第19話 ロンググッドバイなんて嫌に決まってるだろ!

 ターラの街についたアタシたちは、石畳の道を歩きながら、目の前に広がる活気あふれる景色に目を奪われていた。


 あちこちから聞こえてくる人々の笑い声や怒鳴り声、商人の呼び込み、ワイワイガヤガヤ。昼間だからってこともあるけれど結構騒がしい。


「ここがターラなの? 凄く大きな街だね!」


 私の前を歩くアレスくんが、興味津々に周りを見渡してる。フードを深く被っているので顔は見えないけれど、ウキウキとした足取りを見ていると、満面の笑みを浮かべているが目に見えるようだ。


「ちょっとアレス! 離れないで! アタシが人さらいに連れてかれてもいいの? アタシくらいの美人になると一瞬よ? アレスが目を離した隙に一瞬で永遠にお別れなんだからね!」


 って言った途端、アレスくんはアタシの隣にやってきて手をガッシリと強く握ってきた。


 ヌフフ♪ 作戦成功♪


 街に入ってすぐに、今と同じ話をした直後に、アタシは盗賊の潜伏スキルを使ってアレスくんから姿を消した。


 すぐ背後に隠れていただけなんだけど、そのときのアレスくんの動揺っぷりときたら! 


 大声を上げそうになったところで、姿を現したらアタシの腰に力一杯しがみ付いて離さないの。そのまま動こうとしないので、仕方なく抱っこして、しばらくはそのまま歩くハメになったよ。


(まったく! アレスヴェル様を不安にさせて、お前は何がしたいんだ!?)


 そう言うけどさ、これは必要なことなんだよ。


 奴隷や人身売買が当たり前に存在するこの世界。この街にだって奴隷市場のひとつやふたつはあるだろう。そんな世界で、子どもが一人で歩いていたら、あっと言う間にひとさらいが攫ってくんだよ。


 山賊と一緒に暮らしていた頃は、そうやって攫われた子どもが一杯いたんだ。


 アタシはひとさらいの手口を知ってるから、警戒に隙を作るつもりはないよ。けだど、もしアレスくんが連れさられちゃったら、アレスくんがに取り戻せる自信はないんだ。


 魔族領じゃどうだったか知らないけど、こんな大きな街の中で子どもから目を離したら、それが永遠の別れになることなんて珍しくないんだからね。


(そ、そうなのか。だがこの通りには、子どもの姿もそれなりにあるようだが……)


 あれは街の子ども。たぶん近くで彼らに注意を払っている大人がいる。子どもたちも、その大人の目が届かない場所にはいかない。


 そう言ってアタシはぐるりと周囲を見渡してみる。レストランのテラスで子どもたちがはしゃいでいる姿が目に入った。


(ふむ……。言われてみれば、チラチラ子どもたちに視線を送っている男が何人かいるな)


 あの子どもたちは、いわば街の人が見守っているようなもの。ああいうのを人さらいは狙わないし、もし連れ去っても街から出ることはできないでしょうね。


 でもアレスくんを守るのはアタシしかいない。だからアレスくんには、危険について自覚を持ってもらわないといけないの。


 ミシェパは黙って頷いてくれた。




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