第10話 湖のそばの家
「終わった……?」
「ああ、そのようだな」
剣を握ったまま座り込むありすの隣で、まだ警戒を解かない圭人が、周りを見回し確認する。
ありすは初めての戦闘で心も体も思っていたより疲弊したらしく、敵が全て倒れ伏した途端にその場にぺたんと腰を下ろしてしまっていた。
しゃがみ込んだ彼女の目の前にある、剣で刈り取られた草に付いている血痕が、今の戦闘をここでの現実であったことだと意識を引き戻す。
「もう生きてるやつはいない」
あれだけ切ったのに刃こぼれひとつない片手剣をストレージにしまう圭人。光里に浄化をかけてもらったので新品同様になっている。
夕彦は倒れた魔物の死体に浄化をかけてから次々と収納していく。
鑑定をしたらネズミの魔物からは肉と毛皮が取れることがわかった。
この先、何があるかわからない。
材料となるものは貪欲に集めていこうと彼らは相談し、決めていた。
「この先も油断をしないように行こう。ありす、光里、大丈夫か? 行けるか?」
二人を気遣いながら圭人が声をかける。
圭人に頷いた光里はありすに手を貸して立たせ、服の裾についた泥を気にして浄化をかけた。ついでに自分にもかけておく。
戦闘の緊張でかいた汗が消え、綺麗になるのは気持ちよかった。
「私は行けるよ。光里ちゃん、ありがとう」
「圭人と夕彦こそ大丈夫なの? 二人の方が疲れてないか心配だわ」
戦闘では圭人が近接で戦い、夕彦は魔法で敵を倒していた。
草原で火や水を使うわけにもいかないので、主に風の魔法で敵の首を狙うという方法で。
「僕は大丈夫。ただ、早めに進んで水辺に行きましょう。休む場所を探すにもその方がいい。ここは視界が悪すぎます」
手入れも何もされていない草原は、背の高い草が生い茂り、彼らの行手を阻んだ。
それでも歩き続けた一行は、ついに水辺に到着し、そこで最初の人類を見ることになった。
地図によるとここは大きな湖の西側。
砂利が水辺を作っているということは、雨が多い時はここまで水量が増えるということだろう。砂利と草原の境あたりに平家が一軒あった。
家の前で何か作業をしているのか、玄関と周囲を行ったり来たりしている。
四人はその人物に気づかれない程度の距離をとって観察していた。
「人だわ。私たちの服とだいぶ違うけど、どういうことかしらね」
遠目からで性別すらよくわからないが、少なくとも貫頭衣ではない、見知ったシャツとズボンのようだ。
「この服だと、警戒されちゃわないかな。もう少しあの人の服に似せた方がいいかも」
服を作り直そうというありすの提案に他の三人が頷く。
服は文化の違いが明確に出る。
警戒心を持たれないためにも、なるべく現地の人に似ている方がいい。
幸い服の材料となる草や木はストレージにたっぷりある。
夕彦はありすに頼まれて魔物を一体ストレージから出した。皮を剥ぎ、肉を取るというイメージをすると、ありすの頭に言葉が浮かぶ。
「解体」
手をかざし、発動する。
泡のようなものに包まれた後、毛皮と、肉と、小さな宝石のような青い石に分かれた。
「これって魔石かな。うん、そうみたいだ、これもお約束だな」
圭人が石を取りすぐに鑑定する。
グラスマウスの魔石・属性水。
「あの魔物グラスマウスっていうのね。やっぱりネズミだったわ」
光里が、先程の戦闘を思い出したのか、それを追い払うように軽く頭を振っていた。
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