第四話 冒険者ギルドで登録試験を受けてみた。 (2)
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俺はミリアに案内され、地下の訓練場へと向かう。
すると、なぜか後ろから大勢の冒険者がゾロゾロとついてきた。
んん?
いったい何がどうなってるんだ……?
首を傾げていると、まわりのギャラリーたちの雑談が耳に入ってくる。
「『熊殺し』が登録試験を受けるんだって?」
「は? 冗談だろ? アーマード・ベアを一対一で倒せるようなバケモノが新人だって?」
「最近の若いヤツは人間離れしてやがるな……」
「せっかくだし、試験の見学に行こうぜ。アイツの実力も気になるしよ」
「今日の教官って……ああ、ギーセさんか」
「自称『アーマード・ベアより強い』男だな」
「けど、奴は本当にアーマード・ベアをぶっ殺してるんだろ?」
「どっちが強いのか楽しみだな……!」
「せっかくだから賭けないか? オレは『熊殺し』だ」
「おれもアイツが勝つと思うぜ!」
「おいおい、二人とも同じじゃ賭けが成立しないぜ」
ワイワイと盛り上がる冒険者たちを横目に、俺は小さくため息をついた。
おいおい、見世物じゃないんだぞ。
とはいえ「『熊殺し』VS自称『熊より強い』男」というのは面白そうな対戦カードだし、俺が冒険者の立場なら、きっと賭けに参加していただろう。
教官が来るまでのあいだに、ミリアが実技試験について教えてくれた。
「なんと! 実技試験では、教官に勝つ必要はないんです!」
ミリアはまるで深夜のショッピング番組みたいなテンションで語り始める。
本当に面白いな、この人。見ていて飽きない。
「冒険者として最低限度の実力さえ示せれば、教官に負けても大丈夫です。……まあ、コウさんなら普通に勝っちゃいそうな気がしますけどね」
「いいや、油断はしない。全力でいく」
俺は【アイテムボックス】からヒキノの
それは巨大なハンマーだった。
マトモに
俺はずっしりと重いハンマーを握る。
おそらく一〇〇㎏は超えているだろう。
だが、アーマード・ベア・アーマーの付与効果……《怪力S+》のおかげで、軽々と持ち上げることができた。
俺には【器用の極意】があるため、初めての武器でも達人のように使いこなせる。
とはいえ、一度くらいは武器の使い勝手を試しておきたい。
俺はハンマーを左肩でかつぐように構え……野球のバットみたいにフルスイングした。
ブウン!
その風圧はかなりのもので、まわりの冒険者たちがザワザワと騒ぎ始める。
「すげえ……! あんな重そうなハンマーを軽々と振り回すなんて……!」
「さすが『熊殺し』と呼ばれるだけのことはあるな」
「今日の教官、死んだな……」
気が付くと、訓練場はまるでお通夜みたいなムードが漂っていた。
教官が現れたのはそのタイミングだった。
中年の男性で、銀縁眼鏡をかけている。
「君がウワサの『熊殺し』くんか。なかなか強いらしいが、まだ若いな。上には上がいるということを教えてあげよう」
教官はそう言いながら眼鏡を外すと、訓練場の端に置いてある木剣を手に取った。
いかにもベテランっぽい風格を漂わせているし、きっと、かなりの実力者なんだろう。
これは油断できない相手だな。
俺と教官は、五メートルほどの距離を挟んで向かい合った。
周囲にはギャラリーがゾロゾロと集まっている。
「それではお二人とも、準備はよろしいですね!」
ミリアがノリノリで声をあげる。
「試験、開始です!」
俺はハンマーを担ぎ上げながら、教官の様子をうかがう。
教官のほうは木剣を正面に構えると、余裕の表情を浮かべてこう言った。
「これは勝負ではなく試験だ。君のほうから攻撃してくるといい」
「分かりました。では、お言葉に甘えて……!」
俺は地面を蹴って走りだすと、その勢いのまま、ハンマーを
だが、教官は後ろに飛び
「攻撃が大きすぎる。
教官はニヤリと笑みを浮かべると、反撃とばかりに木剣を振り下ろす。
──だが、それは俺の狙いどおりだ。
【アイテムボックス】を発動させ、ハンマーを収納する。
武器を手放したことで身体が軽くなった。
そのまま横に跳び、教官の斬撃をサッと
「……何だと!?」
教官が驚きに目を見開いた。
今がチャンスだ。
俺は【アイテムボックス】から再びハンマーを取り出すと、二度目のフルスイングを繰り出した。
カァン!
小気味いい音とともに、教官の木剣が中ほどで折れた。
上半分がくるくると宙に舞い──カラン、と地面に落ちる。
「それまでです!」
ミリアが元気よく声を響かせる。
「この勝負、コウさんの勝利です!」
試験場はしばらくのあいだ沈黙に包まれていたが、やがて、大きな歓声に包まれた。
「すげえ! あの新人、教官に勝っちまったぜ!」
「やるじゃねえか。さすが『熊殺し』だな!」
「面白い試合だったぜ!」
そんな中、教官は折れた木剣を置くと、にこやかな表情で近づいてくる。
「私の完敗だ。見事だったよ、コウくん」
「ありがとうございます。
「もちろんだとも。ところで、途中で使っていたスキルは【アイテムボックス】かな? あんな活用法があるとは思っていなかったよ。世界は広いな。ひとつ勉強になった。ありがとう」
教官はそう言って右手を差し出してきた。
俺も右手を伸ばして握手に応じる。
「試験は合格だ。君のこれからの活躍に期待している」
「コウさん、おめでとうございます! とっても格好よかったですよ!」
ミリアが声をあげると、他のギャラリーたちも拍手喝采で俺の合格を祝ってくれる。
こうして──。
にぎやかな歓迎ムードのなか、俺は冒険者としての一歩を踏み出すのだった。
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