第六話 孤独な狼の群れを相手に、無双しまくってみた。 (2)

 ナオセ草は昨日の採集クエストの対象になっていたが、どうやら【創造】にも使えるらしい。

 脳内に浮かんだレシピは二種類あった。

 潤いダケとナオセ草を一つずつで『ヒールポーション』。

 潤いダケとジョウカシ草を一つずつで『解毒ポーション』。

 ポーションといえばRPGでも定番中の定番となる回復アイテムだし、ゲーム好きとしてはものすごく興味をかれてしまう。

 まずはヒールポーションを作ってみよう。

 潤いダケとナオセ草を指定し、【創造】を発動させる。

 【アイテムボックス】のリストにヒールポーションが追加された。

 すぐに取り出しを念じると、頭の中に無機質な声が聞こえてきた。


 液体の取り出しには容器が必要です。ヒールポーションを水袋に入れますか?


 答えはもちろん「はい」だ。

 水袋は『冒険者通り』で買いそろえた物資のひとつだが、まさかここで役に立つとは思っていなかった。人生、何が起こるか分からないな。

 俺は【アイテムボックス】からヒールポーション入りの水袋を取り出す。

 せっかくなので味見しておこう。

「ミントっぽいな」

 スーッとした爽快感が口の中に広がった。

 社畜時代、ミント系タブレットで眠気を吹き飛ばしていた記憶が頭をよぎる。

 会社員がタブレットで疲れをごまかして働くように、冒険者もヒールポーションでを誤魔化して戦うということだろうか。いずれにせよブラックな話だ。

 ところで【創造】したアイテムには強力な付与効果が存在するわけだが、今回はどうだろう?

 【鑑定】の結果は次のようなものだった。


 ヒールポーション:熟練の薬師によって精製された最高級のヒールポーション。ヒールポーションの限界を極めた回復量と、ほどよい爽快感が調和した上質な味わい

 付与効果:《回復量増加S+》《回復速度増加S+》


 なんだかワイン批評みたいなコメントがついているのはさておき、《回復量増加S+》《回復速度増加S+》というのは頼もしい。

 どうやらひんの重傷であろうと一瞬のうちに治してくれるようだ。

 ……ポーションというよりエリクサーじゃないか、これ。

 次に、潤いダケとジョウカシ草で解毒ポーションを【創造】してみる。

 水袋に入れてから取り出すと、それはうがい薬みたいな茶色い液体だった。


 解毒ポーション:熟練の薬師によって生成された最高級の解毒ポーション。軽度~中等度の毒ならばすぐに打ち消してしまう。薫りはエレガントで、酸味と果実味のバランスが取れた上品な味わい。これぞキング・オブ・解毒ポーション。

 付与効果:《おいしいA+》《解毒効果増強S+》《解毒速度増加S+》


 おいしいのか。

 色合いから考えると信じがたいが、【鑑定】がうそをつくとも思えない。

 意を決して、解毒ポーションを飲んでみる。

「案外うまいな」

 たとえるなら高級なブドウジュースだろうか。すっきりした酸味と果実っぽい甘味。このふたつがほどよくマッチして、上質な味わいを生み出している。【鑑定】の説明どおり、というわけだ。

 疑ってゴメン。

 そんな俺への天罰……というわけではないだろうが、魔物に遭遇した。

「グルルルルルルルル……」

 そいつはオオカミのような姿をしており、血走った眼をこちらに向けていた。

 もしかして討伐対象のロンリーウルフだろうか?

