第8話 異世界の朝
彼女が異世界で迎えた初めての朝は、意外と快適に始まった。
窓から差し込む柔らかい陽の光で目覚め、隣ですやすやと眠る幼馴染たちに安心し、ほんの少し空いたお腹で自分の精神状態がそれほど弱ってないことを知る。
被っていたタオルケットを軽く畳んで寝床から起き上がってふと考える。
外に一人で行くことはよくないだろう。かといって、あまり動き回ると眠っている仲間たちを起こしてしまう。
だがそれは杞憂だった。
「お、おおお。そういえば異世界だったな。おはよう、ありす」
「なかなかいい寝心地だったわ、おはよう」
圭人と光里が続けて起きたが、その隣で夕彦は緑色のタオルケットにくるまって寝ている。
「圭人くん、光里ちゃん、おはよう。夕彦くんはまだ寝てるね」
「こいつ、朝は弱いからな。疲れてるだろうしもう少し寝かせておこうぜ」
夕彦が寝ている間に三人はこれからの予定を話し合う。
このまま真っ直ぐ森を進めば、日が暮れる前に森を抜けられるはずだ。
それから小さめの村を探しつつ湖に向かう。
水があるところには人が住む。異世界でもその法則が通用するといいのだが。
「とりあえず、使えるか分からないけどお前らも一本づつ持っておけ」
そう言いながら圭人は、昨日作ったロングソードをありすと光里に渡した。二人はそれをストレージにしまう。
「そういえば、圭人くんのレベルは変わってた? 光里ちゃんは二になってたよね、私は小屋を作ったからかな、四になってたよ」
スキルを使えば使うほどレベルが上がるらしいと気がついたため、作れるだけのロングソードを量産していた圭人。
「上がってるな、五十本の剣を作ってレベルは五だ」
「僕もずっと探索とライトを使っていたおかげかな、四になってますね」
いつの間にか起きていた夕彦が会話に参加する。
それを聞いて、光里は少し焦ってしまう。初期のレベル上げは大切だ。
「私も何か使える魔法ないのかな、う〜ん」
回復だけではレベルが上がりにくいと、他の方法を模索することにした。
ステータスを呼び出し、画面をタッチすると使える魔法が出てくる。
昨日はそれを見つけることもできなかった夕彦も、今は自分が使える魔法をわかっている。
「やっぱりゲームみたいだよね。でも私たちは怪我もするし疲れる」
ありすが、こちらからは見えない画面を触っているらしい光里を見て呟く。
「気を抜かないようにしないと、僕らにとっては現実なんですから」
ゲームと思って無理をする自分たちではないが、気の緩みはいつ起きてもおかしくない。
改めて、その怖さを思う。
「あ、いい魔法があるわ。ありすちょっとそこに立ってみて」
「うん、これでいい?」
光里の隣に背筋を伸ばして立つと、微笑んだ光里がありすに向かって魔法を唱える。
「光魔法・浄化」
シュワッとありすの身体から泡のようなものが霧散して、服や肌、髪が洗い立てのようにさっぱりする。
「すごい、気持ちいい。ありがとう光里ちゃん!」
風呂もなく、満足にお湯も使えない状況ではありがたい魔法だった。
夕彦も同じ魔法が使えるのもわかり、夕彦は圭人に、光里はありすに定期的にこの魔法を使用することにした。
朝食として携帯食料を食べ、小屋をストレージにしまい、一行は再び森歩きを始める。
森が途切れたのは、太陽がちょうど真上にある頃だった。
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