第6話 再死

放課後、サナと別れた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなっていた。


 ——好きにならない理由のほうが少ない。


 その言葉がすべてだった。


 サナは明るい。面倒見がよくて、優しくて、本人は気づいてないけどちょっと天然で、でも努力家で——

 そして何より、俺のことをちゃんと見てくれる。


 だからこそ、あの日の“死”はあまりに理不尽だった。



 そしてその夜。

 俺の世界は突然終わった。


 校舎の老朽化した設備が崩れ落ち、サナが巻き込まれた。

 救急車のサイレン。泣き崩れるクラスメイト。

 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。


 手が震えて、息が掠れて、でも涙は出なかった。

 あまりにも理解が追いつかなくて。


 そして——気づけば、俺はベッドの上だった。


 時刻は一週間前。

 季節の匂いも、家の気温も、スマホの通知も——全部一週間前のまま。


 俺は“時間を戻した”。


 大切な人との思い出を代償にして。



 その翌日、学校でサナに会ったとき、息が止まった。


「あ、蓮。何その顔、寝不足?」


 笑ってる。生きてる。


 それだけで胸が痛いほど嬉しかった。


「あのさ、今日の帰り……俺と——」


「ごめん!今日ね、図書委員のミーティングあるの!放課後また!」


 駆けていくサナの背中が、妙に遠く見えた。



 そして放課後。

 俺は校内の危険個所を避けてサナを誘導しようと必死だった。


 時間を変え、ルートを変え、人混みも避けた。

 警戒しすぎて息が荒くなるほどだった。


「蓮、どうしたの?そんなに急がなくても——」


 言い終わる前だった。


 バキンッ!


 耳を裂く金属音。

 今度は廊下じゃなかった。

 体育倉庫の上部から古い備品が崩れ落ちた。


 サナが振り向く。

 俺が手を伸ばす——間に合わない。


 鈍い衝撃音。

 悲鳴。


 サナが倒れ、血が指先に滴る。

 その景色は一週間前と“構造だけ同じで場所が違った”。


 世界が、俺の介入を回避するように死の位置をズラしたみたいに。


「サナ……!サナっ!!」


 だが結果は変わらない。

 救急車のサイレン。

 誰かの泣き声。


 音が遠のき、視界が霞む。


 ——そして、世界が反転した。



 目が覚めたとき、俺はまたベッドの上だった。


 カーテンの揺れ方も、スマホの通知も、呼吸するような生活音も全部同じ。


 だけど一つだけ違うものがあった。


 一瞬だけ、サナとの思い出がひとつ抜けた感覚。


 それは“忘れる”とは違う。

 頭の隙間からこぼれ落ちていくみたいな喪失感。


 胸のあたりにぽっかり穴があくような冷たさだけを残して。


 俺は悟った。


 好きにならない理由の方が少ない女の子を、世界は簡単に殺してくる。


 そしてもう一つ。


 世界は俺が守ろうとした分だけ、死因を変えてくる。


 それに対抗するためには、たぶん何十回でも戻るんだろう。


 それでもいい。

 代償があってもいい。

 思い出なんか全部くれてやる。


 ただひとつだけ。


「サナを、救う」


 それだけが俺の全部だ。


 この瞬間から、俺の戦いは始まった。

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