第6話
「昨夜はお話しできずに、申し訳ありませんでした」
前を向いたままそう言った晋太郎さんに、私は首を横に振る。
流れる雲を見上げていた。
それだけでも、ほんのり暖まる。
この人は大きなあくびをした。
「実は、昨晩は結局寝られなかったのです」
「何かあったのですか?」
「……。あなたが、足元で寝ていたので……」
「それがどうして寝不足に?」
晋太郎さんはそれには答えず、わずかにうつむいて頬を赤らめた。
「眠たくてたまらないので、少し休んでもよろしいでしょうか」
「えぇ、どうぞ」
すぐ隣でごろりと横になると、あっという間に眠ってしまった。
すっかり動かなくなってしまった晋太郎さんに羽織りをかけ、そこを後にする。
夕餉の席では、普通に話せた。
「今日のごぼうは、私が炊いたのです」
「そうですか。よく味付けがされています」
「少し砂糖を多めに入れたのです」
「えぇ、とても美味しいですよ」
何気ない話でも、普通に続いているのがうれしい。
勇気を出して奥の部屋へ行ってみてよかった。
もう少し自分の方から話しかけてみても、いいのかもしれない。
そんな私たちの様子を見た義母が、ふいに口をはさんだ。
「で、あちらの方は順調なのですか?」
「あちらの方とは?」
隣の晋太郎さんは、突然味噌汁を吹き出した。
ごほごほとむせている。
「早く孫の顔が見たいと言っているのです」
「えぇ、そうですよね」
結婚したんだもの。そりゃそうだ。
「ほどよい頃を見計らって、神さまはちゃんと授けてくださるものと思うております」
「え?」
同時にそう言った晋太郎さんとお義母さまは、それぞれにそれぞれの顔をして、めちゃくちゃに私を見てくる。
「だって、そういうものでございましょう?」
義母の顔は真っ赤になった。
「そ……、それには、それなりの努力をしなくてはなりませんよ?」
「えぇ、もちろんです」
私は晋太郎さんを見上げた。
「ねぇ、そうですよね?」
「当たり前じゃないですか」
私の隣でその人は急に姿勢を正し、背を伸ばす。
「当然です」
そう言って椀の汁を一気にあおった。
「いずれ、自然に授かるものと思うておりますが……」
「ならばよいのです。みなまで聞きたいわけではございませんので」
義母はごほごほと咳払いをしてから、やっぱり一息に味噌汁をあおる。
その仕草は二人ともとてもよく似ていて、やっぱり親子なのだなと思った。
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