 確認のために【鑑定】を発動させる。


 ロンリーウルフ(オス):孤独を好む狼型の魔物。発情期にはつがいを作るが、メスが妊娠すると逃げる


 非常にコメントに困るが、メスが妊娠すると逃げるのはどうかと思う。男なら責任を取れ。

 まあ、それは冗談として──

「討伐対象が来てくれたんだから、逃す手はないよな」

 俺は【アイテムボックス】から武器を取り出す。

 今回はヒキノの木剣を使うことにした。

 付与効果は《斬撃強化S+》と《強度強化A》だが、果たしてどれくらいの切れ味なのだろう。

 木剣を構えて【器用の極意】を発動させる。

 俺が世界最強の剣士へと切り替わった直後、ロンリーウルフがたけびをあげて襲い掛かってきた。

「ガァッ!」

「はああああああっ!」

 俺はロンリーウルフの突撃を横に避けながら、剣を横一文字に振り抜いた。

 それは完全なカウンターだった。

 木剣は遠心力を味方につけ、最も速度の乗った状態でロンリーウルフを斬り裂く。

 ロンリーウルフは上下真っ二つとなり、そのまま地面に転がった。

「……すごい切れ味だな」

 金属の剣と同じくらい、いや、それ以上かもしれない。

 木剣とは思えない鋭さだ。

 おっと、驚いている場合じゃない。

 ロンリーウルフの死骸を回収しておこう。

 毛皮を持っていけば追加報酬になるしな。

「クエスト達成まで残り四体か。……あんまり強くないし、まとめて出てきても対処できそうだな」

 と、俺が軽い調子でつぶやいたときだった。

「「「「「グルルルルルル……!」」」」」

 複数のうなり声が、あちこちから聞こえてきた。

 ほどなくしてロンリーウルフの群れに囲まれてしまう。

 その数は十二匹。けっこう多い。

「ロンリーウルフってのは単独行動するものじゃないのか?」

 物事には例外がつきものだし、俺の知らない生態があるのかもしれない。

 いずれにせよ考えるのは後回しにして、この戦いに集中しよう。

「「「「「ガァァァァァァッ!」」」」」

 ロンリーウルフたちは一斉に襲い掛かってくる。

 ただの駆け出し冒険者ならば間違いなく命を落としていただろう。

 だが、ここでも【器用の極意】が役に立った。

「おおおおおおおおおっ!」

 俺はまず真正面のロンリーウルフに斬りかかると、その首をねた。

 飛沫しぶきが飛び散り、同時に、脳内に無機質な声が響く。


 今回の経験値取得によりレベル9になりました。HP、MPが増加、身体能力が向上します。

 規定レベルに達したため、新たなスキル──【自動収集】が解放されました


 ……んん?

 スキルが増えた?

 この世界の常識に当てはめるなら絶対にありえない話だが、転移者特典のようなものだろう。

 【フルアシスト】が自動で発動して、【自動収集】の特徴を脳にインプットしてくれる。

 これは魔物の死骸を【アイテムボックス】に自動で収納してくれるスキルのようだ。

 さっそく発動させてみると、ロンリーウルフの首と胴体がパッと消えた。

 【アイテムボックス】のリストには『ロンリーウルフの死骸×一』が追加されていた。

 死骸を回収する手間が省けるので非常にありがたい。

 続いて、二匹目。

 すぐそばに迫っていたロンリーウルフに対して刺突を繰り出す。

 頭から尻尾まで串刺しにされたロンリーウルフは即死し、【アイテムボックス】に回収された。

 三匹目と四匹目を撫で斬りにしたあと、木剣を左手一本で持ち、右手を使って【アイテムボックス】からヒキノのおのを取り出した。

「もらった!」

 五匹目はやや距離を取ってこちらの様子をうかがっていたので、ヒキノの木〓を投げつける。

 木斧はブーメランのように回転しながら飛び、ロンリーウルフの首を刎ね飛ばした。

 六匹目、七匹目、八匹目──。

 一匹一匹は弱いが、数だけはやたら多い。

 ロンリーウルフたちは仲間が次々と殺されているにもかかわらず、何かに駆り立てられるように襲い掛かってくる。最初の十二匹を倒したあとも、続々と新たなロンリーウルフが現れた。

 いったいどうなってるんだ?

 今日はロンリーウルフのバーゲンセールか?

「……ッ!」

 途中からは、もう、ほとんど反射で動いていた。

 どれだけのロンリーウルフを倒したのか分からない。

 不思議なことに、疲れはほとんど感じなかった。

 ときどきレベルアップを知らせる声が聞こえてきては、フッ、と動きが軽くなる。

 身体能力が向上しているのだろう。

「これで、ラスト!」

 最後の一匹を斬り伏せる。

 一息ついてから【アイテムボックス】を確認すると、ロンリーウルフの死骸が二千個以上もストックされていた。

「ロンリーのくせにとんでもない大群だったな……」

 まるで山じゅうのロンリーウルフが俺をめがけて飛び込んできたような印象だった。

 どう考えても異常事態だし、冒険者ギルドに戻って報告しておいたほうがよさそうだ。

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