星空を見上げながら引っ付くお姉さん

 隆久と真白が温泉でイチャイチャしている頃、隆久の実家である工藤家には母の咲奈はもちろんフィリアの姿があった。母親である二人が揃って話をすることといえば当然、愛する息子と娘のことについてである。


「今頃二人は何をしてるのかしらね」

「この時間帯だとお風呂かしら。混浴で色々お楽しみなんじゃない?」


 フィリアの言葉に咲奈は少し顔を赤くしたが、あの二人ならあり得そうねと苦笑するのだった。少しばかりお酒を飲んで顔が赤い咲奈、彼女は彼女で今になって少しばかりフィリアに聞きたいことがあった。


「真白ちゃんが配信者になるって言った時、フィリアはどう思ったの?」

「私? そうねぇ、別にいいんじゃないって言ったわ」


 フィリアは目を閉じて過去を思い返す。

 別に配信というものをすることは本人の自由なので、隠されていたとしても特に何も言うつもりはなかった。ネットというものが絡む以上何かしらの危険が潜んでいないわけではない、それでも真白ならその辺りのことも気を付けてくれるだろうという信頼があったのだ。


「まあ胸元を少しはだけさせて配信をするのはどうかとは思ったけど、あれであの子は好きな人に一途だからあくまで商売道具としか考えてなかったし……ふふ、今有名になっているあの子のことを考えればそのやり方は正しかったんでしょうねぇ」

「なるほどね」


 それにと、フィリアは続けた。


「もしも何かが起きて真白に危害を加える人が居たなら、私と夫が決して許さないわよ。えぇ絶対に」


 フィリアの目は本気であり、本当にそんな人が居たなら容赦はしないという意思を感じさせた。長年の親友である咲奈も、そんな目をしたフィリアを怖いと思ってしまうほどに。とはいえ、咲奈も自分の愛する息子である隆久が同じ目に遭うのだとしたらきっとフィリアと同じ目をするのだろうが。


「私も咲奈に聞きたいのだけど、よくたか君をあの変態娘に預けることを許してくれたわね?」

「変態娘って……あなたの娘でしょうに」


 咲奈から見た真白はフィリアの血を色濃く継いでいる美しい娘だ。テレビや雑誌でよく見るアイドルたちでは相手にならないほどの美貌とスタイル、まだ若いのにこんな子が居るんだなと初対面は驚いたものだ。しかし、そんな子が隆久にこれでもかと愛を語る姿は“素晴らしかった”……まあ簡単に言うと、隆久好き好きオーラがいい意味で咲奈とシンクロしたのである。


『咲奈さん! 私、たか君が凄く好きなんです! いいえ、愛していると言っても過言ではありません! たか君の魅力、可愛らしさ、もっともっと私に教えてはくれませんでしょうか!?」

『そんなに隆久のことを……いいでしょう真白ちゃん! 隆久のことを語ると一日では終わらないわ! 時間はどうなのかしら!?』

『明日から土日、万事大丈夫であります!』

『良く言ったわ付いてきなさい!』

『はい!!』


 当時は本当に馬鹿だったなと今更ながら少し反省した咲奈だった。


「でも可愛い子じゃない真白ちゃん」

「可愛いのはそうなんだけど……でもあの子ったら恋愛に関しては猪突猛進だし誘惑も結構度が過ぎてるし」


 そこまで聞いて咲奈はおやっと首を傾げた。真白のことについて言葉が止まらないフィリアの声を遮るように咲奈は声を上げた。


「フィリア、あなたも真白ちゃんと似たような……いえ、真白ちゃんよりも色々と過激な誘惑をしたと勇元さんから聞いたのだけど?」

「っ!?」


 何故それを、まるで雷が背後に落ちたような衝撃を受けたフィリアの様子だ。酒が入っていた時だが、勇元からフィリアと出会った頃の話を咲奈は聞いたことがあったのだ。フィリアが勇元に一目惚れをしたというのは周知のことだが、そこからの誘惑は凄まじかったと勇元は語っていた。


「い、いや違うのよ? ただ一緒にお風呂に入っておっぱいを押し付けたりしただけだし? 胸元をはだけさせてこれでもかと意識させただけだし?」

「ギルティ」


 この母にして娘あり、呆れたように咲奈はそう思うのだった。






「くしゅん!」

「風邪ですか?」


 綺麗な星空を望める露天風呂にて、真白さんがくしゃみをした。少し前に風邪で寝込んだのもあって、くしゃみという些細なことでも真白さんの体調を心配してしまうのは仕方ないことだ。


「ううん、きっと誰かが噂してるんでしょうねぇ」


 真白さんのことを噂する人はたくさん居そうだなぁ、なんてことを思いながら俺は真っ直ぐに空を見つめている。あ、あれは何の星座だろう。オリオン座って見えるんだっけ?


