第7話 捨てられた小屋

 次の休憩は朽ちた小屋の側だった。


 そろそろ夕方から夜に変わる時間帯。

「圭人くん、暗くなってきちゃったね」

「ああ、みんな足元大丈夫か?」


 圭人が声をかけると、光里が足元を見る。頭上には夕彦の唱えたライトの魔法が光球となってふわふわと浮いているがそれでも周囲の暗さに落ち着かない。


「大丈夫、とは言い辛いわね、足元はいいけど周りが少しだけ怖いわ」

「僕もこの暗さは嫌ですね、早めに休憩場所を探しましょう」


 慣れない場所で体力を消耗させるわけにもいかない。

 現代日本の生活に慣れた普通の高校生には、同じ景色が続く森の中で歩き続けるのは荷が重い。彼らには夕彦が使う探索という魔法のおかげで方角を見失うことがないが、それでもしっかりと進んでいるか不安になる。目標などどこにもないからだ。

 疲れが溜まる前に、この、少し拓けた場所を見つけられたのは僥倖だった。


「小屋だわ。ボロボロだけど」

「光里ちゃん、ちょっと覗いてみようよ」


 木こりが使っていたのだろうか、周囲は切り株が多く、そこから芽吹く枝を見ると小屋が使われなくなってから数十年経っていると思われる。

 小屋と言ってもすでに扉はなく、中を覗くと火焚きのためのかまどと、大きな空っぽのひび割れた水瓶が置いてあるだけだった。

 床には枯れた草が散乱していて、それが元は布団がわりだったのだろう。

 湿気がないことが幸いしてカビなどの臭いはしなかったが、空気が澱んでいた。


 四人が中に入ったことで舞う埃が、捨てられた小屋の印象を強くする。


「ありす、これって直して使うとか出来ないのか?」


 朽ちた小屋でも大きさはそれなりにあるし、材料となる木材は外にいくらでもある。それならばなんとかなるだろうと思い、圭人が声をかける。

 一通り中を見渡し、ありすは結論を出した。


「ん〜、それより壊して作り直した方が早いかな。この小屋を材料にしてなら出来るかも」

「それならありすが作った小屋を隣に置いてそこで寝ましょうよ。ここは嫌だわ」


 先程ありすが最初に作った小屋の方が立派だし、休むには適しているだろう。


「そうね、そうしよう」


 朽ちた小屋のすぐ隣にありすの作った小屋をストレージから出して並べる。

 四人はそちらに移動して中を見渡した。当たり前のことだが家具も何もない。

 トイレも風呂場も最初から作っていない。

 当たり前のことだが、森歩きの最中に催したら木の影に隠れて用を足していた。


「お布団作るね」

 そう言いながらありすは、リフレ草以外の特に薬として効果がない草を選んでストレージから出すと創造のスキルを使った。


 草が原材料とは思えないタオルケットが四枚。それぞれ青、緑、赤、黄に色分けされている。


「う〜ん、材料が足りなくて敷布団が作れないみたい」 

「今日はこれに包まればいいんじゃないかしら」

 そう言いながら光里は赤いタオルケットを手に取った。


 四季があるとは思えない世界。気温は高くもなく低くもないが、流石に夜ともなれば昼間よりは低い。

 それでも雨風にさらされる心配さえなければ、布一枚あれば風邪をひく心配はなさそうだ。


 夕彦の魔法で光源は確保されたが、体力を回復させるため翌日の冒険のために携帯食料を腹に入れ、さっさと異世界転移一日目を終了させることにした。  

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