女の戦い

「葉月君と付き合いたいのならご自由に。私には、関係ないことです」

「え、良いんだ。知世ちゃん優しいー。そうだ、だったらいっそこっちの祓い屋協会に移籍して、また風音と組ませてもうかなー」

「な、何ですって!?」


 まさか、引っ越してくるつもりなのですか。

 ま、まあ付き合うなら遠距離よりも、すぐに会える場所にいた方が良いでしょうけど、本気でしょうか?


 もちろん二人がどう付き合おうと私には関係ないですけど、本当に北大路さんがこっちに来たら……。


「あの、そんなことをしたら四国の祓い屋協会はまた、人手不足になりませんか?」


 葉月君だけならまだしも、もう一人抜けるとなると、また人手不足にならないでしょうか?

 向こうの状況がどうなっているか詳しくは分かりませんけど、祓い屋協会はどこも人数に余裕があるわけではないですから。


「うーん、そうだ! だったら知世ちゃんが、代わりに四国に行ってくれない?」

「どうしてそうなるのですか! そんなのお断りです!」

「えー、どうしてそんな意地悪言うのー? 知世ちゃん、あたしと風音のこと、応援してくれるんじゃなかったのー?」

「別に応援するとは言っていません。好きにして良いってだけです。けど、ワガママに振り回される気はありませんから。私を巻き込まないでください!」


 腕を買われて引き抜かれるならまだしも、そんな理由で移籍させられるなんて真っ平です。

 それに私は人見知り。知り合いの一人もいない場所に放り込まれたら、ストレスで倒れてしまいますよ。

 それに、それにですよ。


「そもそも、葉月君のパートナーは私です!」


 大きな声を上げてしまったため、下校中の生徒達が何事かとこっちを見てくる。

 けど、恥ずかしがってる場合じゃありません。


「葉月君は今、私と組んでいるんです! あなたと付き合うのは勝手ですけど、祓い屋の仕事は別です! いい加減な気持ちでやるわけにはいきませんから!」

「ひどーい。あたしだって真面目に言ってるのにー。だいたいあなた、本当に風音と上手くやれてるの? 足引っ張ったりしてない?」

「そ、そんなわけ……」


 無い……と思います。

 私は未熟ですけど足手まといにはなっていないはずです。たぶん。


「絶対あたしの方が相性良いのにー。たぶんあたし、知世ちゃんよりも強いし」

「人のことよく知りもしないで、決めつけないでください。私だって、負けてませんから」

「ふーん、だったら……」


 何かイタズラを思い付いたように、ニタッと笑う北大路さん。そして。


「どっちが風音のパートナーに相応しいか、勝負するってのはどう?」

「しょ、勝負ですか?」

「そう。次にお仕事の依頼があったら、あたしもついて行くから。そこでどっちが活躍できるか、勝負しようよ。で、負けた方は大人しく風音から手を引くの」

「待ってください。仕事に私情を挟むなんて」


 遊びでやってるんじゃないんですよ。

 だいたい祓い屋協会も、北大路さんのワガママに付き合って、私達をトレードするなんて思えませんから、きっと放っておいても彼女の提案は無効になるでしょう。

 わざわざ馬鹿げた勝負を、受ける必要はありません。

 だけど。


「そんなこと言って、本当は負けるのが怖いんでしょー」

「は? 怖くなんてありません!」

「本当に? 風音から聞いたから知ってるんだよねー。知世ちゃん、昔に修行で風音に負けて、ぴーぴー泣いてたんでしょ」


 うっ。た、確かにそんなこともありましたけど、それは昔のことです!

 だいたい葉月君、なに人の恥をベラベラ喋っているんですか!


 北大路さんといい葉月君といい、イライラします。

 だけど沸々と沸き上がってくる怒りを抑えていると、能天気な声が聞こえてきました。


「お待たせー、ノート提出してきたー。あれ、二人ともどうしたの?」


 校舎から戻ってきた葉月君が声をかけてきましたけど、私達を見て何かを感じたみたいです。

 そして不思議そうに足を止めた彼に、私が噛みつく。

「葉月君、人の黒歴史を勝手に話すだなんてどういう神経してるんですか!」

「黒歴史って……。もしかして自転車に乗る練習中何度もひっくり返って、ぴーぴー泣いてたこと? それともうちにお泊まりした時、雷が怖いからって、夜俺の布団に入ってきて……」

「きゃああああああっ! そんなことまで喋ってたんですかー!?」

「え、いけなかった? ゴメン。謝るから、ポカポカ叩かないでよ」


 酷い!

 お喋り!

 無神経!

 人の恥ずかしい過去を喋るだなんて、何を考えているんですか!


「はははっ、二人とも仲良いねー。ちょっぴり妬けちゃうかも」

「どこがですか! もしこれが仲良く見えるなら眼科、もしくは精神科に行ってください!」

「ふふふ。それより、さっき言った勝負のはどうするの? 受けてくれないなら、あたしの不戦勝で良い?」


 そうでした。そういえば、勝負を申し込まれていんでしたっけ。

 正直、葉月君の所業を思うとパートナーを解消しても良いかなーって気もしてきました。

 けどそれじゃあ、私の負けってことになりますよね。

 これだけバカにされて、その上勝負にも負けるなんて嫌です。


 いいでしょう。北大路さんがその気なら。

「……分かりました。受けてたちましょう」

「本当? さすが知世ちゃん、分かってるー。不戦勝じゃ、あたしもつまんないもん。やっぱり実力の差を見せつけてから勝たないと、面白くないもんね」

「そうやって余裕ぶってるのも今のうちです! 絶対に負けませんから!」

「へぇー、それは面白い」


 クスクス笑う北大路さんに、ますます闘志を燃え上がらせる。

 一方葉月君は、状況がつかめていないみたいで、私達を交互に見る。


「ねえ、勝負って何のこと?」

「ちょっとね。あたしと知世ちゃんで、勝負することになったの。祓い屋のお仕事、どっちが活躍できるかのね」

「は? いったいどうしてそんなことに? トモはいいの。いつもなら勝負なんてしないで、真面目にやろうって言うじゃない」

「葉月君、止めないでください。女には、やらなきゃいけない時があるんです」


 そして、今がその時。

 ここまで言われて、勝負を受けないなんてできますか!


「まあ二人がそう言うならいいけどさ。くれぐれも真面目にね」

「分かってるって。じゃあ早速、こっちの祓い屋事務所に案内してよ」

「ちょっと北大路さん、どさくさ紛れて葉月君にくっつかないでください!」


 こんなわけで、北大路さんと勝負することになっちゃったのですが。


 後に私は友達の椎名さんから、他校の女子と葉月君を取り合う修羅場を繰り広げたと言う噂になっていると言う話を聞かされる事となります。

 どうやら私達の様子を見ていた生徒が勘違いをしたみたいですけど、それはまた別のお話です。

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