第二章 夏がやってくる!

第二章 夏がやってくる!①



 東のクレセリア大陸、西のルナアルト大陸。


 どちらにも四季は存在する。


 我がクレアルド雑貨店は、クレセリア大陸中央部、聖クレセリア王国より少々南西に進んだ郊外にある。


 領地だけで言えば南西地域を治めるシルビア領だ。

 少々目の付きにくい場所にあるが、少し歩けば街道に出るし、背後にはシルビア領特有の大森林が存在感を放っている。


 元々商売繁盛を目指している訳ではないからこれでいいのだ。

 日々これ楽しく。

 それが俺、クレアルド・ノーティスのモットーだ。


「もうすぐ夏だなぁ」


 初夏の昼下がり、俺は珍しく店にいた。

 空調が効いている店内で在庫チェックをしている。

 いつもはリルに任せっきりだから、たまには自分でしないとな。


「そうですねぇ。今年はどうするんです?」


 そう言って話を進めているのが店員のリル・アルナーレだ。


 容姿端麗でスタイルも良い。

 今日はその金髪をゴムでまとめている。

 ポニーテールってやつ。似合ってる。


「そりゃもう毎年恒例のやつはしないと。浜辺でBBQは確定」


「それ自体は私も大賛成なんですけど、今年はフィーアとゼクスはいませんよ? 確か西に行ってるはずですから」


「あぁ…そっか。確かにそんな事言ってたわ。すっかり忘れてた」


 フィーアとゼクスは俺の弟子だ。今は俺から独立してペアで冒険者をしている。


「それなら今年は俺たち2人かぁ。くそ、荷物持ち兼暇潰し相手がいないとなると…どうしたもんか」


「私は2人でも構いませんけど…、そうだ! アンナさんとラウネさんを呼ぶのはどうですか?」


 アンナさんとラウネちゃんは先日に関わりがあった2人だ。あれから暇を見つけてはお店に遊びに来る程に、リルと2人は仲良くなっていた。


 特にアンナさんは俺たち2人によっぽど感謝をしているらしく、来る度にお土産を持って来てくれる。


「おぉ、それはナイスな提案。リルは友達2人と仲良く遊べる。俺は美女3人の水着姿を拝める。一度で二度美味しい素晴らしい提案」


「少しも欲望を隠さない所が素敵ですよ。後で王都に行ってアンナさんに聞いてみよっと」


「そっか、アンナさんは王立図書館で働いているんだっけか。うん、聞いてきて聞いてきて。店番は俺がしておくからさ」


 水着姿の為なら店番なんてなんのその。

 俺は利の為なら理を捨てるのだ。


「了解です! それでは少し遅いですけどお昼ご飯にしましょうか。何か食べたいもの…」


 リルがそう言いかけた時、外で魔導バイクが止まる音がした。

 元気の良い足音が近づいてくる。


 その元気の良い進行速度とは真逆に控えめに入口のドアが開かれた。


「こんにちはぁ! 2人ともいらっしゃいますかぁ」


「あら、ラウネさん。いらっしゃい。今日はどうしたの?」


 ラウネさんだ。アンナさんの妹。今日はどうしたんだろう。


「あ、リルさん! あの、今日はクレアルドさんはいらっしゃいますか? ちょっと相談したい事があって…」


「俺ならここにいるぞ。どうしたの」


「こんにちは、クレアルドさん! あ、珍しく仕事してる!」


「まぁたまにはね。リルに任せっきりなのも悪いから」


「おぉ、まともな発言をしている…!」


「店主なんだから当たり前なんですけどねぇ」


「店員が優秀すぎるからつい甘えちゃうんだよ、と。よし、在庫管理終わり」


「ありがとうございます。それでは休憩しましょうか。私はそのままお昼ご飯を用意するので、ラウネさんはその間に相談をしたらいいですよ。あ、ラウネさんはもうお昼は済みました?」


「あ、まだです! 一緒に食べてもいいですか?」


「勿論。では3人分ですね。では、リビングに行きましょうか。お茶を用意しますね」


「ありがとうリルさん! 大好き!」


 そう言ってリルに抱き着きながら階段を上がっていく2人。

 仲良くなったもんだ。アンナさんもいれば3人姉妹だな。


「それにしても、相談ってなにかね…?」


 俺は2人の後を追ってゆっくりと階段を上がっていく。

 ぐぅ、とお腹が鳴った。


「まぁ、とりあえず腹ごしらえだな。…今日は昼寝は諦めよう」



「はふ、ご馳走様でした! リルさん、今日もとても美味しかったです!」


「それはありがとうございます。食後のお茶はいかがですか?」


「ありがとうございます! いただきます!」


「リル、俺もお願い」


「はい、分かりました。3人分用意しますね」


 そう言って速やかに食器を片付けていくリル。

 その手際は正に百戦錬磨だ。


「んじゃラウネちゃん、さっき言ってた相談事はリルが戻ってからという事でもいい?」


「はい! 私は食器洗いを手伝ってくるので!」


 そう言ってキッチンの方へ駆け寄っていったラウネちゃん。


 もうすっかり慣れたもんだ。

 もしかするとアンナさんよりもこの家に馴染んでいるかもしれない。


 向こうで話が盛り上がっているようだ。

 俺はゆっくりと椅子にもたれかかり、一つ伸びをした。

 横になったら眠れそうだけれど、今日は我慢だ。


 そのまま10分程度経っただろうか、2人がリビングに戻ってくる。


「眠そうな顔をして。はい、ハーブティー」


「…あぁ、ありがとうリル」


「眠そうな顔もまたおっとこまえですねぇ」


「ダークエルフって種族に感謝だよ」


「いえいえ、何をおっしゃいますやら。クレアルドさんだからこそですよぉ」


「はいはい、ありがとう。それでラウネちゃん、相談事ってのは」


 俺は眠気覚ましにハーブティーを口に含む。

 あ、そうでした!と言い、ラウネちゃんは居住まいを正す。


「お姉ちゃんの胸を大きくしたいんですが、クレアルドさんなら何か良い方法知ってるかなと!」


 俺は口に含んだハーブティーを盛大に噴き出した。

 


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