ホームルームも終わり、授業が始まる。一日休んだが、内容に遅れているような感覚は全然なかった。まだ始まってすぐで、授業がそこまで進んでいないのもあるが、紫乃さんの教え方が上手だったのが一番の理由だろう。

 瑞樹は休み時間の度にこっちを見て軽く挨拶をしてきたが、それだけだ。紫乃さんと話しているのを邪魔しないようにしているのかもしれない。

 授業は淡々と進んだ。雨が三日も続き学校中が水を吸った靴下のような不快感をまとっている。

 明日が休みなことも相まって、活気も失われていた。蛍光灯の明るさが異様に白みを帯びて感じられる。きっと空が灰色だからだろう。

 先生たちも同じように活気がない。億劫そうに授業をしている。一度、居眠りから目覚めた時に目が合った先生がいたが、無表情のまま授業を続けていた。

 周りを見てみると、何人かは同じように目を閉じていて、時折、頭がガクンと自転車のギアを変えるような調子で揺れるのを見た。

 そんな授業を四回繰り返してひと段落し、お昼休憩になると少しだけ活気が戻る。

「次の授業は体育だけど、雨だから保健になるかな」

 紫乃さんが机を寄せ弁当を広げた。ウィンナーと、だし巻き玉子とほうれん草の胡麻和え。それと小さいおにぎりが二つ。海苔が巻いてあって一つには白ごまが振りかけられている。美味しそうだ。

「なにじろじろ見てるの。もしかして弁当忘れた?」

「ちゃんと持ってきてるよ」

「じゃあ、なに?」

「彩りが綺麗だから思わず見てたんだよ」

「気づいた? ちゃんとそこまで考えて作ってるんだよね。それにね、色のバランスがいいと栄養素もバランスも自然と良くなるの」

 自慢げに言いながら、紫乃さんはだし巻き玉子を箸で小さく切り分け、口に放り込んだ。

 瑞樹の方もチラリと見ると、一人で弁当を食べるようで、目が合ったが挨拶だけして後は弁当を見つめていた。

「ねえ。結局どういう関係なの?」

 ひそひそと小さく掠れた声で紫乃さんが聞いてくる。俺も小さな声で返した。

「ごめん、むしろ朝よりよりも分からなくなったよ。本当に」

 紫乃さんの疑惑の目線を浴びる。両目蓋を薄く開いてわざとらしく見てきた。

 突然、声がした。

「うん。確かに怪しい」

 それは、いつの間にか後ろに立っていた高耶の声だった。

「君たち二人、こそこそ話し合ってて怪しいぞ」

 瑞樹のことではなく、俺たちのことを怪しがっている。

「別になにも怪しくないでしょ」

 紫乃さんが言いながら、自分の弁当をずらして高耶の座るスペースを開けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る