「綺麗な星空の下、愛する人と裸で温泉……うふふ、空の上の神様たちも私たちのイチャラブにはきっと嫉妬しまくりね♪」

「それは……」

「ほらたか君、ぷにぷにしてるでしょ?」

「……あい」

「ああもう可愛いなぁ本当に!! もっと引っ付いちゃう!」


 むぎゅっと、もっと強く背後から抱き着かれた。

 さっき何の星座だろうかとか考えていたけど、無理やりにでも意識を逸らしている理由はこれだった。背後から体を押し付けるように抱き着く真白さん、流石に温泉ということもあって俺も色々と我慢しているのだ。それはもう必死に、必死に抑えつけているのである。


「ま、今我慢したところでお布団に行けば同じことよ~♪」

「分かってますよ。分かってますけども!」


 くぅ! 嬉しいと思う俺よ自重しろ馬鹿野郎!

 真白さんの胸だけでなく、回されている腕のスベスベ感も気持ちがいい。肩に顎を置くようにしているのだが、こうしていると真白さんの存在をこれでもかと感じれて幸せにもなれる……おのれ真白さん、どれだけ俺のツボを押さえているというんだ!


「……あ、流れ星よ」

「マジですか?」


 咄嗟のことだったので見逃してしまった。


「三回もお願いを言うなんて無理よねぇ。まあでも、私の願いはもう叶ってるから必要はないかしら。たか君と恋人になりたい、もうそれは実現したから」


 クスッと笑みを浮かべた真白さんに俺も自然と笑みが零れた。

 そうだな……それなら、俺はこう願うことにしよう――真白さんとこれからもずっと一緒に居られますようにって。


「私と一緒に居られるように、なんてお願いでもしたの?」

「はい。まあ、何も心配はないと思いますけどね」

「それはそうよ。私とたか君なのよ? ずっと一緒に決まってるわ♪」


 俺はもう一度空を見上げた。

 満天の星空が俺たちを見下ろしている。本当に綺麗な空の光景だ。俺は真白さんの手に自分の手を重ね、こう呟くのだった。


「真白さん、これからもずっと……何年経っても一緒にこの星空を見ましょう。いつまでも」

「……ふふ、えぇ」


 そうして自然に近づくお互いの顔、俺たちは最後にキスをしてから温泉を後にするのだった。部屋に戻ると既に夕食の準備がされており、海の幸をふんだんに使用した料理が俺たちを出迎えた。


「おぉすげえ」

「これは美味しそうね」


 お互いにお腹は減っているようで、少しだけ腹の虫が鳴った。早速食べようかとお互いに腰を下ろし、向かい合って料理に箸を付けるのだった。


「……しかし」


 思えば浴衣姿の真白さんというのは初めて見たかもしれない。俺の視線の先で美味しそうにご飯を食べる真白さんだが、お風呂上りというのもあるし浴衣というゆったりとした姿なのもあってなんというか……とてもエッチな気がする。

 本当に何を着てもエッチだなと、俺は決して声には出さず心の中で呟くのだった。


「パソコンはないけどスマホがあれば配信が出来るなんて便利になったわよね」


 夕飯を済ませた後、旅先レポートということでスマホを使って生配信をするとのことだ。この浴衣姿の真白さんを見てまた変な人たちが沸かないか不安だが、まあ大丈夫だろう。

 あぁそうそう、SNSを見て気づいたのだがマイカーさんも俺たちと同じように家族揃って旅行に出かけているらしい。温泉が素晴らしかったとか、夕飯が凄く美味しかったなんて呟いていたけどもしかしたら俺たちと同じようにどこかの旅館に泊まっているのかもな。


「それじゃあ少しだけ配信をするわね。たか君はどうする?」

「俺は近くで見守ってますね」

「分かったわ♪」


 三十分程度の配信予定、俺は真白さんの傍で見守ることにしよう。

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