第五話 先輩冒険者と初めてのクエストを受けてみた。 (2)
アイリスはしばらくのあいだキョトンとしていたが、やがてクスリと小さく笑った。
「そこまで
「分かりました……いや、分かった。山暮らしが長いせいで常識には疎いんだ。他にもおかしな点があれば遠慮なく言ってくれ」
俺がそう告げると、補足するようにミリアが口を開いた。
「コウさんは常識外れの実力者ですけど、常識知らずの山育ちなんです。……アイリスさんも人族の土地に来たばかりのころは常識の違いで色々と大変だったと思いますし、そのあたりを踏まえての指導をよろしくお願いします」
「……そういう事情なら、確かにあたしが適任でしょうね」
アイリスは納得したように
俺はというと、ミリアに少しだけ感心していた。
ミリアは軽いノリでアイリスを連れてきたが、決して適当に選んだのではなく、きっちりとした理由があったわけだ。
お調子者に見せかけて、仕事はきっちりこなすタイプなのだろう。
そういう人間は嫌いじゃない。むしろ好ましく感じる。
俺は少しだけいい気分になりながら、初めてのクエストを受注するのだった。
〓
俺はミリアに見送られ、冒険者ギルドの外に出た。
もちろんアイリスも一緒だ。
「コウ、最初に何をするべきか分かる?」
「まずは情報収集だな」
俺はゲームをプレイするとき、まずは攻略サイトを探してブックマークするタイプだ。
「周辺の地図も欲しいし、どこにどんな魔物が出現するかも知っておきたい。それから、ナオセ草がどんな見た目で、どういう場所に多く生えているのかも調べないとな」
「正解よ。きっちり準備を整えておけば、それはクエストの結果として返ってくるわ。……さすが期待の大型新人ね。普通、ここまでスラスラ答えられないもの」
「過大評価だよ。少し考えれば誰でも分かる」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。周辺地図や魔物の分布だったら簡単に調べられるわ。ギルドに登録したとき、規約の小冊子を
「これか?」
俺は【アイテムボックス】から小冊子を取り出す。
「その後半部はまるごと資料になっているの。オーネンで冒険者をやるにあたって必要なことはすべて書いてあるわ」
「へえ……どれどれ」
俺は小冊子をパラパラとめくってみる。
前半部はギルドの規約がずらずらと羅列されていたが、後半部は『付録一:オーネン周辺地図』『付録二:オーネン周辺で採取できる素材について』などなど、今の俺が必要とする情報がコンパクトにまとまっていた。今回のクエスト対象……ナオセ草のスケッチや分布も書いてある。
「まるで攻略本だな」
「コウリャクボン? 何かしら、それ」
「気にしないでくれ。地元の方言みたいなものだ。……ともあれ、この付録はありがたいな」
「ちなみにそれ、ミリアが一人で作ったのよ」
「ミリアが?」
ちょっと意外だった。
付録はとても丁寧に作られており、あのお調子者なミリアのイメージとはうまく結びつかない。
「あの子、もともとの所属は王都のギルド本部よ。でも、オーネン支部の立て直しのために今の支部長が呼び寄せたの」
「立て直し? ここの支部、そんなに危ない状況だったのか?」
「ギルドの雰囲気も暗かったし、経営状態もいまひとつだったわ。でも、新しい支部長とミリアが来てから、何もかもがガラッと変わったの。あの子、いずれ本部に戻ったら幹部になるでしょうし、今のうちから仲良くしておいたほうがいいでしょうね。……まあ、ミリアはあなたがお気に入りみたいだし、心配はないでしょうけど」
お気に入り? 俺が?
たしかにミリアは親切にしてくれているが、それは本人の性格というか、誰にでもあんな感じではないのだろうか。
「……まあ、それはともかくとして、情報収集はその付録で十分よ。細かい部分はあたしが実地で補足するわ。他にしておきたいことはある?」
「物資の調達かな。武器と
「だったら、今後のことも考えてひととおりのものを
「経歴詐称はしてないぞ」
ただ、ゲームはそれなりにプレイしているからな。その経験を応用しているだけだ。
冒険の前には回復アイテムをきっちり買い込んでおく。状態異常の対策も忘れずに。
すべてのRPGに通じるセオリーだ。
冒険者向けの店は一ヶ所に固まっているらしく、アイリスに連れていってもらうことになった。
そこは『冒険者通り』と呼ばれており、名前のとおり、武器屋や防具屋などが何軒も並んでいる。
こういうのを見ると、ここは異世界なんだな、とあらためて実感させられる。
元の世界じゃ絶対に出合えない光景だし、正直かなりワクワクしてきたぞ。
クエストが終わったら、一軒一軒、ゆっくり見物するのも悪くない。
俺はアイリスに案内され、冒険者に必要なものを揃えていった。
ロープ、
買ったそばから【アイテムボックス】に放り込んでいく。
アイリスに容量を訊かれたので無制限と答えたら、ものすごく驚かれた。
クロムさんも似たようなことを言っていたが、やはり普通の【アイテムボックス】は容量がとても小さいらしい。
「一般的な【アイテムボックス】は外れスキルとして扱われているわ。それよりも性能のいい魔導具がたくさんあるもの」
アイリスは腰にポーチをつけていたが、これは魔導具の一種であり、見た目よりもずっと多くのモノを収納できるらしい。異世界版、四次元なポケットというわけだ。
「あたしは
そう言ってアイリスはポーチから槍を取り出した。
長さはおよそ二メートル。普通に考えればポーチに入るはずのない物体だ。
「AランクやBランクの冒険者なら似たような魔導具をみんな持っているけど、さすがに容量無制限とはいかないわ。そういう意味じゃ、あなたの【アイテムボックス】は規格外ね」
他のスキルも色々とチート揃いだが、まあ、あえて自慢することでもないだろう。
準備も整ったことだし、そろそろクエストに出発しよう。
俺たちは街の南門から外に出た。
昨日は気付かなかったが、門から少し離れたあたりでは街の拡張工事が行われている。
トンカントンカンという
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