から少し離れたところで土を使って陶器のバスタブを創造してストレージにしまったありすは、光里と共に急いで小屋に戻って風呂場に設定した部屋に設置する。

 床に水捌けの良いタイルを設置したり、洗面器、手桶を用意した。

 湿気が溜まってカビが生えるのは勘弁して欲しいので換気扇もつけた。異世界のカビが地球と同じように大人しいとは限らない。


「お風呂ができたわ。いつでも入れるよ、光里ちゃん」


 全ての用意をして風呂を使えるようになった時には、外はオレンジ色に染まっていた。

 シャンプー、リンスはまだ作れなかったが、浄化があるのでそこまで汚れを気にしなくていいだろう。大事なのはお湯に浸かるということなのだから。

 色々と作っているうちにありすのレベルは9になっていた。

 

「今入ってもいい? 圭人と夕彦は浄化で済ましちゃうって言ってたし」

「どうぞ。私は後でいいから」


 ありすは上条の家に戻り、光里はこのまま小屋で久々のお風呂を堪能。

 光里のことを伝え、上条にお茶をもらって会話に加わる。

 お茶を飲みながら話すのは、これからについてだった。

 野菜はなんとかなるにしても肉は買ってこないと食べられない。

 上条は月に一度街に行き買い出しをしているというので、自分たちも次に行く時は同行させてもらうことにした。


「服なんだけどね、俺が今来てるのが普通のかな。スカートもあるし、奇抜でなければそこまで目立たない。ただ圭人と光里はとんでもなく目立つ」

「俺と光里が目立つ? ありすと夕彦じゃなくて?」


 ありすは茶色のふわふわした髪が特徴の美少女で、近隣でも将来は女優かアイドルかと言われていたほどだ。実際スカウトもよく受けていたが、本人の将来の夢は栄養学の研究者だ。

 夕彦はありすよりも薄い髪色をしている。

 母親が外国の血を引いていて、覚醒遺伝したらしい。瞳も良く見たらグレーだったりする。

 細みの美形だが、眼鏡と表情の変化に乏しいのでそう思われないのが難点だった。

 この世界に来たときに眼鏡は必要なくなっており、表情も豊かになっている。気の置けない幼馴染たちと一緒だからだろう。

 それに比べ、圭人は黒髪黒目、身長は高めだが顔は厳ついハンサムだし、光里も黒髪黒目、美少女というよりは美人。

 ありすがいつも隣にいるせいか、そこまで目立ってはいなかったが人気は二人とも高かった。


「俺の相棒やその前の召喚者のせいもあるんだけどね、この世界では黒髪黒目は神の使いとして認識されているんだ」

「染めればいいんじゃないのか?」

 あっさりと言う圭人に、上条は首を振る。

「髪と目は染められない。たとえ染められたとしても魔力を使うと色が戻ってしまうんだよ」


 世界中を旅するのが神からの使命だ。

 圭人はスタート前につまづいたような顔で、頭を抱えた。 

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