第二章 夏がやってくる!②
「お姉ちゃんの胸を大きくしたいんですが、クレアルドさんなら何か良い方法知ってるかなと!」
「うわ! びっくりしたぁ! 急に噴き出さなくて下さいよぉ!」
「びっくり、したのは…こっちの方だ! そんなもん俺が知る訳ないだろ!」
ゴホゴホと咳き込みながらも何とか言葉を返す。
急に何を言い出すんだこのアホ娘は。
「もう、またテーブル拭かなくちゃいけないじゃないですか。ラウネさんも不躾が過ぎますよ」
ラウネちゃんを窘めつつキッチンに歩いていくリル。布巾でも取りに行くのだろう。
済まないリル。余計な仕事を増やした。
「うぅ、ごめんなさい。それでは順序立てて話していきますね」
「次からは最初からそうしてくれると助かる」
「分かりました! えっとですね、お姉ちゃんは今年で24歳な訳ですよ。それなのに男っ気が全く無し! そして私にべったり! これじゃ婚期を逃してしまいます! 顔立ちは身内の贔屓目なしに美人な方だと思うんですが…だとすればやっぱり胸かなと! 因みに私はそこそこあるから大丈夫!まだ20歳だし!」
むん、と胸を張るラウネちゃん。いやなんかもうラウネでいーや。
「アンナさんは美人で気立ても良いじゃないですか。スタイルも、確かに少し胸は控えめかもしれませんが、スラっと無駄のない体だと思いますよ」
キッチンから戻ってきたリルがテーブルを拭きながらそう返す。
うむ、その通りだ。
「リルの言う通りだ。一緒に働いている周りの男共の見る目がないんだよ。あぁ、でもこれからは違うだろうな」
「お、と言いますと?」
「俺とリルはアンナさんと知り合ったのは最近だから昔の事は知らないけどな。きっとそんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「むぅ、答えになってませんけどぉ」
「クレアさんの言う通りです。きっと大丈夫ですよ」
「リルさんまでぇ。でもまぁお2人が言うなら大丈夫か。でもせめて、私にべったりなのはどうにかならないのかなぁ…」
そう言って考え込むラウネちゃん。
「あぁ…それはまぁ…しばらくは許してやれば…?」
「そうですよ、そうそう」
「…むぅぅ、まぁいいですけどぉ」
「ハーブティーまだあるけど飲む?」
「いただきます!」
流石はリルのハーブティー。めんどくさくなりそうな戦況をひっくり返した。
いや、このアホ娘が何も考えてないだけかも。
分からん。
「ラウネさん、今度私たちと海に行きませんか? 勿論アンナさんも誘って。旅費とかは気にしなくて良いし、食費も勿論。どう?」
アンナさんの胸改造計画は無事日の目を見ることなく終わった昼下がりの午後、先程店内でしていた話をリルが切り出した。
「おぉ! なんですかその面白計画は! 行きます行きます是非行きます! お姉ちゃんもきっと大丈夫ですよ!」
両手を上げて喜ぶラウネちゃん。
おぉ、確かにそこそこある。
「それは良かった。それじゃあ良かったらラウネちゃんも一緒に今から王都へ行かない? アンナさんももうすぐお仕事が終わる頃だろうし、もしアンナさんが大丈夫だったらそのままお買い物に行きましょう」
「素敵ですリルさん! では早速行きましょう!」
「俺は昼寝するからパス」
「そう言うと思ってました。ではラウネさん、行きましょうか」
「えー、クレアルドさんは行かないんですか? 折角両手に花が出来ると思ってたのにぃ」
「それはこっちのセリフだよ。でも眠いから行かない」
「こうなったら梃子でも動きませんから気にせず行きましょう。クレアさん、夕飯は少し遅くなりそうですが大丈夫ですか?」
「問題ないよ。いってらっしゃい」
そう言って俺はリビング奥のソファに寝転がる。
そのまま手をひらひらと振った。
「それはとても楽しそうですね。海、行った事ないから楽しみです」
夕方、仕事が終わって図書館を出てくるアンナさんと合流して、いきさつを話した。
アンナさんは快諾。
とりあえずそのまま流れでモンドカフェに行くところだ。
「リルさん、買い物に行くって言ってたけど、何を買うの? 今日のご飯の食材?」
ラウネさんがフルーツタルトを食べながら聞いてきた。
私はデラパフェではなく普通のパフェ、アンナさんはショートケーキを食べている。
「いえいえ、今日の夕飯の心配は無用です。それより、海に行くとなれば世の女性が必ず用意しないといけないものがあります」
「…あ、分かりました。もしかして…水着ですか?」
「流石はアンナさん。ご名答です。私は毎年恒例で行っていますので去年のと同じでも良いんですが、それだと趣が欠けていますので」
「なるほど、水着かぁ…。しばらく着てないなぁ…。海なんて滅多にいかないもんね、お姉ちゃん」
「ええ、そうね。…そうね、良い機会だから私たちも新着しましょうか」
「おぉ、お姉ちゃん乗り気だね!」
「リルさんとクレアルドさんからのお誘いだもの、断る事なんてありえないわよ。リルさん、どこか良いお店を知っていますか? 恥ずかしながら私はそこまで王都に詳しくないもので…」
それはそうだろう。今までは仕事をしてすぐ帰るの連続だったはずだ。
何かを楽しむという事を心のどこかで制限していたのかもしれない。
でもそこに触れる事はない。
これからが大切なのだ。
図らずに手に入った、この奇跡のような今を。
「私の知り合いがお店をしているので、毎年私はそこで買っていますよ。良かったら2人ともそこで。品揃えは保証しますよ」
「リルさんのお友達のお店なら心配ないね! 俄然楽しみになってきたぁ!」
「私も楽しみです。そのお知り合いの方も、良かったら紹介して下さい」
「もちろん。私の友達だからきっと割引もしてくれますよ。さ、行きましょう」
いつ食べても美味しいし居心地の良いこの場所は、どこか席を立てない魅力がある。
それを勢いのままに断ち切って、私たちはモンドカフェを後にした。
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