第6話 思い出は彼方
「明るいうちにテントを作っちゃおうかな」
歩きながら落ちている木や草を集めて、ストレージに収めながらありすが言う。
圭人は少し先を行き、ありすがしていることを手伝っていた。
低い位置にある枝などを切り落とし、自分のストレージに入れていく。彼が枝を切り落とすことで、後の三人も進みやすくなる。
「ありす、テントの構造なんてわかるの?」
光里は周辺で食べられるものがないか鑑定をかけながら草を集めていた。果実はなかったが食べられる花や蜜が採れた。
毒草もあったがそちらは鑑定のおかげで上手に避けることができる。
その毒草は一部を夕彦が採取している。毒は薬と表裏一体な面があるから、効能によってはいい薬が作れるのだ。
「なんとなくわかるの。一回作っちゃえばそのまましまえるから折り畳む必要ないし。大きいの作ろう」
そう言いながら作ったものは、明らかにテントではなかった。
木で編まれた壁に草を葺いた屋根。
しっかりとした扉もあり小屋としか言いようもないもので、中は二十畳ほど。
床もしっかりとツヤが出たフローリングが張られていて、家具があったらそのまま住めそうだ。
「あっ、あれぇ?」
出来たものにありす自身が戸惑っている。
「ありす、すごいけど、これはやりすぎじゃないか?」
圭人が少々呆れた様子で言う。テントを作るのではなかったのだろうか。
「これ人前では出せませんね」
人前でこれを出現させた時のリスクを考え始める夕彦。小屋が丸ごと入るストレージ、出来栄えを見られた時の反応。ありすの価値。
色々隠さねばならぬことが増える。
「可愛い。さすがありす、いいセンスしてるわ」
小屋の可愛さに喜ぶ光里。
壁面の茶と屋根の緑が合わさって、とてもメルヘンな外観をしている。ありすの趣味が過分に入っているらしい。
「ありす、三角のテントでいいんだよ、ほら昔、キャンプに行ったときに使っただろ? 六人用テント」
小屋でもいいのだが、この場所のような平らな土地でないと使えない。
どうやらテントのイメージが朧げすぎるのではと考えた圭人が、ありすの記憶のテントを思い出させようと昔のことを語る。
「ああ、そういえば四家族で行きましたね。子供たちだけ六人用で雑魚寝して、大人は大人で大きいテントで酒盛りしてたっけ」
夕彦もその時のことを思い出したらしい。親同士の繋がりが濃く、そうやって何度も一緒に出かけた。幼い頃からの思い出を語ろうとしたら一晩では語りきれない。
「ありすと一緒に星を見たときね。大きな緑のテントだったよね」
「うん、星がすごく綺麗だったよね。思い出した。緑のおっきなテント」
手を翳したありすの目の前に、あの時四人で一緒に眠ったテントがあった。
実際は他の兄弟たちもいたのだが、それを語りだすと他の感情が渦巻いてしまうので彼らはあえて何も言わなかった。
「すげ、そのまま」
テントの質感、色、大きさ。あの当時の記憶が蘇る。
「小屋の方は平な広い場所で使いましょう。スペースがない時はテントにしたらいい」
「そうね、使い分けた方がいいわ」
光里の言葉にこくんと頷くありす。
テントと小屋をストレージに入れる。
手を翳すだけで何もなかったかのように消える様子に、彼らはまだ慣れない。
「両方しまっておくね。とりあえず、湖目指して進もうか」
陽はまだ高い。だがいつまでもこの時間が続くわけではないのだ。
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