『厨子』は言祝がれ、廻り巡りて納まれり。

この作品は、実はカクヨム登録前に既に
拝読し、震えていた。

 勿論、ホラー小説としての怖さ。それは
薄暗やみの中から至る所で顔を覗かせる。
山深い半ば閉ざされた村で、六つの家々を
四年毎に『厨子』を廻す風習がある、と
いう時点で、もう恐怖への期待は高まる。
だが、それだけではないところが作者の
他の作品にも共通する 見どころ の
一つでもあるだろう。
 ジェンダー問題、自己承認欲求を伴う
嫉妬と悪意。そして『厨子』という存在を
理由に、お互いを縛りつける閉鎖的な
コミュニティなど……様々なものが
見え隠れする。

主人公の志摩を取り巻く環境は少なくとも
決して平坦なものではない。だがそれは
一見しては決してわからない心の傷。
ましてや両親の離婚による新しい家族の
中にも又、棘が潜んでいる。
何処にも居場所のない気持ちで、嘗て
優しい祖母と過ごした村を訪れる、志摩。
そこでは皆、彼女に優しいが…。
六つの家々を束ねる立場の当主であると
同時に、何か途轍もないモノを知らぬ間に
押し付けられ、容赦なく怪異に晒される。
 
けれども彼女を助ける存在はいる。しかも
あくまで自然体で接してゆくうちに、
満身創痍だった彼女自身が、治癒力を
身につけて行く。そして脈々と続いて来た
呪いの核心、怪異そのもの にも影響を
及ぼして行く。

閉ざされた世界で脈々と続いて来た因習。それは大概、有利な 交換条件 を伴い
従わないと恐ろしい事が起きる。従順で
素朴な人々は従うが、いつか必ず終わりは
訪れる。

 それがどの様なカタルシスを生むのか。

彼女の幼馴染の奏斗の、とても魅力的な
存在感が、怪異とのバランスを取って
物語を収束へと導く。

『厨子』の、真の祝宴は為されたのか。


圧巻の物語を是非。

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