第6話 再死
放課後、サナと別れた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなっていた。
——好きにならない理由のほうが少ない。
その言葉がすべてだった。
サナは明るい。面倒見がよくて、優しくて、本人は気づいてないけどちょっと天然で、でも努力家で——
そして何より、俺のことをちゃんと見てくれる。
だからこそ、あの日の“死”はあまりに理不尽だった。
◆
そしてその夜。
俺の世界は突然終わった。
校舎の老朽化した設備が崩れ落ち、サナが巻き込まれた。
救急車のサイレン。泣き崩れるクラスメイト。
俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。
手が震えて、息が掠れて、でも涙は出なかった。
あまりにも理解が追いつかなくて。
そして——気づけば、俺はベッドの上だった。
時刻は一週間前。
季節の匂いも、家の気温も、スマホの通知も——全部一週間前のまま。
俺は“時間を戻した”。
大切な人との思い出を代償にして。
◆
その翌日、学校でサナに会ったとき、息が止まった。
「あ、蓮。何その顔、寝不足?」
笑ってる。生きてる。
それだけで胸が痛いほど嬉しかった。
「あのさ、今日の帰り……俺と——」
「ごめん!今日ね、図書委員のミーティングあるの!放課後また!」
駆けていくサナの背中が、妙に遠く見えた。
◆
そして放課後。
俺は校内の危険個所を避けてサナを誘導しようと必死だった。
時間を変え、ルートを変え、人混みも避けた。
警戒しすぎて息が荒くなるほどだった。
「蓮、どうしたの?そんなに急がなくても——」
言い終わる前だった。
バキンッ!
耳を裂く金属音。
今度は廊下じゃなかった。
体育倉庫の上部から古い備品が崩れ落ちた。
サナが振り向く。
俺が手を伸ばす——間に合わない。
鈍い衝撃音。
悲鳴。
サナが倒れ、血が指先に滴る。
その景色は一週間前と“構造だけ同じで場所が違った”。
世界が、俺の介入を回避するように死の位置をズラしたみたいに。
「サナ……!サナっ!!」
だが結果は変わらない。
救急車のサイレン。
誰かの泣き声。
音が遠のき、視界が霞む。
——そして、世界が反転した。
◆
目が覚めたとき、俺はまたベッドの上だった。
カーテンの揺れ方も、スマホの通知も、呼吸するような生活音も全部同じ。
だけど一つだけ違うものがあった。
一瞬だけ、サナとの思い出がひとつ抜けた感覚。
それは“忘れる”とは違う。
頭の隙間からこぼれ落ちていくみたいな喪失感。
胸のあたりにぽっかり穴があくような冷たさだけを残して。
俺は悟った。
好きにならない理由の方が少ない女の子を、世界は簡単に殺してくる。
そしてもう一つ。
世界は俺が守ろうとした分だけ、死因を変えてくる。
それに対抗するためには、たぶん何十回でも戻るんだろう。
それでもいい。
代償があってもいい。
思い出なんか全部くれてやる。
ただひとつだけ。
「サナを、救う」
それだけが俺の全部だ。
この瞬間から、俺の戦いは始まった。
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