葉月君のことが、大好きですと!?

 それにしても北大路さん、やっぱり葉月君との距離が近い気がします。

 さっき葉月君は彼女のことを、ドジだって言いましたけど、それは悪口を言っていると言うより、気心知れた相手だからこそ叩ける軽口のように思えました。


 私の知らない所でそんな友達を作っていたって思うと、不思議と胸がザワザワしてくる。

 北大路さんは私の知らない葉月君を、たくさん知っているのでしょうか……。


「おーい、葉月ー!」

「あれ、山本?」


 考えていると、不意に一人の男子生徒が、葉月君に声をかけてきました。

 あ、彼は山本君です。私や葉月君と、同じクラスの男子です。


「葉月、お前数学のノート出してないだろ。先生探してたぞ」

「いけない、忘れてた」


 そういえば今日は、数学のノートの提出日でしたっけ。

 葉月君、どうやら提出し忘れていたみたいです。


「ごめん、ちょっと行ってくる。トモ、ルカ、待っててくれる。すぐ戻るから」

「はい、構いません」

「いてらー」


 山本君と一緒に、校舎に逆戻りしていく葉月君。

 すると、そんな彼らの話し声が聞こえてきました。


「なあ葉月、一緒にいたあの女子誰だよ。スゲー可愛いじゃねーか」

「可愛いって、トモのこと? 何言ってるんだよ、同じクラスじゃないか」

「バカ、そっちじゃねーよ!」


 そんな話をしながら、校舎へと消えていく二人。

 可愛くなくて、悪かったですね。


 だけどどうしましょう。

 北大路さんと二人、残されてしまいましたけど、こういう時何を話せば良いのか、コミュ障の私にはわからないんですけど。


「ねえ知世ちゃん、ちょっと聞いても良いかな?」

「は、はい。何でしょう?」

「風音とは、どこまでいったの?」

「はい?」


 背筋を伸ばして身構えましたけど、質問の意味がよくわかりません。

 どこまでとは、どう言うことでしょう? とりあえず、葉月君と一番遠出したのと言えば……。


「前に仕事の以来で、隣の県に行ったことはありますけど」

「何それ、ボケてるの? それとも、本気で言ってる天然さん?」


 天然って、私は真面目に答えているんですけど。

 だけど北大路さんはそんな私を見て、何故か納得したように頷きました。


「どうやらマジモンみたいね。こりゃあ風音も大変だわ」

「大変? それはどう言うことですか?」

「どう言うって。アナタ風音と付き合ってるんでしょ」

「なっ!?」


 つ、つ、つ、付き合ってるって!

 そりゃあまあ、告白はされましたけど。ま、まだ返事はしてませんよ!


「つ、付き合ってなんかいません! へ、変な誤解をしないでください!」

「え、そうなの? てっきりラブラブカップルかと思ったのに」

「カ、カカカ、カップルなんかじゃありません! だいたい私は、葉月君のことなんて全然何とも思ってないのですから!」

「ふーん。へぇー、そうなんだ…ー」


 目を細めながら、ニヤニヤと笑われる。

 何でしょう。反応を見て遊ばれているような気がして、居心地が悪いですね。


「き、北大路さんこそどうなんですか? ずいぶんと葉月君と、仲が良いみたいですけど」

「え、あたし?」


 北大路さんは一瞬キョトンとして、すぐにまた意地悪そうな笑みを浮かべる。


「そうねえ、仲は良いかなあ。あたしは知世ちゃんと違って、風音のこと大好きだしね」

「だ、大好きって」

「ねえ知世ちゃん。風音のこと何とも思ってないなら丁度良いわ。だったら風音を、あたしにちょうだいよ」

「なっ!?」


 何ですと!?


 ちょうだいって、葉月君をですか? そ、そんなの……。


「ダ、ダメに決まってるじゃないですか!」

「どうして? いらないなら、くれてもいいじゃない。さては興味のないふりして、知世ちゃんも風音のことが……」

「ち、違います! そうじゃなくて、あげるとか貰うとか、人をそんな物みたいに扱うのはどうかと思います。しかも、本人の意見も聞いていませんし」


 告白の返事は保留にしてますけど、北大路さんにあげる形でふるとか、失礼すぎます。


「ふーん。じゃあ、風音が良いって言ったら、もらっても良いの?」

「ま、まあ。葉月君がそうしたいなら、私が口出しすることでもないですし」

「なんだ、なら大丈夫。風音だってきっと、うんって言ってくれるもん。あたし達、仲良かったんだよー。仕事ではパートナーも組んでたし、プライベートでも二人でショッピングや、カラオケ行ったりしてたしー」


 挑発するように、葉月君との思い出を一つ一つ挙げていく北大路さん。

 何度も二人でお出掛けしていたみたいですけど、それってデ、デデデ、デートじゃないですか!


「知世ちゃんは風音と二人で、どこか遊びに行ったことある? 無いよねー。あたしは仕事が無い日は、しょっちゅう遊んでたのになー。ふふふ、風音も本当は知世ちゃんよりあたしの方が良いって思っているかもね」

「だ、だったらなんだって言うんですか?」

「別にー。知世ちゃんが可哀想だなーって思って。だって風音と、デートの一つもしたこと無いんでしょ。


 北大路さんの言葉が、ザクッと胸に刺さる。


 はーづーきーくーん! 

 この前は私のこと、ずっと前から好きだったなんて言っておいて、ずいぶん遊んでいたみたいですね!


 むうっ、だんだんと腹が立ってきました。

 確かに北大路さんは美人ですし、髪型だって前に葉月君が好きだと言っていたポニーテール。なびく気持ちもわかりますけど、納得はいきません。


 よーくわかりました。葉月君は私の事をからかって、弄んでいたんですね!

 ならもう知りません。北大路さんと好きなだけ遊ぶなり付き合うなり、勝手にしてください!

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